全国有数の温泉町として知られる箱根町は、昨年8月から12月にかけて「いきいき健康セミナー」を実施した。これは国民健康保険団体連合会が実施する「健康寿命延伸に向けたいきいき市町村健康づくり事業」の一環として行われた。生活習慣病の予防改善を目的に「肥満・高脂血症が気になる方」を箱根町広報紙で募集し、町民20人が参加した。3か月間にわたるセミナーへの参加者の平均年齢は58.5歳、中高年の女性が参加者の中心で、毎回の出席率も高率であった。箱根町が有する総合保健福祉センター「さくら館」の温水プールなど充実した施設も利用しての密度の濃い内容のセミナーとなった。
今回のセミナー企画に協力し、プール実習を除く指導にあたった県予防医学協会では科学的根拠に基づいた、参加者自身が運動実践の効果を実感できるプログラムを作成した。
そのひとつが「アクティビティアセスメント(活動量評価)」。生活習慣病の予防として大切な身体活動量を高めるために
①まず自分の日頃の活動量を認識する
②どうやったら活動量が増やせるのか、グループ学習を通じて、日常で親しみやすい運動として「効果的なウォーキング」を学び、実践してみる。
③実践の結果を①の過去の運動量と比較して、自分の運動習慣の改善を客観的なデータで実感し、達成感と喜びをもって運動継続へ導く、というのがアクティビティアセスメントの大きな流れである。
運動習慣獲得のための大きなポイントは客観的な評価による自分の変化を実感すること、単純な例で言えばダイエットの結果、体重が減ればうれしくてダイエットは持続する。今回のプログラムではより科学的な評価指標を導入し、無理なく安全に効果的な運動習慣を獲得するためのサポートを目指している。
そのためのちょっとした工夫として、日常の活動量を測定するために単なる歩数計ではなく
①歩数②運動量(Kcal)
③1日の総消費量④目標とした運動量を達成した割合
⑤ウォーキング実行時の記録(時間・強度)、などが7週間分メモリーできる機能をもった高機能の計測器を参加者に貸しだした。(写真右)
そしてセミナー開始前の日常生活時(2週間)、オリエンテーション後(2週間)、ウォーキング指導後(2週間)、それぞれ2週間ごとのデータを、わかりやすいグラフを用いた結果用紙を参加者各自に配布した。(写真下)
指導にあたった当協会小野寺由美子・健康運動指導士は「指導の前後で約1,000歩ほどの運動量が増えました。注目したいのは一万歩あたりの運動量の増加です。これは同じ歩数でもより多くの運動量をかせぎ、より短時間でより多くのエネルギー消費ができるようになった、ということです」と言う。
つまり運動の質が高まったといえる。実際の指導の場面でも「効果的なウォーキング」を過去の自分の歩き方のデータに基づいて学ぶことで、効率よいウォーキングがうまく身についたようだ。
ただし活動量を高める工夫はウォーキングだけではない。参加者のうち数人はウォーキングよりもプールでの水中運動を選び、実践を続けている。 この参加者は「自分にあった運動の方法がわかった」とたいへん喜んでいるそうだ。
このように動機づけを高め、個別性を重視した指導ができたことが今回のセミナーの特色と言えよう。
アクティビティアセスメントに加え行った測定が「ボディコンポジション(身体組成評価)」。超音波測定装置を用い、①腹部筋肉厚②腹部皮下脂肪厚③内臓脂肪厚を測定。(写真下)ウエスト・ヒップ囲や体脂肪率など(全11項目)も測定。このボディコンポジションにも超音波画像をとおして目で見て自分の変化を実感きるというメリットがあることは言うまでもない。同時に生活習慣病を引き起こしやすいといわれている内臓脂肪をチェック。また筋肉量が少ないと基礎代謝が低くなり脂肪を蓄積しやすくなることから筋肉量もチェックしている。
ボディコンポジションは肥満か肥満でないか、といった単純な類型ではなく、かくれ肥満型や皮下脂肪型など細かく6つのタイプの身体組成に分類し、個別性を重視した指導に活かすためにも行われており、また安全に運動を行うために膝や腰などの関節障害を引き起こす原因となる筋力不足をチェックするのも目的の一つとなっている。
このボディコンポジションの結果として顕著だったのがウエスト囲の減少。全体平均でも有意に減少しており最大で4cmほどウエスト囲が減少した方もいた。個別には内臓脂肪厚が3mmも減少した方もいた。
今回の企画を担当した箱根町・斉藤亮子保健師は「みなさんボディコンポジションの結果に一喜一憂、ウエストが細くなったと大喜びする方もおられました」と参加者の反応を語る。また「アクティビィティアセスメントで活動量の増加や歩きの質の改善を励みに、運動を継続している方もいらっしゃいました」と言う。
3か月間という短期間では体重や体脂肪率の全体の平均値としては大きな変化は見られなかった。しかし身体組成はお腹まわりから減少してくることが多く、今回のように「ウエストが細くなった」「お腹の脂肪が減った」という結果を科学的に評価し、わかりやすく理解することで参加者は「がんばってやってよかった」「運動を続けよう」というモチベーションが高まる。この喜びが運動の継続=生活習慣の改善につながっていくのである。
同時にグループのダイナミクスも行動変容に結びつけるための不可欠な要素だろう。
セミナーの指導では「運動を継続するための工夫」というテーマで参加者同士でディスカッションする場面を設ける。そのなかでは「時間を決めて行動する」「毎日の予定の中に運動時間を入れる」といった模範的な意見や「歩けないときは家の階段を利用する」といったユニークな意見、そして「少しの時間でもよいと考える」「無理をせず、出来ないときは気にしない」といった生活習慣の改善をおおらかにとらえ、無理なく実践できるための知恵を参加者同士が共有することが大切になってくる。仲間づくりを大切にしながらグループで生活習慣の改善に取り組むことはひとつのポイントであろう。
今回のプログラムの中にも「調理実習」を取り入れ、食事による摂取エネルギー量についての学習とともに楽しく和気あいあいとした雰囲気づくりにも役立ったようだ。
セミナー終了後の参加者からのアンケートをみると「このセミナーで実践できたことを継続していけると思いますか?」の質問に対しては全員・100%の人が「はい」の回答となった。
箱根町では、こういった町民の熱意を受け、「いきいき健康セミナー」の修了者に向けて、今年の1月29日に「フォローアップセミナー」を開催。前回のセミナーでは指導しきれなかった疲労を回復し柔軟性を高めるためのストレッチングや腰痛や膝痛を予防するための筋力アップの軽運動などを小野寺・健康運動指導士と楽しく学んだ。