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STD(性感染症) 子宮頚がんの若年化にも影響

性行為によって病原体が感染する「性感染症」(STD)が若者に広がっている。 専門家の間では、かねてから指摘されていた問題だったが、最近は、婦人科系の「がん」の増加とSTDとの関係が指摘されたり、感染者が献血して起きる輸血感染症の懸念も取りざたされるなど、国民の健康に深刻な脅威になりつつある。感染症予防教育の徹底が急務だ。

性感染症

インターネットの爆発的普及などもあり、性情報は私たちの身の回りにあふれている。しかし性に対する理解が偏っているためか、性感染症の危険を若者は実感できていないようだ。
その一端を示すアンケート結果が神戸市で11月に開かれた日本エイズ学会で、京都大の研究チームから報告された。西日本の約20万人規模の市に住む中学生約7,100人が対象。望まない妊娠を防ぐだけでなく、方法によっては性感染症予防にも有効な「避妊」について、「知っているか」との質問に、「知っている」と答えたのは、男子が約45%、女子も約70%にとどまったという。

昔は「性病」と言い、淋病などが思い浮かぶが、今やSTD(性感染症)のほうが知られた呼び方で、エイズやB型肝炎が代表格。いずれにせよSTDへの理解不足のまま、若者の間で病気は広がっている。その中で、最近問題になってきたのは、クラミジアという病原体が引き起こす性器感染症だ。
男性15万人、女性85万人が感染しているとの厚生労働省研究班の推計もある。研究班によれば、高校生の三年間をみると、特に女子生徒では、卒業時の感染率が、入学時の6倍にも増えている。東京都内の産婦人科を受診した女性の調査では、感染率は10%前後。中でも15歳から19歳は4人に1人と、最も多い年代だった。

クラミジアは、細胞内に寄生して増殖する微生物。結膜炎や肺炎を起こす種類もあ る。性行為で感染すると女性では子宮頸(けい)管炎、男性では尿道炎を起こし、かゆみや痛みを伴う場合がある。
クラミジア感染者は性器の粘膜が荒れ、ウイルスの侵入も容易に許してしまう。エイズウイルス(HIV)に健常者の5倍も感染しやすいという。「エイズ流行の危機が迫る」と専門家は懸念する。

若年の子宮頚がん 10年で4倍に増加

一方、STDは婦人科の癌にも関与が疑われ、若い女性で深刻化の兆しがある。
国立病院呉医療センター(広島県呉市)の研究チームのまとめで、若い女性の子宮頸がん患者が、最近十年で4倍に増えていることがわかった。広島県内の調査だが、全国的な傾向とみられる。
子宮頸がんは、子宮の入り口付近にできるがんのこと。急増の原因は不明だが、STDの増加も一因とみられる。というのも、一部の子宮頸がんの発症には、性行為などで感染するパピローマウイルス(HPV)が関与しているとされるからだ。
がんを起こす病原体は、成人T細胞白血病ウイルスや特殊なリンパ腫を起こすEBウイルスなどが知られているが、パピローマウイルスも、感染した細胞の遺伝子に変異を起こしてがん化させる。
このがんは30歳以降で発症の危険が高まると考えられてきた。研究チームは、同センターと広島大学病院で1982年以降に子宮頸がんの治療を受けた患者約2,000人の年齢を調べた。29歳以下の女性が占める割合は、91年以前は2%だったが、92―96年は6%、96―2001年には8%まで増加した。

また、過去三十年間に同県内で検診を受けた29歳以下の女性約6,100を調べたところ、検診で初期の子宮頚がんが見つかるケースも増加傾向にあった。専門家の間では、性行動の低年齢化でHPV感染の可能性が高まり、それが若い患者の増加原因の一つと考えられている。
ほとんどの自治体で子宮頸部がんの検診は30歳以上が対象。20代を対象にした検診を実施している自治体は非常に少ない。そのため、日本産婦人科医会がん対策委員会では、子宮がん検診の対象年齢を引き下げる検討を進めている。ただ、検診年齢の引き下げと合わせて、感染の危険性について理解を深める教育も重要だろう。

輸血感染の危険

さらにSTDには、輸血感染の危険という見逃せない側面がある。STDの代表格はエイズやB型肝炎。病原体のHIVやHBV(B型肝炎ウイルス)に感染している人が献血すると、これらが輸血によって感染し、被害が広がる恐れがある。
これら病原体は、感染直後はウイルス量が少なく、検査で発見できない「ウインドーピリオド」と呼ばれる期間がある。このため、輸血用血液に100%の安全が保証されているわけではないが、可能な限り感染の危険を排除する手段は講じたい。

輸血用血液を供給する日本赤十字社は99年に、病原体の遺伝子を詳しく調べる「NAT」という高精度検査を導入した。その結果、ウインドーピリオドが短縮される効果はあったが、HIVで11日間、HBVで34日間、C型肝炎ウイルス(HCV)で23日間は、それぞれ検出が依然困難だ。
この献血時検査では、何度も献血している人が、ある時点でウイルス感染が判明した場合、過去の献血をさかのぼって調べ、血液が使われずに残っていれば廃棄できるし、すでに輸血されたり、血液製剤の原料になって患者に使われている場合に、その人に感染していないかなど追跡調査ができる。

03年春に輸血が原因とみられるHBV感染のケースが発覚し、厚生労働省が日赤に徹底した調査を指示した。遡及調査と呼ばれるこの一斉調査や、医療機関から日赤に寄せられた情報から、STDの病原体が献血検査をすり抜けている実態が明るみに出た。
まず、HIVのすり抜けが発覚した。これは、HIVに感染した男性が02年夏に 献血した際、NAT検査で感染がわかったが、その二週間前にも献血していて、たまたま血液が残っていたため、特別に精度の高いNAT検査をしてみると、微量のHIVが検出されたケースだ。使用されなかったのは、血液製剤の原料として保管されていたためで、有効期限の短い輸血用に回っていれば使われた恐れがあった。

また、日赤による一斉遡及調査の中間報告(03年10月)では、保管血液のうち95年以降の26,000本あまりに、すり抜けの恐れが判明。3,900本の検査を終えた段階で、HIVは検出されないものの、HBVは1.5%にあたる60本から検出した。
若者など奔放な性行動に走る人たちが、STDにかかっていないか検査する目的で献血する例もあり、モラル低下を関係者は憂慮している。
検査法や治療法の開発も大切だが、今後力を入れるべきは、STDの知識の普及による予防教育の徹底だ。
文部科学省は、最新の学習指導要領で中高生の保健体育に性感染症の内容を盛り込んだ。STDは「性行動の乱れた一部の人の問題」という意識は根強い。事態はもっと深刻であることを若者に伝え、性意識を抜本的に変えていく努力が急がれる。

(健康かながわ2003年12月号)
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