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神奈川学校保健研究会・夏期講習会 PART1 統一テーマ「いのちを生きる」

image子どもと家族の力を信じて
金井 剛・横浜市中央児童相談所医師

「児童虐待の原因はひとつではありません、複合した問題が背景にあります」と金井医師。児童虐待を理解するためのキーワードが「孤立」と「ゆとりの無さ」だ、と言う。虐待をしてしまう親(虐待者)は夫婦関係や友人関係に恵まれず、相談相手や支援してくれる人も無く孤立した状態にあることが多い。また経済的に困っていたり、虐待者自身が精神障害などで苦しんでいる場合にはまったくゆとりを失っている場合がある。それに加えて子どもに障害や発達遅滞があったり、聞き分けがなく育てにくいといった場合、虐待が起こりやすくなる。  

虐待者の心理的特徴が「自己イメージの低さ」や「完全主義」である、という。彼らが面接でよく口にする言葉が「普通の親だったら…(=自分は普通ではない)」だそうだ。このような自己イメージが低い場合には「うつ状態」が背景にある場合が多い、という。また自分の子どもを他の子と比較して、少しでも違っていると許せない「完全主義」の親が虐待をしている場合がある、という。「こういう親は子どもの成長を待つことができない、子どもの個性を見ることができないのです」と金井医師は言う。
虐待者に聞くと「子どもだからだいじょうぶ、子どもは逃げないから」と言ったそうだ。あたかも自分の所有物のように子どもを扱い、子どもにしがみつく。歪んではいるが、これも虐待者が自分の子どもへ向ける愛情なのである。

この不幸な関係を変えるためには周囲の人間が関心をもって孤立している彼らに関わることが大切になってくる。  
「(虐待が)あるかもしれないという疑いをもってかかわってかまいません。もし無かったらそれでいいのです」金井先生は児童虐待に関わる際の注意点について会場の養護教諭に向けて語る。

「基本は笑顔と声かけです」と、学校での早期発見のポイントを示す。虐待が疑われる子どもには日頃から声かけをして、訴えて来やすい関係を作っておくことが大切になってくる。また子どもの身体に繰り返しのケガやアザ、火傷や骨折はないか、の身体チェックも必要。
虐待者が子どもの身の回りの世話をしない場合、子どもが不潔になったり風呂に入っていなかったり、といったサインも見逃せない。また給食の時などの食べ方も要チェック、あせってガツガツと食べる「むさぼり食い」をする子どもが多い。  子どもが虐待の事実を打ち明けたら、子どもとの1対1関係での秘密の共有はできるだけ避け、学校内でチームを作り、児童相談所などの専門機関と連携し問題に対応することが大切になる。

こころの発達課題

image山崎 晃資・東海大学教育研究所教授横
東海大学付属相模中学・高校校長

現代の子どもたちの問題は、「不登校・ひきこもり」、「いじめ・校内暴力」から「摂食障害、薬物乱用」、「援助交際」、「自殺」など様々な形でマスコミに取り上げられている。  
山崎講師は「私が校長をしている学校は2100人の生徒がいるマンモス校なので、常に何かが起こっています」という。「今、大きな問題は若い父さん,お母さんの感覚が少し変になっていることです」という。子どもが万引きして補導されても、親は「お金さえ払えばいい」という態度をとるのである。
さらに、インターネットや携帯のメールで知らない者が集まって自殺するなど昔では考えられなかったことが起きている。現代人は人間関係が稀薄になり携帯などのような「物」を媒介にしないと人と向き合えないようだ。そのような人間が増えているのである。
最近の青少年犯罪の背景からそれらの特徴をまとめてみると次のようなことが言える。①犯罪に至る「必然性や文脈」が見てこないこと、②唐突で「劇画的な行動」をとること、③犯罪行為は大人からは到底理解しがたいものだが、同世代の子どもたちは「ある種の憧れ」さえ持っていること、④「根源的な不安」を抱いており、妄想的ともいえる「被害者的意識」を抱いていること、などが共通している。

しかし、山崎講師は「犯罪のすべてを精神障害に起因すると考えることはできない」と語った。
また最近は社会変革が著しく、昔からの価値観の崩壊による影響もある。若い子が「死にたい」と言って来た。話を聞くと「もっともだと思う」と山崎講師は語る。母親からは「父親のようになるな!」といわれている。エリートだった父はリストラされて家でぶらぶらしているからだ。それまでは、「勉強しろ!(父親のようにエリートになれ)」といわれて育ったが、学歴があってもリストラされた父を見ていると自分は「生きていても意味がない」と思うと訴えるのである。
精神科医でもある山崎講師は、今の子どもたちには予防が大切であると考えている。「人の心がどのように成長し、発達していくのか、人の命がいかに大切なのかを、学校教育の早い段階で教える必要がある」と結んだ。

問題行動の意味とその対応

image村尾 泰弘・立正大学社会福祉学部助教授

学校でカウンセリングをすることは難しい。それは教師とカウンセラーの違いでもある。教師は子どもを評価して良い方向へ導くこと、アドバイスすることが仕事である。
一方、カウンセラーはアドバイスや指導を行わない。傾聴するだけである。子どもの立場を共感的に理解するのが仕事である。村尾講師は「似ているようでちょっと違う」と言う。一体、教師とカウンセラーはどこが違うのだろうか。

例えば、女の子が手首を切ったとしよう。学校の先生は「止めなさい」とアドバイスする。そのようなアドバイスを受けた子どもは「先生は私のことを分かっていない」と反発する。
 一方、カウンセリングは手首を切った行為の背後にある苦しみを理解しようとする。そんなことをするくらい「つらいんだね」、「いつごろからそのようなことをするようになったの」とたずねるのである。手首を切りたくなるほど苦悩があると理解するのである。
これがアドバイスと傾聴(共感的理解)の違いである。 どちらが正しいのかということはない。教師が求められている仕事とカウンラーが求められていることの違いである。カウンセラーが傾聴、受容、共感的理解の立場をとるのは、「人間はじっくり聴いてもらうだけで救われる」と考えるからである。村尾講師は「悩みのレベルが深くなるほどアドバイスはできなくなる」と語る。

例えば、手を30分洗う強迫観念の人に、「手を洗うのを止めなさい」とアドバイスしても効果がない。「手を洗わなければいけない強迫観念になやまされている、その悩みを聴いてあげることで、その人の中で自己治癒力が生まれてくるのです」と言う。このように患者が自分で自分の問題を癒すことを支援するのがカウセリングなのである。

家族療法とは

不登校のケースを「家族療法」という立場からみると、個人(不登校児)に問題があると考えない。家族関係に問題があると考える。その問題の表現として子どもが不登校(自傷行為、万引き)を行っていると理解する。そのため個人にアプローチするのではなく「家族の関係性にアプローチする」のが家族療法である。
まず、家族の悪循環の流れを把握する。例えば、不登校の子どもは母親がカミガミしかってばかりいる。過干渉だと感じている。ところが母親は子どもが不登校だから心配してあれこれと干渉してしまう。  家族の悪循環を変えるためにお父さんにガミガミ(お母さんの役割)言ってもらうように提案する。子どもには「君の不登校のおかげてお母さんとお父さんが話し合い(夫婦の会話がなかった)できているよね」と肯定的な見方(ポジティブ・リフレーミング)を伝える。このように原因と結果がグルグル回っている状態を断ち切るのである。

ギャングエイジは大事な発達課題

image宮本 まき子・家族カウンセラー、エッセイスト

宮本まき子講師は子育てアドバイザーであり、エッセイストである。彼女自身2人の子どもを育てるかたわら、子育てアドバイザーとして22年間、出版社の電話相談室で2万件の相談をうけてきた。 29歳の時、ある日身体が動かなくなり子ども世話ができなくなった。これがキッカケでカウンセリングを学び出した。
その彼女がもっとも注目するのが子どもがいたずらや悪さをする「ギャングエイジ」である。子どもはある発達段階になると、複数で群れを作り親や社会の規範に反発したくなる。
特に、9歳から12歳のころは集団でいたずら、いじめ、盗みなどの悪さをする。この「ギャング期」は育児の頭痛のタネとなる。

国立山梨大学講師として、750人の学生にデータをとった。「ギャングエイジに群れをなして悪さをしたことがありますか」とアンケート調査をした。その結果、多くの学生が「万引きをした」、「集団でいじめた」、「車にミカンをぶつけた」と答えた。

この時期の子どもは、「みんながやるから」、「面白そうだから」と動機は単純なのである。いじめや万引きなどの行動も幼稚で、大人や店の人にすぐに見つかってしまうことが多い。この時にいじめや万引きがバレて、親に「殴られた」、「正座させられた」、「犯罪だと怒られた」、と本気で怒られたり、一緒に謝りに行ってもらった学生は「親を信頼している」と答えている。一方、万引きした時に、親が「黙っていればわからない」と言った学生は、それを聞いて親に「不信感、軽蔑」を抱くようになっとも答えている。

養護教諭の素朴な疑問

image津久井 要・横浜労災病院心療内科医師

前半は、養護教諭が日ごろ抱いている疑問を、小学校、中学校、高校それぞれの立場の養護教諭3人に提起してもらった。その疑問に対し心療内科医の津久井先生がその疑問に答えながら、参加した先生方も一緒に考える場となった。
先ず「心理的な問題のある子どもの保護者に専門医を紹介する場合、心療内科か精神科の判断基準は何ですか」という質問に対し「まず校医、スクールカウンセラー、主治医などを通して専門医を紹介するのがいいのではないでしょうか」といい、普段から信頼できるかかりつけ医をもつことの大切さを説明した。

さらに「親が治療に行かせないので、教師が見かねて子どもを病院に連れて行ったのですが保護者なしでも良かったのでしょうか」という質問に対しては「親の同意のない子に対してのこの対応は良くないです。児童相談所などに相談のうえ対応するべきです」と行き過ぎた対応を指摘した。

imageその他の質問としては、養護教諭の人間関係にまつわる問題、勤務時間内・外の区別の難しさ、ストレスの対応策などについて質問が出た。
後半は、「十代の心を探る全国青少年意識調査からー素顔の十代」を報告。現代の子どもは案外と健全な心、考えを持っていることを紹介した。

(健康かながわ2003年9月号)
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