情報サービス
前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ > バックナンバー > 健康増進法施行 受動喫煙防止へ第一歩
健康かながわ

健康増進法施行 受動喫煙防止へ第一歩

5月1日に施行された「健康増進法」を受けて、各地で禁煙、受動喫煙防止の活動が推進さ れた今年の禁煙週間5/31~6/6)。厚生労働省などが主催する記念シンポジウムのあっ た6月2日、横浜市の都筑区公会堂では「禁煙週間たばこフォーラム2003* たば この煙でおなかの赤ちゃんが泣いています」が開かれ、出産を控えた母親や禁煙を望む す人など約120人が参加した。「たばこと妊娠~胎児の健康」と題して講演した堀内 頸医師の話をもとに、喫煙が母体や胎児に与える悪影響などをまとめてみた。 *主催:横浜市衛生局 共催:禁煙、分煙活動を推進する神奈川会議/かながわ健康財団  協力:神奈川県予防医学協会  

男性59%、女性16%と日本人の喫煙率はフランスの40%、米英の28%をはるかにしの いで先進国でトップクラス。たばこの自動販売機は小学生でも買えるために未成年の喫 煙も高い。たばこ広告に関しても規制がゆるく、ファッション感覚でたばこを始める女 性の喫煙者が目立つ…こうした現状をさらりと解説したのちに、講師の堀内医師は「妊 婦、胎児さらには乳幼児、その後の育児にも影響を及ぼす喫煙の害を、みなさん考えて みましょう」とソフトな口調で語り始める。

全身の臓器に悪影響

喫煙の害はすでに19世紀初頭から指摘されていた。1960年代には英米で相次いで喫煙 の健康障害が報告されている。喫煙による死者は、世界で年間490万人に達するといわ れる。堀内医師は「一度吸うと、なかなかやめられないのがたばこ。有害物質がいっぱ いの毒の缶詰のようなものがたばこ。どうもCMにうまく乗せられて吸ってしまうので は」とエピソード交じりに話を進める。
日本人の高喫煙率については、ストレス社会化、有望な消費市場として外国製たばこ が大量に流通しているなどの背景を挙げる。自動販売機の撤去やたばこ広告の自粛に向 かう世界の動きから後れをとっているとも指摘した。「呼吸器や循環器の疾患、肺がん になる確率が高いばかりでなく、喫煙は体内のあらゆる臓器に悪影響を与えます」とし て本題に入っていく。メモを取りながら聴く若い母親の姿もある。

毒の缶詰

たばこは、喫煙する人ばかりでなく、まわりで煙を吸わされてしまう人にも害がある ことが浸透して、1980年代から公共の場やたくさんの人の集まる場所での分煙化の動き に拍車がかかった。今年3月、ニューヨーク市が定めた新しい禁煙条例は、バー、レス トランなど飲食店での全面禁煙が盛り込んだ。客のたばこの煙からバーやレストラン で働く従業員の健康を守るのが狙い。喫煙を容認したオーナーには罰則を設けるという 厳しい内容になっている。
「副流煙に含まれるニコチン濃度は、主流煙の8倍。トルエン、ナフタリンなども含 まれ、少量ながらダイオキシンも発生することがわかりました」と堀内医師。たばこ= 毒の缶詰という表現が誇張でないことは、スライドに示される各種のデータでもわかる 。

妊娠中の喫煙が及ぼすもの

たばこの煙に含まれる有害物質の解説から、堀内医師は妊娠中の喫煙が及ぼす影響へ と話題をすすめる。
会場の大きな画面に、誰もが知っているタレントの顔写真が映し出される。ヘビース モーカーで知られる彼とアイドル歌手の間に生まれた赤ちゃんが早産、低出生時体重で あった事実を説明し「妊娠中の喫煙が早産、低出生時体重を引き起こすことはもはや常 識になってきました。最近では人工栄養・うつ伏せ寝に加えて、喫煙がSIDS(乳幼児突然死症候群)の原因の一つにも挙げられています」と堀内医師は続ける。

妊娠中ずっとたばこを吸い続けるお母さんは、たばこを吸わないお母さんに比べて早産、低出生時体重は約9倍になるという。一日11本以上吸い続けると早産比率は15倍近 くにもなる。妊娠中に喫煙しなくても、職場や家庭で喫煙する人と過ごして出産した場 合、乳幼児の尿からコチニンと呼ばれる有害物質が検出されるという。また最近では、 受動喫煙の小児の血中鉛濃度が高い数値を示す例も報告されている。

「おなかの中の赤ちゃんがどれほど苦しがっているか。もし関心があるなら超音波で 胎児の映像を見ながらたばこを吸ってみるといいです。たばこの煙に含まれるニコチン により血管収縮が起こります。胎児は動きを止めてしまいます。それも数秒のうちにで す。一日20本以上の喫煙を続けると、出血などを伴って母胎、胎児ともいのちに関わる 合併妊娠の危険性も倍近くに高まります。喫煙で母乳の出も悪くなるし、ニコチンが授乳中の乳房を通じて赤ちゃんにいくこともあります」

たばこは老化促進剤

女性が喫煙に至る経緯はどうだろう。20代23%、30代19%と日本女性の喫煙率は社会進出によるストレスと関係がありそうだ。高校3年までに喫煙経験のある十代女性は37 %近い。妊娠しても、禁煙できない女性も多い。こうしたデータを解説しながら堀内医師は「まわりから誘われたりして十代で喫煙を経験、人気のある女性タレントのたばこ を吸う姿に憧れて外国製たばこに走る、といった傾向が見受けられます」という。

中学2年生の女子は小学6年でたばこを覚え、一日5本を吸う。勉強などに集中でき ないのはわかっていても、やめられない。中学2年から喫煙習慣のある高校2年の女生 徒は、三回もたばこが原因の謹慎処分を受けても禁煙できない。スライドで事例を見せ たのち「喫煙は肌荒れやシワの原因、骨密度を低下させ、歯周病や口臭の元にもなりま す。たばこを吸えば痩せる、という根拠は何もありません」と、大半を占めた女性の参加者に語りかける堀内医師。うなずく女性が多かった。

夫婦で、家庭で禁煙を

生まれたばかりの赤ちゃんを母親に抱かせると、無意識に身体をつたって乳房にはい 寄り、力強くお乳を吸う仕草をするという。赤ちゃん本来のこうした行動も、喫煙を続 けたお母さんから生まれた赤ちゃんはしない。「おなかの中で、喫煙による全身麻酔を かけられていたような状態で生まれてくるからです」と堀内医師はその理由を説明する 。喫煙は、生まれてくる赤ちゃんを苦しめるばかりではない。発育・発達の遅れや粗暴 な性格形成、非行の引き金になることもあると指摘する。

「妊娠、出産、育児は女性にとって大きな人生の転機と言ってもいいでしょう。この 大事なときに喫煙を見直し、ぜひ夫婦で、家族で禁煙を実現してもらいたいと思います 」 

(健康かながわ2003年6月号)
中央診療所のご案内集団検診センターのご案内