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健康かながわ

安全でおいしい水

あなたは水道を使っていますか。水道水を飲んでいますか。味やにおいはどうですか。最近は水道水の安全性に関心が寄せられています。家庭で浄水器を使用されている方も少なくありません。安全な水と思っていても日常生活の中で容器入りの飲料が周辺に溢れています。今回は小林康彦・全国給水衛生検査協会会長に寄稿いただきました。

水と健康

朝起きたときや入浴後の水は健康増進に役立つと言われています。一方、冷たい水を飲んで下痢をされる方もおられます。水と健康の関係は多くの方が話題にされています。水を介して健康を損ねた事例を数多く経験してきました。

①水系伝染病
コレラ、チフス、赤痢などの病原菌や病原性ウイルスにより汚染された水を摂取することにより発症、ときに死亡に至ります。
レジオネラ種のバクテリアは大型空調設備の水の中で増殖し、このバクテリアを含む水分が霧散して気管系を通じて侵入します。最近は循環式の浴槽での感染が関心を集めています。

②水棲生物に起因する疾病
淡水中に生存する寄生虫の幼虫が濡れた皮膚を通じて人体に入り込んだり(住血吸虫)、水性植物、甲殻類または魚などを生で食べたりするときに摂取したり(肝ジストマ)、極く小さな水性甲殻類(ケンミジンコ類)から感染したり、飲み込んだりして(ドラクンクルス症)発症します。

③化学物質による健康障害
水銀、カドミウム、鉛などの健康影響に加え、塩素消毒により生成するトリハロメタンなどの副生成物、トリクロロエチレンなど有機溶剤による汚染、硝酸性窒素の増加、さらに、近年、中国、インドをはじめ地下水中の濃度が増加し健康被害を生じている砒素、また地下水の塩水化など、化学物質による健康への影響が懸念されています。ダイオキシン類は水に溶けにくいためもあり、水道では深刻な問題にはなっていませんが、内分泌撹乱化学物質いわゆる環境ホルモンへの注視を怠ることはできません。

安全な水と水質基準

安全な水とはどんな水でしょうか。水道水は「人の飲用に適する水」とされていますから、水道水の水質基準が登場します。「水道法」では ①病原生物に汚染されていないこと。 ②シアン、水銀等の有害物質を含まないこと。 ③銅、鉄、フッ素、フェノール等を許容量をこえて含まないこと。 ④異常な酸性またはアルカリ性を呈しないこと。 ⑤異常な臭味がないこと。ただし、消毒による臭味を除く。 ⑥外観は、ほとんど無色透明であること。 と規定し、その具体的内容は省令で定めています。

現在、46項目について基準が示されています。さらに、おいしい水など、より質の高い水道水の目標となる「快適水質項目」13項目、体系的・組織的な監視により検出状況を把握すべき「監視項目」35項目、「ゴルフ場使用農薬」26項目が定められ、合計120項目が示されています。近く、鉛の基準が強化されることになりました。
これだけ数多くの項目をクリアーすれば、通常の状態では「安全」といってよいでしょう。しかし、基準にない毒物が投入されたら、安全な水とは言い切れません。

適切な管理が不可欠

便利で安全な水道も、管理を誤ると、逆に伝染病を広げる凶器に転じます。1999年長崎総合科学大学における赤痢の集団感染は死者こそなかったものの、有症者821人、入院者346人にのぼる大規模なものでした。水源井戸が赤痢菌に汚染され、施設の管理の不備により塩素消毒されないまま給水されたために起こった事故です。これを契機に、2001年の水道法改正で、給水人口が少なくても規模の大きな給水施設は専用水道として規制されることになりました。

最近の水道の水質問題

水道水の水質は世界的な関心事です。

①トリハロメタン
トリハロメタンは1972年オランダで水道水中に検出され、ついで米国で発がん性が指摘されてから、一気に水道の世界的課題となりました。消毒に用いる塩素による副生成物です。発生抑制、除去のための技術的対応が検討され実施に移されています。

②クリプトスポリジュウム
クリプトスポリジュウムはその原虫が1970年代、牛で見つかりました。飲料水を経由して一般の人への感染症として注目され始めたのは、1984年以来です。1993年ミルウオ―キーの水道で40万人を越える患者の発生があり、400の死者が出たと報告されてから、欧米の水道では大きな課題となっていました。我が国では、1994年、平塚市の雑居ビルの受水槽に汚水が混入し、有症者461人、医療関係受診者77人、入院者5人、死者なし、の集団感染が発生しました。
1996年6月、埼玉県越生町の上水道事業で有症者が町民の約70%にあたる8,812人、医療機関受診者は2,878人、入院者24人、死者なし、という大規模な集団感染が発生しました。浄水場の管理が十分でなく、水道原水に含まれるクリプトスポリジュウムが、浄水処理過程で除去されずに給水されたための発生とされています。

厚生労働省は「暫定対策指針」を策定し、ろ過濁度が0.1度以下になるよう浄水するよう指導し、さらに、膜ろ過設備へ国庫補助を行っています。検査方法、汚染が疑われた場合の対応、万一感染症が発生した場合の対策など、引き続き検討が行われています。

おいしい水

大都市地域を中心にかなりの地域で水道水の臭味の評判は芳しくありませんでした。原水の水質が劣化し、そのため浄水処理に多量の薬品を使い、さらに安全のために塩素を多めに使うため、においを生じたり、口に含んだときの味が悪かったり、水道水がまずいということになります。さらに家屋内の給水設備が老朽化していたり、貯水槽の構造や管理が適切でなく、水質を劣化させています。

水の味は、水質だけでなく、水の温度、飲むときの状態などでも、左右されますが、水道水をおいしくする努力が積極的に講じられてきました。浄水プロセスを工夫して塩素の使用量を抑え、活性炭処理やオゾン処理など高度浄水処理の採用など、水道側の対策が進んでいます。給水設備の管理もおいしい水の観点からの課題でもあります。

一番肝心なことは水道原水の水質保全です。清浄な原水が安全でおいしい水道水のための必須条件であります。  安全でおいしい水のために情報開示と住民参加、関係者の役割分担と連携、さらに今後は公共セクターと民間セクターのパートナーシップのあり方を追求しながら総合的な取組みが求められています。

(健康かながわ2002年5月号)
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