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健康かながわ

寄生虫最新事情

かつて日本は人糞を肥料として使っていたので日本国中に回虫や鞭虫など「土」を介して人間に感染する寄生虫がまん延していた。寄生虫予防協会などの活躍で近年では、それらは全国的にも激減している。一方、食生活が豊になり鮎やシラウオなど食卓から媒介する横川吸虫、ペットの犬や猫から幼児に感染する回虫などが注目されている。

寄生虫と言ってもマラリアや赤痢アメーバなど原虫類も含めるとその範囲は広い。当協会で検査しているのは回虫、鞭虫、肝吸虫、横川吸虫などの土壌媒介虫、および土壌媒介虫ではないが幼児や小学校低学年の児童生徒に広く蔓延してきたぎょう虫がおもなものである。 回虫や鞭虫、鉤虫など"土"を介して人間に感染するいわゆる土壌媒介虫は現在でも東南アジアの一部の地域では依然感染率が高い寄生虫である。回虫は字のごとく感染すると体中をグルグルまわって成長していく。野菜などに着いた卵が人の口から入ると食道、胃を経て小腸で孵化し幼虫となる。幼虫は小腸壁から門脈という血管に入り血流にのり心臓、肺、気管を通って喉から再び食道に戻って小腸で親虫となる。長い道程の途中で脳など他の臓器に迷入して重篤な症状を起こす場合もある。

横川吸虫

imageかつて日本では人糞を肥料として使っていたので日本国中に蔓延した時期があったが、寄生虫予防協会などによる徹底した検査と駆虫が行われるとともに水洗トイレが普及し化学肥料が使われるようになった現在の日本では感染することがなくなった。

糞便検査でここ数年多く見つかるようになってきた寄生虫は横川吸虫である。鮎やシラウオなどの淡水産の魚から感染する。鮎はかつては庶民があまり口にすることがない魚だったが今ではスーパーで新鮮な鮎が日本中どこでも簡単に入手できる。横川吸虫はメタセルカリアという幼虫の形で鱗に多く寄生しているため調理したまな板などからの感染も考えられる。幸いなことに横川吸虫は多数感染でない限り病害は少ない。

検査は集団検査用に開発されたセロハン厚層塗抹法を用いる。便を直接スライドガラスに採ってマラカイトグリーンを含浸させたセロハン紙を載せ、便を押し広げて乾燥させると透明になるので顕微鏡で観察する。

ぎょう虫

幼稚園児および小学校低学年で検査を行っているぎょう虫は独特な感染形態をとるため今もって完全に駆逐できていない寄生虫である。13年度神奈川県下で約29万件の検査を当施設で実施し、その内約2000名にぎょう虫卵が見つかっている。ぎょう虫は人の口から卵が入ると小腸末端から盲腸付近にかけて寄生する。産卵が近づくとメス虫は夜間人が就寝して肛門の括約筋が弛むのを見はからって肛門から出てきてその周囲に卵を産む習性がある。

そこでセロハンテープのような糊の付いたセロハン紙を肛門にあて、これを顕微鏡で見て虫卵を検査する。 ぎょう虫の陽性率はここ数年減少傾向が続いてきた。長年行ってきた検査、駆虫の効果が顕著に現れてきたものと考えられる。

クリプトスポリジウム原虫

最近、新たな寄生虫症として注目されているものにクリプトスポリジウム原虫がある。1996年、埼玉県越生町で町営水道にクリプトスポリジウム原虫が混入したことから町民約13,000人のうち、約9000人に集団下痢が発症した。検査には20~40Lもの水道水を使い、かつ特殊な技術を要する。家畜の糞に多く含まれるため取水水源の上流に家畜場などがある場合はクリプトスポリジウム原虫が混入していないかどうかの検査は必要である。

砂場の犬猫回虫卵

日本では人の回虫感染は劇的に減少した。その反面、犬猫の回虫症が非常に多いことはあまり知られていない。犬、猫回虫は人に感染した場合、成虫にはならず幼虫のまま体内を移行し悪さをする。近年、幼児の遊び場である砂場を通してあるいはペットを介して犬、猫回虫が幼児へ侵入する危険があることから一部の地区では幼稚園や公園の砂場の犬猫回虫卵検査が行われるようになってきている。

(健康かながわ2002年11月号)
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