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個別健康教育 行動科学に基づいたプログラム

神奈川県予防医学協会では、地域・職域・学校等で働く人たちの健康診断を実施しています。その結果をみると、有所見者が年々増加する傾向が伺えます。 健康診断の結果を良くするにはライフスタイルの偏りをなくすとか、生活習慣を改めデータの改善をすることが重要だということは誰もが知っています。 けれども行動を変えることは並大抵のことではありません。健康診断受診者には、それぞれの考え方や環境・おかれた状況などがあるからです。その人のレベルに応じて指導者として対応することが求められてきます。

生活習慣の改善とは、「セルフケア」の考え方を身につけ、それを実行してもらうことです。 従来、保健指導や健康教育は、指導者側の説明からはじめることが当たり前でした。そのため、個人にとっては、最初から受身になって指示を受けるという姿勢を育てられることとなり「セルフケア」の考え方と実行にはつながっていきません。

そこで当協会では「指導効果の証明されているプログラム」を導入することから始めました。このプログラムに沿って生活習慣を改善していけば無理なく実践できます。また、半年程度の期間でデータの改善を自分で確認しながら「セルフケア」を身につけることができるのが特色です。 個別健康教育とは 行動科学に基づいた「個別健康教育」は、先行の介入研究結果から、効果評価が証明されている日本でただひとつのものです。 また、平成11年旧厚生省実施のモデル事業とそれを受けた個別健康教育ワーキンググループで検討された、〝指導者マニュアル(上島弘嗣 岡山明 ほか著)〟と〝教材〟が整備されているので、各保健師が同じ技術での対応が可能です。

「個別健康教育」プログラムの期間は約6カ月。内容は、月1回の面接と計測、2ヶ月毎の血液検査を重視しながら、脳卒中・心筋梗塞の危険リスクをコントロールするために、喫煙・飲酒・栄養・運動・肥満など生活習慣改善について具体的なノウハウを提供していきます。 まず相談者に最初にフードモデルを使った詳しい〔食生活状況聞き取り調査〕と〔生活調査〕をします。次にその結果をもとに、保健師がアセスメントし、いくつかの改善点を出します。このプログラムでは、調査結果をアセスメントし、問題点をきちんと相手と共有することで、実行可能な改善点を具体的に決めていくことができるのです。

そこでアセスメント結果を、対象者の状況にあわせてポイントを絞り、その中から2~3個の改善目標を一緒に決めていきます。たとえば高コレステロール血症コースの人の結果で、脂肪の多い洋菓子の摂取割合が高い結果になった場合、ケーキより和菓子を選ぶという置換法を用いそれを実行目標とします。こうして実行したことの評価と目標を決め、6カ月間毎月相談の中でしていく流れとなります。

協会の取り組み

当協会が「個別健康教育」を取り入れた動機は、平成7年、第一線の保健医療従事者による「循環器疾患ハイリスク集団への、生活習慣改善によるリスク低下のための介入研究」に参加し「個別健康教育」を実施し効果を確認したことです。これがきっかけで、高血圧・耐糖能異常・高脂血・禁煙のプログラムを所見のある方に提供するようになりました。 この「個別健康教育」は、二次健診の受け皿としての生活習慣病外来や、労災二次検診、あるいは人間ドック受診者で、自身の生活習慣改善を目指したい人には、医師の指示により実施します。

要経過観察者には疾病予防・悪化予防のために、内服治療者においても基本は食事と生活習慣の改善が必要という点から、医師の理解を得ながら、外来における「個別健康教育」を取り入れています。また、今年度からはこれを、保健師の生活習慣病予防改善の指導技術を保証するものとして、全保健師が取り組んでいます。

二年間の結果から

image平成14年からの個別健康教育実施者の結果は、耐糖能異常・血中高コレステロール・高血圧についていずれも、データの平均値が低下しました。(表) 先行研究からは、六か月で体重が3㎏・総コレステロール値が10%下がることがわかっていましたが、当協会では体重2.1㎏の低下、総コレステロール値26㎎/dl低下の結果が出ました。血糖値については、空腹時血糖値が4.2㎎/dlの低下、ヘモグロビンエーワンシー値は0.1%の低下でした。

事例の特徴としては、実施4ヶ月後頃に体重や血液データが上昇する傾向がありましたが、最終時には再び低下する例が多く見られました。(表2)

実践の効果

image慣改善の具体的な取り組みは、無理せず進めることがポイントですが、参加者からは、〝自分の食事や生活習慣の傾向が自分自身で確認できるので、自分のこととして主体的に取り組むことができた〟とか〝押し付けられないからやる気になった〟と言う声が聞かれました。

また、参加の際には目標を聞かせてもらいますが、ベルトの穴が2個締まった、しゃがむことが楽になった、体が軽くなり疲れにくくなったなど、目標あるいそれ以上の達成の成果を実感するようです 。

6ヵ月のプログラム終了は新たな生活のスタートですが、以前の自分とは生活習慣が違っていることが大きな自信につながっていきます。〝これなら続けられる〟と言われるのは、保健師としても嬉しく感じる瞬間です。

今後の課題

保健師の指導技術の精度管理のため、当協会では外部機関での研修参加とそのOJT実施、更に内部での独自の研修プログラムですすめています。また、平成15年からは厚生労働省「糖尿病予防教育の長期効果に関する介入研究」に参加し、指導技術の向上に努めています。 保健師の指導技術は「個別健康教育」から他の相談活動にも応用できます。

企業の従業員や地域住民・病気治療中の人々、様々なところで価値観の異なるひとりひとりとの対話を重視した個別健康教育が行なわれていくことが大切と感じています。生活習慣病の予備軍を対象とした指導は、ほとんどの人に自覚症状がなく、自分の健康に関心がうすい「無関心期」の状態が多いといわれています。

そのために特に行動変容のステージモデルの無関心期にどのように対応するかということにかかわってきます。さらに全体に行き渡るような集団を対象とした環境整備と個別健康教育の応用を考えています。また、「個別健康教育」により6カ月間生活習慣改善に取り組み終了した人のフォローアップと、ネットワークづくりも考えているところです。
(神奈川県予防医学協会保健師・亀ヶ谷律子) 

(健康かながわ2004年10月号)
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