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健康かながわ

消化器病の検診 上手な検診の受け方

消化器検診というと皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?当協会では救命可能ながんを発見することを目的に胃や大腸を中心としたさまざまな検査を行っています。当協会消化器検診部の石野順子部長(写真)にこの消化器検診をめぐって、受診者の方々からよくある質問などを交えて、安心して上手に消化器検診を受けてもらうための「消化器検診の話」を聞きました。

検診と健診の違いをご存じでしょうか。

image検診とは病気があるかどうかを調べる検査です。治療が間に合ううちにがんや病気を見つけ、検査を受けた方がその病気で命を落とすことを防ぐことが検診の目的です。
がんが多くみられる年齢の人々を対象として、胃がん検診・大腸がん検診・肺がん検診・乳がん検診・子宮がん検診などが全国で行われています。

一方、健診とは「健康診断」を略したことばで、みなさまの健康状態をしらべる検査です。
若い人からお年よりまで、あらゆる年齢の方が対象で、健康を保つうえでのご参考としていただくことを目的としております。
どちらも「けんしん」と読むので、年に一度の検診と健診を同じものと思っている人も多いのですが、「がん検診で心配なし」は必ずしも健康の保証ではありませんし、「健診で異常なし」とされてもがんの危険がないという保証にはなりません。
ご自分がお受けになる「けんしん」がどちらの種類か、どこまで安心して良いのか、一度お確かめになってみてはいかがでしょうか。

当予防医学協会では健康診断、がん検診、健康診断とがん検診の両方を組み合わせた人間ドックをご用意しております。健康を保ち、がんや生活習慣病で悩まされない、安全で快適で幸福な人生を送るためにぜひご利用下さい。

がんについてわかっていること

私たちの身体は60兆個を超える細胞でできています。それぞれの臓器の細胞には一定の寿命があって、順番に新しい細胞に入れ替わっています。数十年の人生の間、天文学的な回数で全身の細胞の入れ替わりが行われていることになるわけですが、この細胞が入れ替わる際、一定の確率で「まともでない細胞」が生まれてしまいます。こうした「まともでない細胞」の殆どは、身体に備わった免疫というしくみによって消滅します。免疫に滅ぼされることを免れた、「まともでない細胞」が増殖をしつづけると「がん」という病気ができることがわかっています。

10万人の人口のうち、がんと診断された人の数をがん罹患率(りかんりつ)とよびます。がんにかかる率の目安です。このがん罹患率は年齢とともに増えてゆきます。たとえば、胃がんの罹患率をみますと、40代に比べて50代は10倍に、60代は50代の10倍になっています。つまり、60代では40代の100倍、胃がんにかかる率が高くなるわけです。また、男性と女性をくらべると、男性の胃がんや大腸がんの罹患率は女性の約2倍も高いのです。

長生きは素晴らしいことですが、がんにかかる率は高くなりますので、幾つになってもがん検診はお受けいただきたいのです。
がん細胞は、およそ10億個(10の9乗個)まで増殖すると、検診の検査で発見することができるようになります。この時期のがんは生まれ故郷の臓器にとどまっているため自覚症状はありません。こうした「自覚症状の無い時期にあって、検診で見つけることができたがん」を救命可能がんとよび、治療を受けていただくと治ります。がん検診は、救命可能がんを見つけることを目的としているのです。

いまのところ、細胞単位の発がん、つまり「まともでない細胞」の発生そのものを100%防ぐ方法は発見されておりません。がん病巣の早期発見と早期治療が最も効果のある対策なのです。

消化器検診について

image消化器のがんを、救命可能な段階で見つけ、治療を受けて治っていただくために、当協会ではさまざまな検査を行っております。
胃がん検診として胃X線検査および胃内視鏡検査と生検細胞診、大腸がん検診として便潜血検査・注腸X線検査・大腸内視鏡検査と生検細胞診、肝臓・胆嚢・膵臓・脾臓および腎臓の病気を発見できる腹部超音波検査やヘリカルCTを行っております。

万一がんなどの悪性の病気やその疑いが見つかった場合には、信頼できる病院や医療機関をご紹介いたしております。当協会の検診で見つかった胃がんの方がたの7割が10年以上生存しておられます。  また、がん検診の検査では、がんではない良性のものも沢山見つかります。
胃や十二指腸の潰瘍(かいよう)ががんになることはめったにありません。お薬による治療と、内視鏡検査や精密直接レントゲン検査による経過観察を行います。

大腸のポリープは取った方が安全ですので、病院やポリープ切除のできる診療所をご紹介いたしております。  胃炎や大腸炎、胃のポリープ、憩室とよばれる食道や胃や腸のくぼみ、胆石や胆嚢ポリープ、肝臓や腎臓ののう胞、肝血管腫、などは症状がないかぎり治療はいりません。年に1、2回の経過観察をお勧めいたしております。  消化器の外来で、よくお尋ねされる質問をご紹介します。

Q ピロリ菌があるといわれました。菌を駆除しなければなりませんか?

A 治っていない胃潰瘍や十二指腸潰瘍があってピロリ菌のいる人(ピロリ菌陽性者)に、除菌療法とよばれるお薬による治療をすると、およそ8割の方は、菌が消え潰瘍が治って再発をしなくなります。
当協会の中央診療所では、内視鏡検査の時に、潰瘍のみられた方には数分でピロリ菌の有無が判定できる「迅速ウレアーゼ試験」を行います。ピロリ陽性の場合は、診察と説明のうえ、除菌療法をお勧めしております。除菌療法に用いる抗生物質がからだに合わない方や、除菌療法をお望みにならない方には、抗かいよう薬を用いた従来どおりの治療を行っております。 ピロリ菌と潰瘍の除菌療法を受けた方には、およそ3カ月後に潰瘍の治癒(ちゆ)とピロリ菌の消失を確認する内視鏡検査と呼気試験という検査を受けていただきます。

ただし、日本人の50歳以上の6割の人はピロリ菌陽性です。病気を起こさない無害なピロリ菌と、潰瘍を起こすピロリ菌がいることが分っています。  胃や十二指腸の潰瘍のない人は、無害なピロリ菌ですので急いで除菌をする必要はありません。  胃がんの予防にピロリ菌除菌が効く、という説は、まだ証明されていません。  ピロリ菌がいる、といわれても、潰瘍や胃の症状がない人は年1回の検診をうければ大丈夫とお考え下さい。

Q 便潜血陽性といわれましたが大腸検査を受けなければなりませんか?

A 便検査は大腸がんの腫瘍マーカーではありませんが、便潜血陽性の人に大腸内視鏡検査や注腸X線検査を受けていただくと、過半数の人に大腸ポリープがみつかります。 大腸のポリープの8割以上は腺腫とよばれるタイプです。この腺腫は小さいうちは良性ですが、大きくなるとがん化します。当協会の統計では、大腸の腺腫ポリープの直径が10ミリを超えると2割に、20ミリを超えると5割にがん細胞がみられました。大腸ポリープは見つかり次第、内視鏡的ポリペクトミーという、大腸内視鏡を用いておなかを切らずにポリープを取る治療をまずお受けになるよう医療機関をご紹介しております。  
大腸ポリープを取ったことのある人は、またポリープが出来やすいので、1、2年に一度は大腸内視鏡検査をお受けになることをお勧めします。  ポリープの形ではない大腸がんは、肉眼で見えない程度の出血をよく起こします。便潜血陽性といわれたら必ず大腸精密検査をお受けになって下さい。

おわりに

医学はめざましく進歩しておりますが、いまだに「老いること・病むこと・いずれは死をむかえること」は克服できておりません。けれども、医療を上手に利用することによって、寿命いっぱい健康で快適な人生を送ることは可能であります。

私どもは、みなさまが心ゆたかで充実した毎日を送っていただけますよう、健康診断と検診とを通して、安心と健康を提供しつづけていきたいと願っております。

(健康かながわ2004年7月号)
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