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健康かながわ

食品の安全を考える

食品の安全性が毎日のようにテレビや新聞に取り上げられている。そのような報道を見ていると我々にとって安全な食べ物などは日本中どこにもないのではないかと不安になる。毎日のお弁当やお惣菜の中に無許可の食品添加物が入っていたり、冷凍食品には残量農薬が基準の何倍もついているからである。
しかし、普段食べている食品成分や食品添加物はそんなに心配することはないようである。今回は「食品の安全性を科学的に考える」をテーマに、西島基弘・実践女子大学教授(薬学博士)に寄稿いただいた。

食品の安全性を科学的に考える

毎日食べている食品は安全で、安心して食べられるものでなければならないことは当然です。しかし、食品の安全性に危惧を持っている消費者が大勢います。なぜ不安を持っている消費者が多いのでしょうか。
最近の食品に関する問題を振り返ってみると、平成12年頃には異物混入で多くの食品メーカーがお詫びと回収騒ぎでマスコミをにぎわしました。 そのほとぼりが冷めてきたなと思ったとたん、今度は食品添加物や残留農薬に係わる一連の問題。またまた新聞に掲載されたお詫び広告の多さには誰もが驚きました。これらは幸いにも危害が出ない量であったものの、こんなに多くの問題が提起されては消費者が食品に関して不安を持つのも当然です。

ここで食品添加物の安全性について冷静に考えてみたいと思います。

①食品って何だろう
食品の安全性を考えるとき、重要なのは"食品とは何か"を考えることです。テレビで開発途上国の人達がものを食べている光景を見ると、日本人の大半が口にしないような爬虫類や昆虫を美味しそうに食べています。また、そこには多くの蝿が食べているものに集っていてもいっこうに気にする気配もなくにこにこしています。我々も海鼠(なまこ)や蛸など、欧米人が気持ち悪がるようなものを美味しく食べています。

食品とは、難しく言うと「生命を維持するために口から摂取するもので、医薬品ではないもの」というような味もそっけもない話になります。しかし、食べるということは生命の維持ということの他に美味しく、安全であってほしいという当然の欲求があります。

しかし、"食べられそう"なものと思って食べたもので食中毒をおこす場合があります。食中毒をおこすようなものは食品としては不適格です。しかし、良く考えるとそうとも言えません。例えばフグの毒に代表されるような数々の動物性自然毒、ジャガイモに代表される植物性自然毒など恐ろしい毒性を持ったものが相当な数あります。しかし、それらも普段は安心して食べています。おそらく安全係数を100倍とって評価すると"食べてはいけないもの"という評価になる物があります。事実、フグなどは毎年数人の死者が出ていますが、食品衛生法では禁止していません。その訳は家庭で親から子に伝承し、あるいは学校で教わって、それなりの対応ができるためではないでしょうか。

すべての食物は多くの化学式で書ける成分から成り立っています。その成分のどれについて、量を考えずに大量に食べると毒性が出てしまします。しかし、化学物質はすべて毒性があるといっても我々が普段食べている食品成分や食品添加物は心配ありません。その毒性の強さと量が重要です。
最近報道された食品衛生法違反のうち食品添加物について考えてみましょう。

②食品添加物の違反
最近騒がれた物に食品香料に許可外成分を使用していたことや輸入中華饅頭に不許可酸化防止剤が使用したものが見つかり問題となりました。
食品香料の問題は食品衛生法で許可されていないアセトアルデヒドなどの成分が香料に使ってあったという違反です。普段我々が嗅いでいる香りにつて考えるとコーヒーの香りは350種類以上の成分から成っています。イチゴの香りは250種類以上、食べ物の臭いはどれも100種類以上の成分から成り立っていると考えてもいいと思います。当然いろいろの食品の香料をつくる場合も多くの成分を加えて、混ぜ合わせます。

一方、香料は食品に入れ過ぎると嫌な臭いがして商品価値は落ちてしまいます。これらのことから食品に使われた香料の一成分は極めて微量で健康障害には関係ないことがわかります。国連食糧農業機関/世界保健機関合同食品添加物専門家会議(JECFA)や欧米では今回問題となったアセトアルデヒドなどは香料に使うことを許可しています。現在、日本は食料の60%以上を輸入に頼っていますが、加工食品も年々増加していることから国際間で同じ食品衛生法を適用しない限りこのような問題は繰り返される可能性があります。食品衛生法が同じであれば問題は起こりませんが、各国で食文化が違い、主食や食べ物が同じとはいえないことから完全な統一は難しいことと思います。しかし、十分に安全性を確認できれば、ある程度は共通にできるはずです。

肉まんに使用されたターシャリージブチルヒドロキノン(TBHQ)は酸化防止剤として使用を認めている国があります。しかし、日本では食品衛生法で許可しているもの以外は使用禁止になるため、TBHQを使用しているものは違反食品となります。このTBHQは毒性的に問題ないことや残存量が極めて少ないことからこれも健康障害は問題ありません。しかし、食品衛生法違反になることを知りながら使用していたということですので、これは重大な犯罪行為になります。

③健康障害がなければいいのか
食品衛生法で定められている基準値は一日摂取許容量(ADI)を勘案して決めてあります。ADIは安全係数を100倍乗じてあるため、違反品が出ても直ぐには健康障害とは結びつかないようになっています。
しかし、たて続けに違反食品が見つかっては"安心していてもいい"などとはとてもいえません。食品衛生法に準拠した食品を消費者に提供することは食品企業だけでなく、輸出入や流通、販売に関与する人たちにとっては最低限のモラルです。いくら国公立の検査機関を増やしても、組織を変えても解決するものではありません。食品に関連する人すべてのモラルの問題になってきているのではないでしょうか。

④教育の大切さ
いくつかの大学の学生達に食品添加物に関する授業が始まる前に確認した話ですが、中学や高校では食品添加物や農薬の使用を悪いと決めつけて教育されている人は少なくありません。本屋で並んでいる本も食品添加物を「悪」と決めつけているものが大半です。最近の報道関係は比較的冷静な取り扱いをするようになってきましたが、まだ冷静でない報道も見受けられます。

食品の安全性を気にしている人や勉強家は偏った情報を得易い状況にあるため、食品添加物や農薬を使用することは悪いと思ってしまうことも無理からぬことです。消費者に対し、官公庁や専門家は、情報公開することは当然ですが、科学的な解説を加えた情報を提供し続ける必要があります。

(健康かながわ2002年8月号)
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