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リストラ時代のメンタルヘルス

厚労省による労働者の仕事におけるストレスの調査(下グラフ)では、5年前と比べるとストレス因のいくつかは減少したが「雇用の安定性」「会社の将来性」といったストレスは増大、「リストラ時代のメンタルヘルス」を暗示する結果が出ている。横浜労災病院心療内科部長で産業医でもある江花昭一先生にビジネスマンを取り巻くメンタルヘルスの現況と対策を伺った。

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●目標を達成すればまた追加
●身を粉にしやればやるほど仕事増え (第一生命サラリーマン川柳コンクールより)

これが今のリストラ時代で会社に生き残ったサラリーマンの姿です。 アメリカでもリストラは相当行われていますが、首を切られずに企業の中に残った人、サーバイブした人(生き延びた人)のメンタルヘルス不全が問題になりました。 今度は自分がクビを切られるのではないかと不安になり、残った少ない人数で仕事を行わなければならないというストレスも大きく、組織再編で新しい職場や仕事に適応できるかという問題もあります。

このように、サーバイブした人に精神や身体症状が出現する現象をサバイバー症候群と言います。日本でも多くの勤労者がそのような状態になっているのではないかと考えられます。 このように職場ストレスは確実に増えています。勤労者への直接の負担が量的、質的に増えているということだけではありません。出向や配転、あるいは業務内容の変更に伴って、単に頭脳労働あるいは肉体労働というだけでなく、気分・感情が揺さぶられる事態が急に増えています。人間関係が変わりますし、人間関係の調整も難しくなってきているからです。 結局、仕事をやる意欲・気分が疎外され、勤労者の感情・気分が消耗しているのです。

うつ病は別名、気分障害・感情障害といって、頭がおかしくなるわけでもないし、直接体の病気になるわけでもない。しかし、気分がブルーになる。非常におっくうになって抑制された状態になる。このような気分、感情の消耗感がうつ病の本態です。 うつ病は英語でデプレッションといいます。これは本来不景気という意味。経済が不景気になるとデプレッションも増えていきます。不景気がうつ病が増加する原因になっているのです。

会社共同体の崩壊とモラルの低下

日本では、会社は共同体でした。会社員はこれまで、町や村などの地域共同体、あるいは家族共同体と同じ感覚で会社に所属し、同じ釜の飯を喰った仲間と思い、一緒に仕事をしていました。自分のためというより会社のために働く、仲間のために働く、というのが日本的な勤労風土でした。 しかし、昨今では会社そのものが共同体であることを自己否定し、働く人々が仲間でなくなってしまっています。お互いがお互いの競争相手になっているのです。 そうすると、お互いに気配りしてサポートするという連帯意識が弱くなっているのではないでしょうか。会社が共同体でなくなり、単なる利潤稼ぎの手段になっていることが問題です。

その中では勤労者のモラルも低下しやすいのです。モラルハザードという言葉がありますが、昨今内部告発によって問題が露見し、企業イメージがダウンして、ますます企業が危うくなるとい事件が続いています。 これまで日本人は、勤勉で働くモラルが高く、製造業は世界一だと言われていましたが、そういう勤労意欲も下がってしまう。製品を使う人のための仕事をする、あるいは買ってくれる人のための仕事をする、という価値観がなくなり、お金さえ儲かればいい、自分さえ良ければいい、というスタンスになりがちです。 総括して言えば、働きやすかった職場が働きにくい職場に変わっている、ということがメンタルヘルスを取り巻く大きな問題だと思います。

メンタルヘルスのマネジメント

ストレス病の中心は、やはりうつ病です。うつ病は非常によく見られる病気で、特に自殺者の70%がうつ病、うつ状態であったと言われています。うつ病の人は真面目、几帳面な性格の方が多く、疲れが蓄積しても休むに休めない人が大半です。また、疲れに対する本人の気づきも悪いので、どの時点でもいいので周囲でストップを懸けてそれ以上悪化しないようにする、ということがマネジメント上大事なことになります。 うつ病にならない、悪くしないために大切なのは、職場での管理です。

上司の心構えで大事なことはカウンセリングマインドです。カウンセリングマインドなどと言うと何か難しいようですが、お互いを気遣いサポートし合うという気配りのことです。 職場内で、サポートを人任せにしないで自分がやるんだ、という気持ちが大事です。昨今のリストラ時代では、会社の人間関係のそうした姿勢がだんだん薄くなってきて、文字通りの競争社会になっています。競争が煽られた上で、その結果は自己責任だといわれてしまうので、もう行き場がなくなってしまいます。 カウンセリングマインドは、こういう競争社会であればあるほど必要になってくるのではないでしょうか。

カウンセリングマインドを実践する

①観察する
まず上司は部下をよく観察する。これが大切です。何か普段と違うということが生じていたとき、それに気付くか気付かないかが分かれ目です。人間は、自分のことには気付きにくいのです。 勤労者の不調は、家庭で気付かれる場合もあれば、職場で気付かれる場合もあります。具合が悪くとも、自分ではそうは思わないので、周りの人が気付いてあげる必要があります。

②声をかける
そういう時には声懸けをする。これをするだけで、救われる人がずいぶんいます。 ただし、部下と話をする場合、上司自身が自分に余裕が無い、自分が焦っているような時にはあまり効果がありません。自分の気持ちが少しゆったりしている時に、部下に会ったほうがよいでしょう。

③話を聴く
自分が話すよりも相手の話を聴くことが重要です。ところが上司の立場では、相手の話を聴くよりもつい自分の話をしてしまいます。「俺も若い時は悩んだ経験があってね」という話を先にしてしまいがちです。「俺はこんなことで悩みを克服してきたんだ」みたいな自慢話になって、聞いたほうもいやになってしまうということが起こります。 アクティブリスニング(積極的傾聴)という言葉がありますが、まず聴き役になることが大切です。何か結論を出さねばならない、良い忠告をしてあげなくてはいけない、アドバイスしければならない、というように焦らないことが大事です。

④原因を探さない
また、誰が悪い、何が悪いという原因があって、その結果として具合が悪くなっているのではないかと考えがちですが、原因探しに一所懸命になってしまうと問題がこじれます。特に心の問題は、原因を探してみても、過去のことであったり、他人のことであったりします。その点にあまりこだわらないようにして話を聴くことが重要です。

⑤あせらない、落ち込まない
さらに、上司には確かに監督責任があります。それで責任を感じるのはいいのですが、そのせいで焦ったり、自分が落ち込んでしまったり、ということがあってはいけません。責任を感じすぎないということも大切です。
最後に、最も大切なことですが、プライバシーの問題です。これに配慮することが何といっても大事です。 結論的に言えば、カウンセリングマインドを持つことは、「私もOK、あなたもOK」という自他肯定の心で接することとイコールです。自分の良い所、相手の良い所を生かすつもりで接することが本当のカウンセリングマインドだろうと思います。

(健康かながわ2004年2月号)
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