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マンモグラフィ併用検診で乳がん早期発見・治療

image第26回がん集団検診研修会(主催・神奈川県予防医学協会、共催・神奈川県都市衛生 行政協議会、神奈川県町村保健衛生連絡協議会)が8月29日、小田原市保健センターで開かれ、県内22の市町村より34名が参加しました。

乳がん検診において、その有効性への理解と併用検診の開始~普及が望まれるマンモグラフィの現状、今後の展開に焦点を当てた講演に聞き入っていました。
乳がんの臨床と検診に精通し、関連著書や研究論文を多く発表している聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科教授の福田 護氏(写真)の講演を、まとめました。

他人事でなくなった乳がん

乳がんになる日本女性の割合は年々増えていて、現在、年間約35,000人と推定されます。胃がんについで多く、全女性の25人~30人に1人が一生のあいだに乳がんに罹ります。乳がんは女性のがんの第一位になっており、例えば女性の同級生が三十人いれば、そのうち一人か二人は乳がんにかかっているかもしれないということになります。死亡率も上昇傾向で、現在、年間におよそ10,000人程度が乳がんでなくなっています。交通事故死に匹敵する数字ですから決して少ないとは言えません。

十万人あたりの発生頻度でみますと、日本は米国の三分の一程度。閉経後の発症が目立つ欧米に比べて、日本は四十代半ばが目立つのが特徴です。死亡率の比較では、日本は微増しているのに対して欧米では数年前から下降傾向にあります。治療の進歩とともに、マンモグラフィによる検診の浸透がこの差につながっていると言えそうです。

だから必要な乳がん検診

現在の医療では、遺伝子異常による家族性乳がんなどの場合を除いて、乳がんの第一次予防は不可能です。そこで、救命やQOL維持につながる早期発見・早期治療を中心とした第二次予防がとても重要になってくるわけです。

米国女性の乳がんが早期段階で発見されるのに比べ、日本女性はがんが進んだ段階で発見される比率が高くなっています。ここにも、乳がん検診の遅れがみてとれます。また、日本女性の乳房の腫瘤発見は、入浴時にたまたましこりを見つけたといった自己発見が大半を占めます。一方、健康診断・人間ドック、集団検診で早期がんが多く発見されるパターンになっています。こうした傾向から日米の早期乳がんの特徴をまとめると、
・米国ではマンモグラフィ検診導入後に乳がん死亡率が下がっている
・日本では健康診断や人間ドック、検診の受診者に早期乳がんが発見されることが多い
・視触診検診よりもマンモグラフィ検診が、早期乳がんの発見に有効である
 ということになろうかと思います。

早期発見は生存率を大幅に高めます。また、早期発見の増加は、乳房温存療法の施術の増加にもつながりました。 乳房切除が主流だった乳がんの治療が、様変わりしてきているのです。最近センチネルリンパ節生検が行なわれるようになり腋下リンパ節をとらないですむ人がでてきています。センチネルリンパ節だけで終えれば痛みが少なくリハビリの必要もないため入院~退院まで三日ほどで済みます。

過剰診療の危険性も

乳がんの早期発見は温存療法などによる縮小手術の可能性をひろげ、抗がん剤を使用しなくてよいなど、患者さんの負担も軽くするなどの意義を見出すことができます。唯一、問題があるとすれば、あまりにも早期発見・治療にこだわるあまり、過剰診療の危険性を伴っているという点でしょうか。とはいえ、いまも右肩上がりの乳がんによるわが国の死亡率を抑えるためにマンモグラフィ検診は有効であり、特に各自治体の現状に即した検診システムの確立が急がれています。

検診受診率はわずか7.2%

マンモグラフィ検診の普及を急がねばならない理由は、米国における40歳以上の女性の検診受診率が約65%、二人に一人という現状からも推し量れるでしょう。一方、日本では視触診のみの受診率はおよそ二百七十八万人、カバー率は6.5%です(平成十二年)。個人主義社会である欧米と比べてあまりにも低いのが現状です。マンモグラフィ検診との併用方式では受診率31万人、0.7%(同)に過ぎません。日本の乳がん検診受診率は検査対象の7.2%、その大部分は予防効果が乏しい視触診単独の検診であるという実態が浮かび上がってきます。

精度管理の必要性

マンモグラフィの精度管理は、日本ではマンモグラフィ精度管理中央委員会(略称;精中委 http://www.mammography.jp/)を中心に行われています。モデルとしたのは米国です。1992年に厳しい基準を盛り込んだマンモグラフィ精度管理の法律が施行され、品質管理の面でも成果をあげました。これを見本に精中委で読影医師、撮影技師、施設や画像についての精度管理を進めています。  例えば、マンモグラフィ読影試験には約2000人が講習受講、合格ラインに達した受講者は約1400人(平成十四年四月)という結果です。関東エリアでは一都六県から受講者を集め、342人が受講、合格評価を受けたのは233人でした。書類審査、画像評価、線量評価を通じて行う施設・画像評価では、合格施設に証明書を発行。 不合格の施設には改善すべき点を指導しています。施設・画像評価の合格施設は79%でした(平成十四年八月・121施設中95施設)。結果は、精中委のホームページで都道府県別に試験合格者の医師、技師の氏名と所属施設を公開。また、施設・画像評価に合格した施設名の公表も予定しています。

また、精密検査は一次検診よりも診断水準や精度が高い必要があることより、マンモグラフィ併用乳がん検診の精密検査実施機関の基準を作成中です。つまり、受診者側の要求に見合った検診システム、専門スタッフによる健診体制づくりを促していこうという狙いです。

2方式採用の横浜市の例

各自治体の現状に即したマンモグラフィ検診システムの確立については、視触診とマンモグラフィ併用を基本にいくつかの方法をとることができます。例えば横浜市の場合、マンモグラフィ装置を持っている医療機関で視触診とマンモグラフィを実施する同時併用と、視触診実施後、マンモグラフィを実施できる医療機関を紹介する分離併用という二つの方法を採用しています。

世界レベルでの普及促進

マンモグラフィ検診は欧米を中心に世界レベルで普及してきていますが、その検診の有効性がつねに検証されなければなりません。欧米における有効性評価は、無作為割付対照試験(RCT)によって得られ、受検者の納得のレベルがとても高いのが特徴です。 しかし二年前、北欧の医師が無作為割付の適切さ、あるいは各報告の一貫性に疑問を呈してマンモグラフィ検診の有効性を否定的にとらえる報告をしたことで、マンモグラフィ検診をめぐる論争が世界的な医学専門誌上、あるいは米国の全国紙上で起きました。その経緯は省略させていただくとして、米国予防医学委員会などからの様々な報告がなされたのち、この論争に終止符が打たれました。最近の国際保健機構(WHO)の再評価結果では「マンモグラフィ検診は五十~六十九歳の女性の乳がん死亡率を25%減少させ、有効」というものでした。

論争は終結しました。そして「マンモグラフィは乳がん検診に必要であるが、検診を実施するための条件や環境が整うことが第一である」ことを改めて認識させることになりました。最後に今後、取り組まなければならないポイントを挙げておきましょう。
マンモグラフィ併用検診の普及には、
・精中委を中心とした精度管理の徹底
・四十歳代の乳がん検診への画像診断の導入
・乳がん超音波検診の有効性評価をすすめる ・精密検査実施機関の選定
・マンモグラフィ併用検診成績の評価  などを通じて、受検者に安心してもらう努力を続ける必要があります。
各自治体において「マンモグラフィ併用検診による乳がん検診の指針」にそった乳がん検診の開始と普及を期待しています。

(健康かながわ2002年9月号)
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