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健康かながわ

新しい結核予防対策

古くて新しい問題「結核」。今、この結核対策をめぐり大きな転換期を迎えている。2003年4月からは乳児への直接BCG接種と小中学校でのツベルクリン反応・BCGを廃止し、新たな結核予防対策に乗り出した。今回は、その背景や今後の展開について、今回の一連の結核対策メンバーとして各委員会に携わり、日本医師会常任理事・感染症危機管理対策室長でもある雪下國雄・雪外科医院院長にお話を伺った。

最近の結核の動向

imageかつて国民病とさえいわれた結核。結核予防法が大きく改正された1951年当時、新規結核登録患者は年間約60万人、そのうち9万人以上が亡くなっていた。半世紀経った現在、2900人余り(99年統計)が亡くなっている。新規結核患者数は50年前の10分の1以下になったとはいえ、4万人以上の新規結核患者が発生している。97年にはこれまで減少を続けてきた新規発生結核患者数が38ぶりに、罹患率が43年ぶりに増加になり、99年には「結核緊急事態宣言」も出された。

しかし「その結核患者をみると①罹患者が青年層から高齢者層へ(図1)②高齢者の糖尿病合併症の増加③健康管理に恵まれないホームレスや社会的弱者などの多発④薬剤の効きにくい多剤耐性結核の増加-など結核をめぐる状況は大きく変わり、転換期を迎えています」と日本医師会常任理事である雪下國雄医師はいう。2004年度には感染症法が見直しされることとなり、それにあわせて新しい結核対策の検討が次々となされることとなった。雪下医師はこれら一連の委員会メンバーとして加わっている。

雪下医師は「検討を進めるなか、こうした現状を踏まえ対象者を絞ってより効率的な結核予防対策を進めることとしました。その柱の一つが年齢を問わず、発病しやすい人々をハイリスク層、そして発病すると二次感染を起こしやすい職業についている人々をデンジャー層として、その2つの層に対して健診を強化充実していこうというものです」と話す。具体的な職業としてあげられているは表2の通りだ。

学校における結核対策

imageそしてもう一つの大きな柱が、乳幼児期、小学1年、中学1年の計3回実施してきたツベルクリン反応検査・BCG接種を廃止し、原則として生後6ヵ月までにツ反検査を省略したBCG直接接種の導入である。
乳幼児の初回BCG接種の効果については科学的根拠に基づいて立証されている。また「小学校1年生、中学校1年生のツ反・BCG廃止については1995年、WHO専門家会議で『BCG再接種の有効性を支持する根拠はないので再接種は勧められない』と勧告も出されており、国内とともに世界の調査においても確認されているのです」と雪下医師。

imageまた冒頭でみたように結核の罹患率はその構造が大幅に変化し、若年者ではほとんどみられなくなってきた。例えば5歳から14歳の結核罹患をみると、1962年では35,000人いたのに2000年では117人。また「学校健診の実績をみてみると、約120万人学校健診を行っているなかで、結核を発見したのは小学1年で4人、中学1年では13人(2000年・図2)という数字だったのです。健診の果たす役割は-というと疑問がでるでしょう」と雪下医師は現在の状況を分析する。

このように世界的な動向や状況を検討した一連の委員会報告を受けて、厚生労働省と文部科学省は今年4月より乳幼児の直接BCG接種の導入と学校でのツ反、BCG接種の廃止されることとなった。昨年末には文部科学省で「定期健康診断における結核健診マニュアル」が取りまとめられ、関係各機関に配布された。

imageそのなかで今後の学校での結核対策は、第1に児童生徒への感染防止。地域の結核流行状況と児童生徒のBCG接種状況の把握。さらに「これまでの集団発生のうち4割近くが学校で発生しており、教職員が結核に罹患していたことによるものが多く、教職員の健康診断の徹底が重要です」と雪下先生はいう。

第2に感染者及び発病者の早期発見・治療。定期健康診断時に全員に問診(家族からの情報)を行い、対象者を絞り込み重点的な検査を実施する。「内科検診の充実とともにこれからは学校医の役割が重要となってきます」と話す。第3に患者発生時の対応(集団発生の防止)で出席停止の措置や接触者検診の実施を充分に図ること。この3つを柱として「保健所を中心に結核感染情報を収集・提供するなど地域と連携した結核対策が不可欠となります」ともいう。そのため各教育委員会では保健所、校医、専門家などと協力し、「学校結核対策委員会」の設置が提案されている。

これらをまとめた学校での結核予防対策の概念は図3の通りで、質的な転換が求められることとなった。

(健康かながわ2003年3月号)
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