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厚木市の新しい肺がん検診

下の各市町村では、職場の健康診断などの他、受診機会のない方を対象に老人保健法に基づいて基本健康診査を実施しているが、その基本健康診査を利用して新しい肺がん検診を実施している市がある。厚木市である。行政と医師会、そして神奈川県予防医学協会が合同で実施しているシステムで、平成13年から実施し、今年7月で3年目に入る。この新システムになってから従来の検診に比べ、受診者数が約3倍となり、受診者の掘り起こしなど大きな成果をあげている。 この厚木市の肺がん検診システムは、読影医師としても関わっている当協会の井出研中央診療所長が日本がん検診・診断学会(7月4日、5日開催)でも報告を行い、注目を集めたという。今回はそのシステムと成果についてレポートしてみたい。

主治医が直接X線撮影

image「日本の肺がん検診の歴史は古く、40年以上も遡ります。それらは結核検診の流れをくんだ胸部の間接X線写真撮影を中心としたものでした。当然、集団検診としての長所もあったわけですが、一方では受診者一人ひとりの顔がみえてこないという欠点があったと思います。しかし厚木市の肺がん検診は個人を対象としており、経年的にも見ていくことができる、すぐれた方法といえるでしょう」  この厚木市の肺がん検診のフィルム読影を担当している当協会の井出研・中央診療所長はこう話す。

ではその方法とはどのようなものなのだろうか?厚木市では基本健康診査時に肺がん検診も行う方法をとっている。まず6月下旬に厚木市役所から40歳以上の市民に対して「基本健康診査受診券」とともに「肺がん検診受診券」が送られる。厚木市では事前に肺がん検診実施医療機関として48の医療機関が登録されており、その医療機関名簿もいっしょに添付され、その中から自分の希望する医療機関で受診するようになっている。受診期間は7月から11月までの5ヵ月。

「医療機関といってもほとんど主治医といってよく、主治医が直接X線撮影しています。これが最大の特徴です」とは厚木市との対応を行っている当協会業務部業務2課長の稲葉稔明。

トリプルチェックの読影体制

医療機関で胸部の直接X線撮影を行うわけだが、まず最初にその医療機関、つまり撮影した主治医が読影する(シングルチェック)。次にそのフィルムを回収し、神奈川県予防医学協会でさらにダブルチェックの二次読影を実施し、判定を行う。その二次読影を一手に引き受けているのが、井出所長。井出所長は長年臨床にも携っており、30年近く肺がん検診に関わり、指導医としても活躍している。
その後、精密検査を指示されたフィルムに対しては厚木市医師会でさらに月に1度カンファレンスがもたれ、再読影するというトリプルチェック体制がとられている。まさに厚木市、厚木市医師会、当協会の連携がこの事業の大きな鍵を握っているといえよう。

万全を期すセキュリティ

imageだが、ここでフィルム収集という新たな問題が発生する。 検診では受診者情報が最も重要な要素となるため十分すぎるほどの注意を払って回収のマニュアルを作成してフィルム収集にあたる。収集担当は当協会。 医療機関では「コメント・診断指示」の欄のすべてに記入してもらい、①医療機関名②撮影年月日③受診者氏名④年齢を記入した「フィルム用シール」を貼付し、この事業展開のために作成したフィルムケースに医療機関ごとに収納するなど細心の注意を払っている。  また肺がん検診を行っている医療機関は広い範囲に点在しているため2地区に分割し、効率よく、かつセキュリティに万全を期して収集している。そして当協会へ搬入し、再度チェックリストで内容を確認している。1週間に1度回収され、そのフィルム数は500枚から1,000枚になる。

当協会で「調査票とフィルムを確実に合わせ井出所長がフィルムを読影します。そして二重、三重にチェックを行い、2週間以内にフィルムとあわせ医療機関宛報告書を提出し、厚木市役所にも毎週報告書を提出しています」と報告書作成に携わる当協会情報処理部次長の田村千代は話す。その一連の流れには当然緊急連絡体制も確立されている。

厚木市健康福祉部健康づくり課予防係の谷村花代係長は当協会に委託したことについて次のように語ってくれた。 「従来の集団検診で協会に委託してきた経緯もありますが、この方法にしてもまず精度管理が確立されていること。そして神奈川県予防医学協会の機動性のよさや事務処理能力が高かったことがあげられます。平成13年から開始したのですが、準備はその2年前から予防医学協会の担当者と進めていました」  また「このシステムができたのは厚木市が従来から住民に対して手厚く、基本健康診査に胸部X線検査を予算化して実施していたからできたと思います。肺がん検診とこの胸部X線検査を合わせ、基本健康診査と肺がん検診のセットとしてスタートをしたのです」と担当の稲葉はいう。

受診者が安心できる検診システム

image従来の肺がん検診は、住民に厚木市保健センターに来てもらい間接2方向のX線撮影を実施していた。その受診者数は年間5,000人程度であった。それが昨年は16,000人を超え受診者が3倍になっている。
「肺がんの発見率をみると平成14年で10万人に対して41人となっています。平成10年度神奈川県癌登録年報の数値と一致し、発見率については平均だと思います。しかし受診者が増加したということはそれだけ『いる肺がん』つまり肺がんを罹患している方を、受診者数が増えることによって発見することができたということです」と井出所長は話す。 厚木市の谷村係長は受診者の増加について「うれしい誤算でした」という。しかし「最大の目的は受診者の裾野を広げていくことでしたからこの方式に変えた大きな成果です。しかもこれだけ増えたということは受診者にとって自分の行きたい日時の選択が増えたり、近くの医療機関に行くことができたりという利便性もよかったのだと思います」と話す。

また「この厚木市のシステムの最も大きなメリットは受診者の顔が見えるということではないでしょうか」というのは田村だ。集団検診では、どうしても結果票というペーパーが受診者へ行くだけという点がある。「しかし主治医が受診者と対面し、FACETO FACEで話し合い、今後の方針や次へのステップを受診者と決めていけるので、受診者にとって安心感が出てくると思います」と田村はいう。

事実、13年に経過観察と指示され、主治医と相談し、フォローアップされていた方が、14年に「がん」と診断されて手術を受けることができたという。 「このように個人を把握している検診という点は大変すぐれたシステムです。当協会にも27年の歴史を持つACクラブ(神奈川からがんをなくす会)という会員制の組織があります。これは個人を対象としたかなり理想的ながん検診組織です。肺がん検診だけですが、厚木市のシステムも各医療機関が受診者という会員を持っていることになりますので、これが各地に広まればよいでね」と井出所長は話す。  「これからも住民にとってどのようなものがよいのかを常に考えて、よりよいものを作り上げていきたいと思います」と谷村係長は最後に話してくれた。

(健康かながわ2003年8月号)
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