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心の健康対策 安衛法の改正を検討

働く人たちのメンタルヘルス(心の健康)の問題が最近注目されるようになってきた。労働者の体調管理といえば、これまでは「身体の健康」に目が向けられていたが、ストレスの多い現代社会では、職場での悩みも複雑で多岐にわたる。「心の健康」はプライバシーにかかわる微妙な問題との意識が根強く、企業側でも手を出しかねている面もあったが、個人では対処しきれず深刻化する事態もある。このため厚生労働省も、労働安全衛生法の改正も含め、企業側に十分な配慮を促すなど、本格的な対策に取り組む検討をしている。(読売新聞東京本社科学部次長・佐藤良明)

メンタルヘルスは古くて新しい問題と言える。労働安全衛生法にも、「事業者は労働者の健康に配慮して、従事する作業を適切に管理するように努めなければならない」との規定がある。ここでいう健康には「身体の健康」のみならず「心の健康」も当然含まれる。
厚労省は今年4月に「過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会」(座長=和田攻・東大名誉教授、メンバー9人)を立ち上げ、同法を改正して、より具体的なメタルヘルス対策を効果的に行う枠組み作りをスタートさせた。

これに先立つ2000年8月、旧労働省は「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を策定した。この指針が、わが国の職場に於けるメンタルヘルス対策の「道しるべ」だった。

image指針では、事業場に「心の健康づくり計画」を作るよう促している。これは「心の健康づくりの体制の整備」「事業場における問題点の把握」「必要な人材の確保」「労働者のプライバシーへの配慮」の4点が主な内容。この計画に基づいて、メンタルヘルスケアを進めるとしている。

指針が挙げるのは「労働者自身による(ケア)」「管理監督者による」「産業医、衛生管理者等による」「事業外の機関、専門家による」の4つのケアだ。
そのうえで、労働者自身の対処(セルフケア)を進めるためには研修を実施したり、産業保健スタッフを充実させて、労働者の相談に応じたり、労災病院など外部機関を有効に活用することなどを列挙している。
しかし、この指針には強制力がなく、企業側の自主的努力に期待するのにとどまっていた。指針の実効性を疑問視する声が産業保健関係者から出ていたことから、厚労省では今回、指針よりも強い措置である法改正も検討し、企業側に「心の健康」問題を強く自覚させることにした。

こうした法改正に進む背景には、働く人たちの心の悩みが深刻化する一方という現状がある。警察庁のまとめでは、2002年の自殺者は約3万2千人。1998年から3万人台で推移している。このうち労働者(管理職および被雇用者)は、2000年が7,997人2001年7,999人、2002年が8,215人と8千人前後で推移している。自殺の理由は様々だが、強いストレスがかかった状況もあったと推察される。

この事態に厚労省では2001年12月、「職場における自殺の予防と対応」(自殺予防マニュアル)を策定していたが、さらに施策を充実させる必要が出てきた。
また、厚労省が実施している「労働者健康状況調査」(1万6千人対象、2002年10月31日現在)によれば、労働者の61.5%に強い不安・悩み・ストレスがあるとされる。その内容をみると、上位(複数回答)は、「職場の人間関係」35.1%、「仕事の量の問題」32.3%、「仕事の質の問題」30.4%となっている。

当然、企業側も「心の健康」に気を配るべきだが、実態は十分とはいえない。
同じ調査で全国1万2千の事業所に照会したところ、心の健康対策に取り組んでいる事業所は23.5%にとどまっている。1000人以上が働く事業所では約9割が実施しているものの、事業規模が小さくなるほど実施率は下がる。

現行の法体系では、企業は労働者の健康診断を最低年一回は実施して、必要な場合には医師から意見を聞き、適切な措置を講ずるよう定められている。しかし、健康診断の際の問診では、メンタルヘルスについて労働者側からはオープンに相談しにくいのが実情で、なかなか悩みの解決につながりにくいとの指摘が出ていた。

論議のポイント

そこで厚労省では、法改正により企業側の強い意識付けを期待する。厚労省労働衛生課は「八月をめどに検討会の結論をとりまとめたい」としており、次期通常国会への法改正案提出を目指している。

改正のポイントは、労働者が心身の不調を感じた時に、専門医の診断を受けやすくし、企業側もそれにこたえなければならない点だ。例えば、労働者が社外の精神科医の診断を受け、結果を企業に提出した場合、これまでは明確な規定はなかったが、改正後は適切な措置を講ずるよう企業側に義務づける方向で検討している。

検討会の中では、産業医の役割の重要性が論議されている。労働者の健康管理に目配りする産業医は、健康診断の結果に基づいてアドバイスをするが、検討会の委員からは「産業医が身体の健康にとどまらず、メンタルヘルスまでカバーすることができるのか。知識を十分に持っているのだろうか」という疑問も出されている。
これに対し、労働者が外部の医療機関を受診すると情報がそこにとどまって、企業や産業医に還元されないという懸念も指摘されている。現実的には、企業活動にかかわることのできる精神科医は少なく、企業の内実を知る産業医との連携が求められてくる。このため、外部との情報ネットワークをいかに構築していくかという点も今後の課題として浮上してきている。

一方、今のところ改正法に企業側への罰則は設けられない見通しだ。とはいえ、精神疾患にかかった労働者が企業を相手に損害賠償請求の訴訟を起こした場合、企業側が何も効果的な対策をとっていないと、改正法によって企業の不作為が問われる事態も想定されることから、厚労省では企業側に対策を促す効果はあるとみている。

厳しい経済環境など労働者を取り巻く環境は年々大きく変わりつつある。メンタルヘルスが決して軽んじることのできない問題であることを、関係者は改めて認識すべきだろう。 (図表は職場における心の健康づくり 中央労働災害防止協会より引用)

(健康かながわ2004年7月号)
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