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健康増進法の展開と課題

健康増進法は、健康保険法等改正とあわせて医療保険改革関連法案として国会に提出され、去る(平成14年)7月26日の参議院本会議で成立しました。健康増進法は、「健康日本21」の法的基盤を整備して、市町村における地方計画策定を推進するねらいがあります。健康保険法等改正とあわせて医療保険改革関連法案としてということは、疾病予防と健康づくりを通じて将来の医療費負担を軽減するための取り組みとしても意義があるのです。そこで、健康増進法成立の背景、この法律の内容と今後の課題を述べてみました。(東海大学医学部地域保健学・岡崎勲教授より寄稿)

健康増進法」の背景とその意義

image「健康増進法」の背景を述べる前に、どうしても「成人病から生活習慣病へ」そして「健康日本21」運動の展開の必要性と意義を解説したいと思います。結核に代わり脳卒中が死因の第1位となったのは昭和26年、「成人病対策」が制定されたのが昭和32年、その翌年には脳卒中、がん、心臓病などの慢性疾患が死因の上位となりました。昭和55年には脳卒中、がん、心臓病だけで死因の6割を占めるに至りました。そして今から6年前に脳卒中、がん、心臓病などは「生活習慣病」と呼ぼうと決められました。同じ病気群が「成人病」から「生活習慣病」へなぜ変わらなければならなかったのでしようか。

「成人病」の定義は、加齢とともに罹患率が高くなる疾患群、年をとったらかかる病気、早期発見と早期治療を重視し、集団検診を社会の責任で行う。ところが、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病、高血圧、高脂血症など食事、運動、労働、喫煙、飲酒などの生活習慣の偏りが疾病のリスクを高める病気が、死因でトップを占めるだけでなく、罹患している人たちが中高年で半数近くみられ、社会の責任で検診で早期に発見、治療する時代ではなく、個人の責任で予防する時代であることを広く啓発するために「生活習慣病」と変わったのです。生活習慣の改善で予防可能であり、予防することで医療費の増加に歯止めをかける。そこからの「健康日本21」運動の展開の必要性であり、その意義が御理解いただけると思います。「健康日本21」運動を神奈川県の特性(後述)を加味して「かながわ健康プラン」が作成され、県民への運動展開がなされ、さらに市町村における健康増進計画の策定がなされつつあります。この市町村における活動を推進する根拠となる法律が必要となったのです。

健康増進法とはどういう法律か

imageこの法律は、健康の増進は国民一人一人の主体的努力によってなされるべきであり、国・地方公共団体・企業などはその取り組みの努力を支援する。そのために関係者は推進と連携をはかり、協力していくというものです。この法案のもう一つの性格は、栄養改善法が廃止されて、生活習慣全体に拡充されて健康増進を推進するものです。

まず、国民の責務、国および地方公共団体の責務、健康増進事業実施者(保険者、事業者、市町村、学校等)の責務、国、地方公共団体、健康増進事業実施者、医療機関その他の関係者の連繋および協力が目的と明記されています。  基本方針として、つまり「健康日本21」の法制化であり、(1)国は、国民の健康の増進に関する基本的方向、目標の設定、達成度の評価など、基本方針を策定する(2)都道府県健康増進計画および市町村の健康増進計画の策定に関する事項を定め(3)食生活、運動、身体活動、休養、歯の健康等の指針の策定や、栄養成分、たばこ、飲酒などに関する情報提供を推進する(4)生涯を通じた保健事業の一体的推進を行う。これは母子保健、学校保健、産業保健、老人保健などの各種健診事業を、新たに策定する共通標準指針に基づいて健診を実施するように標準化する。標準的な様式による健康情報の本人への提供、健康手帳を交付する場合の標準的な様式を提示するとされています。

国民健康/栄養調査等では、(1)国民健康・栄養調査を実施 (2)生活習慣病の発生状況を把握する。受動喫煙の防止があげられています。また、現行の栄養改善法のそれらを引き継ぐとされています。
以上が官報に8月2日交付され、これから厚生労働省で政令が準備され施行は来年の5月ごろだといわれています。

健康増進法をめぐる諸問題

「かながわ健康プラン21」の策定に関与した一人として、これから市町村での健康増進計画がこれではずみがついて、大きく推進するものとして期待しています。神奈川県の策定の際、全国の他の都道府県と違った、神奈川県の独自の県民の健康問題がありました。それは、急性心筋梗塞の死亡率が高いこと、次は20歳台女性のやせ、がんの罹患臓器の多様性などでした。神奈川県が日本の最先端をいっていると考えられました。これから、市町村での策定となり、その地域での特性を十分に議論し、その議論をとうして地域の人々の意識を向上させて、健康増進につなげて戴きたいと期待しています。というのは、このことは、私ども地域保健学を勉強するものの本来の目的であるからです。市町村が、その地域の特性を考慮しての健康増進計画をどう策定し、住民の健康増進にどうつなげ、評価方法をどう定めるかが、難しくもあり、また夢のある仕事だと思います。

今まで、母子保健、学校保健、産業保健、老人保健などの各種健診が比較できるように、共通標準指針に基づいて健診を実施するように標準化するというものです。標準的な様式による健康情報を提供し、標準化された健康手帳を交付するというものです。従来の健診事業から問診、各種検査を標準化することが学問的裏づけがなされて行われることは、望ましいことです。
健康手帳については、保健事業として一次予防に役立つものであってほしいが、併せて何か症状が出て病医院を受診する際にも役に立つものでなければ医療費の節約だけでなく、健診結果が貴重な医療情報足りえない。

これからの健康支援

小学校、中学校の学童、生徒の健康教育に力を入れ、そこから地域住民の方々にポジテイブな健康増進への取り組みを考えたらいかがであろうか。神奈川県で15-19歳の喫煙率が男子で34%、女子で14%という報告もある。青少年への健康支援が急務であると考えている。

第2は、健康手帳の充実である。もちろん個人情報であるから、健診機関から受けた情報を、個人個人が管理すべきである。日頃の生活習慣の偏りをポジテイブな健康増進へ取り組むべく指導することも当然であろう。しかし、突然の急性疾患の発症など、様々な事態に、これは保健ですから役に立ちませんではなく、その患者さんの歴史として、診断に役立つものでなければ意味がないと考えている。問診の中に、喫煙、飲酒情報だけでなく、現在にいたるまでに罹患した主要な疾患は記載されて当然であるが、さらに急性伝染病の既往も入れておいた方がよい。今のように、予防接種を勧奨となり、抗体価の低い人たちが多い時代となり、成人であっても油断できない。

健診機関が健診の標準化の動きから社会に果たす役割は大きい。健康手帳を市町村から依託されて行う時代が将来来るとすればなおさらである。いかなる時代であろうと、基本は、地域住民の健康増進であり、この基本に立って質的に、学問的に高いレベルのものが求められることはいうまでもない。  

(健康かながわ2002年10月号)
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