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健康かながわ

循環器疾患とその予防

我が国の死亡順位の1位はがんである。2位は心臓病で3位は脳血管疾患であるが、これは循環器疾患に含まれる。循環器疾患は確実に予防できるという意味で予防医学の上からも重要な疾患である。今回は杤久保修・横浜市立大学教授に「循環器疾患とその予防」をテーマに寄稿いただいた。

「予防医学」の再認識・将来方向・展望を考える ―循環器疾患と循環器健診―

「循環器疾患最近の動向」

循環器疾患(病)には心疾患(我が国の死亡順位第2位で死亡割合約15%)、脳血管疾患(同3位、約14%)、高血圧性疾患、動脈静脈疾患などが含まれます。超高齢者社会を迎え、循環器病は、このように癌(悪性新生物、同1位、約31%)の次に死亡率の高い疾患でありますが、確実に予防できるという意味では、予防医学上の最も重要な疾患といえます。特に、最近では要介護の高齢者が急増しておりますが、脳血管障害はその約60%以上の原因[片麻痺や脳血管性痴呆(認知症)]を占めていますので、今それを予防することが急務です。

近年、日本を含む先進国では肥満とくに「内臓蓄積型肥満(Oと略)」が増加し、それに伴い高血圧(H)、耐糖能障害(G)、高脂血症(L)(メタボリック症候群、いわゆる死の四重奏)、その結果としての虚血性心臓病、脳梗塞の頻度が高くなっています。そこで健康日本21でも国民の生活習慣(LSと略)是正として、肥満者の減少、1日の食塩摂取量の減少、高脂血症の半減,喫煙者や多量飲酒者の減少などを目標に立て、特に循環器病の予防対策を推進しています。しかし今年はその5年目中間の見直しの時期ですが、必ずしもその成果は上がっているとは言えず、肥満者は逆に増加しているのが現状です。そのために新たなLS是正法がぜひ必要となってきました。

「循環器病の予防」

循環器病は突然発症するのではなく、遺伝素因に加えて、長年のLS異常を放置することによりHOGLが発症し、さらに動脈硬化が進行することにより発作として顕在化する病気です。このため予防には二段階の対策が必要となります。まずLSの是正で、次にHOGLの早期発見(検診)とその管理ですが、ここでその効果を上げるのには二つの対策法が考えられます。

ひとつは従来のように医師や保健師などが単に「口頭」のみで指導する仕方ではなく、毎日のLSを自己評価自己管理(セルフケア―)することを支援する方法です。この方法は昭和五十六年から四年間、神奈川県予防医学協会と横浜市立大学との高校生(約一万人)循環器検診と事後指導の研究事業において、高校生の高血圧症に対して「食塩テープ」による減塩自己評価自己管理法として用いました。その結果、約6割の血圧正常化率が得られ、この方法が極めて有効であることを確信できました。また最近では、肥満減量法として、精密体重計と万歩計を用いた自己評価自己管理法(はかるだけダイエットや体重計ダイエット)が「NHKためしてガッテン」の雑誌や「暮らしの手帖」でとりあげられ、この方法は少しづつ国民に浸透してきました。さらにメタボリック症候群の是正には、この方法に夕食前に寒天摂取を加えると効果的であることも判ってきました。

二番目の対策法として次のようなことが挙げられます。LS是正やHOGL管理の対象者は本邦では数千万人にもおよび、従来の検診や学校と職場での健診による保健指導のみの対応では不充分です。例えば高血圧についてみますと、血圧は一日に約十万個存在し、数十ミリ水銀も変動していますので、その正しい評価には日常生活での血圧評価(家庭血圧測定など)が必要ですし、脳卒中の発症数はむしろ血圧が120~140ミリ水銀の群の方が140ミリ水銀以上の群よりも多く、脳血管障害の予防には、数千万人を対象に早期の集団的対策(ポピュレーション戦略)が必要となっています。そうなりますと、現在の医療保健機関のみでは対応できず、家庭に居ながら自らがHOGLを検査でき、LSを自己管理できる新たなセンサーと情報技術(IT)を用いた広域予防医学情報システムが必要となります。例えば、検(健)診機関に行かなくても自宅で検査ができ、自己管理の専門的アドバイスを受けられる(ホームヘルスケア―)というようなことです。その手段としては、郵送検診やセンサーと直結した電送技術などがあり、技術的にはほとんど問題はありませんが、コストなど解決しなくてはならない問題がまだ残っています。しかし、本当に循環器病を予防し、要介護者を少なくしようとするなら、このようなシステムは今後必須となり、また時代の流れは何れその方向に向かうものと思われます。

(健康かながわ2005年5月号)
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