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がん検診の有用性を見直そう 子宮がん検診

子宮がんの死亡率は、1993年人口10万人に対して7.0だったのが、2001年には8.1人まで増加してきた。実は、子宮がん検診の受診率減少にともない、子宮頚がんの死亡率が少しずつ上がってきていたのだ。本号では、増えつつある子宮体がんの話も含めて、あらためて子宮がん検診を見直し、その有用性について、北里大学名誉教授で、当協会中央診療所部長の蔵本博行医師が解説する。

がん検診の有用性を見直そう 子宮がん検診をめぐって

image現在、女性の3.1人に1人ががんで亡くなられています。部位別の死亡率をみると、1位胃がん、2位大腸がん、3位肺がん、4位乳がんとなっています。全体的にほとんどのがんの死亡率が増加している中で、1960年は死亡率2位だった子宮頚がんは、1999年には7位まで下がりました。
もちろん、だから子宮頚がんには注意を払わなくていいというわけではありません。

子宮がん(体がん・頚がんを含む)の死亡率は、1993年には人口10万人に対して7.0人でしたが、それ以降どんどん上昇し、2001年で8.1人まで増えてしまいました。
同じ時期、当協会で実施している子宮がん車検診の初回受診率は減少傾向にありました。車検診だけでなく、病院での検診の受診率も下がっていました。つまり、検診の受診率が下がるのに反比例して、子宮がんの死亡率は上がっていったわけです。

しかも、子宮頚がんの発見率がいちばん高いにも関わらず、30代の受診率が年々下がってきています。人間の命は平等ですが、若い世代ががんに罹ると、社会的な意味での損失が大きいのが問題です。

有効性が実証されている子宮頚がん検診

現在、日本で行われているがん検診は、胃がん・子宮頚がん・子宮体がん・乳がん・肺がん・大腸がんの6種類です。これらは全て、発生率は高いが進行するまでの期間が長く、早期発見できるがんです。また、発見率も0.5%~1%(1000人中5人~10人に発見)と高く、コストパフォーマンスを満たしています。さらに、子宮頚がん検診と胃がん検診には死亡率を減らした実績もあります。

image子宮頚がん検診では、一次検診で子宮頚部の細胞を採取する細胞診を行います。二次検診では、細胞診に加え、コルポスコープで子宮頚部を観察します。当協会では両者を使う精度の高い方法を一次検診に採用しています。
このようにして見つかった子宮頚部の病変は、軽度異形成・中等度異形成・高度異形成(前がん状態)→上皮内がん(0期)→微小浸潤がん(Ia期)→浸潤がん(Ib~Ⅳ期)の順で進行していきます。当然のことながら、進行するほど5年生存率は下がります。

北里大学のデータでは、Ib期87%、Ⅱ期69%、Ⅲ期40%、Ⅳ期になると20%しか治りません。浸潤がんになると、子宮を摘出する4時間もの大手術をしてどうにか命が助かりました。

ところが、0期やⅠa期の早期がんでは、ひとりも亡くなっていません。この段階で治療すれば、100%治すことができるのです。手術も、子宮の入り口だけを切除する「レーザーやループ療法」によって20~数分で終わります。術後5週間くらいは汚いおりものがでますが、子宮を取らず妊よう性を温存するため、がんを克服してからの妊娠・分娩も十分に可能です。なお、この手術によって、帝王切開や自然流産のリスクを高めることはありません。
ちなみに、平成6~10年度に神奈川県の車集検では検出された子宮頚がんのうち、77.7%が初期がん(0期・Ia期)でした。例え30歳という若さで子宮頚がんに罹ったとしても、検診によって早期発見すれば、命が助かるだけでなく、がんの克服後に妊娠・分娩という女性にとって幸福な体験もできるわけです。そのためには、いかに検診が重要であるか、おわかりいただけるかと思います。

増えてきた子宮体がん

さて、かつては「婦人科のがんの85%は子宮頚がん」といわれていた時代がありました。ところが、子宮がんで見てみると、年々体がんの比率が増えて、北里大学では昨年ついに56%になり、頚がんを逆転しました。子宮頚がん検診も大切ですが、時代の変化に合わせて、子宮体がんも早期発見していかなければならなくなりました。

子宮体がん検診では、子宮腔の奥まで細胞採取器具を挿入し、採取した子宮内膜の細胞を調べます。対象となるのは、「6ヵ月以内に不正性器出血があった者で、①50歳以上の者 ②閉経以後の者 ③未妊婦であって、月経不規則の者」。このような選択検診により、子宮体がんの発見率は0.13%となっています。

もし、これを無差別で検診を行っていたら、発見率はもっと低い数値になっていたでしょう。また、進行期別に見ると、早期がん(0期・I期)の発見率は80.2% と、病院で見つけられた体がんと比べて検診の方が有意に高い結果となりました。

ところで、早期発見できれば、体がんも頚がんと同様、子宮を取らずにホルモン療法を行うことができます。
これは、女性ホルモンのひとつである「黄体ホルモン」を1日に400~600mg投与する治療法で、北里大学で行ったところ、「29例中、62.1%に有効。5例に妊娠、3例に分娩(4名の生児)」という結果がでました。平均治療期間は29週と時間はかかりますが、この治療法によって、全国で20人ぐらいが出産しています。まだ主流ではありませんが、将来的に期待できる治療法です。

以上のことから、子宮頚がん・子宮体がんともに、検診を受けて早期発見すれば、完治しやすいことがわかりました。他のがんと比べて死亡率が低いからといって甘く見ずに、子宮がん検診の有用性を見直しましょう。

(健康かながわ2005年6月号)
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