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神奈川県予防医学協会の乳がん検診への取組み

77年に本格的に始まった当協会の乳がん検診

当協会が本格的に乳がん検診に取り組み出したのは1977年。それ以前は73年に開始した女性の総合検診の一項目として行っていたが、76年に乳がんの専門医の協力を得て「乳がん研究会」を発足。この研究会の指導のもとで検診方法も検討を重ね、当時全国的にみても数少ない最新鋭のマンモグラフィ(乳房X線写真)を当協会中央診療所に導入し、スタートをきった。

県域の乳がん検診に目を転じると、同年、厚木市と県立成人病センター(現がんセンター)と当協会の三者の協同で、厚木市で乳がん検診を開始。検診時には保健師らによる乳がんの知識や自己検診の普及にも努めている。翌78年には「神奈川県乳がん集団検診協議会」が設置され、検診のあり方や精度管理についての検討が行われ、その年、乳がん検診は県のモデル事業として1万人を対象に12市町で実施。79年から大学や専門医療機関と連携を図り、本格的に県の事業として進められることとなる。

87年老健法に乳がん検診導入

image1983年に老人保健法(=老健法)が施行されるが、乳がん検診が項目に追加されるのは、その4年後の87年(実施主体は市町村)。
老健法施行に伴い、県では新たに「成人病検診管理指導協議会」を発足させて、その中に乳がん部会を設置し、乳がん検診の精度管理や検診の進め方の検討もなされている。そして乳がん検診は、老健法で定められている検診方法によって専門医が視診・触診を行っている。この検診においてはこの協議会の一定の条件をクリアした医師が担当して検診は進められた。

「当時、乳がんは増加してきており、罹患率、死亡率ともに子宮がんを追い抜き、今後も増加すると予想されていました。そこで老健法事業に乳がん検診が組み入れられた。検査方法として既に視触診、マンモグラフィ、エコー(超音波検査)が実施されていたが、マンモグラフィについては乳がんの救命効果や発見率について我が国ではまだ十分なデータが揃っていなかったし、また機器の精度が現在に比べるとまだ低かった。エコーについては再現性が乏しかったり、個人の技量に負うところが大きいため、集団検診には適応しにくかったのです」と聖マリアンナ医科大学乳腺内分泌外科の福田護教授は当時の状況を話す。

「乳がん検診の目的は、第一に乳がんからの救命すること。そして機能温存などQOL(生活の質)の維持につながる早期発見と早期治療」と福田先生。 当時、早期がんの発見率をみると、視触診による乳がん集検は、病院の外来での乳がん発見率より高かった。「92年の日本乳癌検診学会での櫻井修先生(現横浜旭中央総合病院)の神奈川県の乳がん集団検診報告をみると、早期がんは、集検乳がんでは50%、外来乳がん24%で、当時としてはベストとはいかないが、ベターな視触診で進めていこうということになったのでしょう」

マンモグラフィ導入の背景

しかし「次第に検診特有のバイアス(偏り)などがあり、救命効果の視点からみると改善の余地があることが、さまざまな研究からわかってきました。そこで次の方法論が必要となる。その間、欧米ではマンモグラフィを用いた乳がん検診は救命効果があるという報告があり、欧州では50歳以上、米では40歳以上にマンモグラフィを適用するということになっています。また機器の精度も向上し、被曝量も少なくなってきた。 そこで我が国にもマンモグラフィを導入するかどうかという研究が厚労省研究班で行われ、従来の視触診にマンモグラフィ検診を併用するようにと提言が出されてきたのです」と福田教授はこれまでの時代背景について解説してくれた。

マンモグラフィ併用検診をサポート

image一方、横浜市では1980年に視触診による乳がん検診開始。翌年「横浜市乳がん検診協議会」を設置し、当協会が事務局を担当し、乳がん検診のあり方や精度管理について検討を進めてきた。92年モデル事業として視触診にマンモグラフィを併用した検診を当協会の中央診療所で実施。 2000年厚生省が「がん検診実施のための指針」を改訂。乳がん検診では50歳以上の対象者に、隔年で視触診にマンモグラフィを併用した検診の導入が謳われた。これを受け、横浜市では01年に「マンモグラフィ検診精度管理中央委員会(=精中委)」とともに医師、技師の講習会を実施し、同年10月にマンモグラフィ併用検診が開始された。

この横浜市の乳がん検診は、精度管理の向上と維持を図るため、マンモグラフィ実施機関で撮影と一次読影を行い、さらに検診開始とともに発足した「横浜市マンモグラフィ総合判定委員会」に送付し、二次読影と総合判定を行い、受診者へ検診結果を通知している。当協会は、同判定委員会の事務局としてその運営にあたっている。 また当協会は、マンモグラフィ検診を推進しくためマンモグラフィ搭載の検診車を昨年導入し、今年度から本稼動させている。

このように当協会の中央診療所においては従来からいち早くマンモグラフィを採り入れ、関係各機関との連携の上で検診を進めてきた。また乳がん検診の一次検診として視触診にマンモグラフィまたはエコーの併用検査を推奨している。これはより精度の高い方法で検診を行うことが望ましいとの考え方に基づくものである。 そしてその時代、その状況でベストと思われる方法を選択し、検診を進めてきた。

精度管理の重要性

マンモグラフィは乳房専用のX線撮影装置で、しこりになる前の微細石灰化や1㌢以下の乳がんを映し出すことが可能である。 「マンモグラフィの最大の特徴はいつでも誰でもが評価できる情報が入っているということです。しかし機器や技術の問題によって入るべき情報が入らなければ意味がなく、また入った情報を正しくアウトプットするためには医師の読影能力が必要。存在する情報が見落とされたり、逆に不必要な情報を過度に取り上げられることも不利益になります。また読影医も人間ですから限界もあり、ミスを起こさないために二重読影を基本としています。  つまり施設・機器の精度、技師の撮影技術、医師の読影能力という3つが求められます」と福田教授はいう。

単にマンモグラフィを実施すればよいというわけではない。 こうした事態を改善するため、日本乳癌検診学会、日本乳癌学会、日本医学放射線学会など6学会で構成された精中委では99年から講習会を行い、医師や技師の育成に取り組んでいる。認定医・技師の試験は、AからDの4段階評価で行われ、AとBには認定証を交付している。また検診施設でも機器や画像の品質などの評価認定を行い、その基準がクリアされている機関も医師、技師とあわせホームページで公開されている。

当協会は、医師、技師、施設の3つすべての認定を受けている。 福田教授はいう。 「大学病院などの治療機関ではなく、健診機関がこの3つすべてをクリアされたことに意味があります。今回の新聞報道などによってさらに受診者は精度の高い施設で受 診したいと思うでしょうし、その判断基準がこの認定を受けているということだといえます。 また今回の報道は乳がんが急増し、亡くなる方も多くなってきたという現実、しかも若くして乳がんになる方が出てきて待ったなしの状態になっていることを示していると思います。これを機に少しでも歯止めをかけることが求められているでしょう。その中で神奈川県予防医学協会はモデルになって情報を公開し、乳がん検診のレベルアップに努めていただきたい」

(健康かながわ2003年10月号)
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