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健康かながわ

日本がん検診・診断学会-女性のがん検診と性差医療

横浜で開催された第13回日本がん検診・診断学会*(会長=福田護聖マリアンナ医科大学教授)では、がん検診の普及に行政、一般市民の理解と参加が不可欠として、パネルディスカッション+市民公開講座による「女性のがん検診と性差医療」(座長=福田教授)が行われた。県が策定したがん10か年戦略についての松沢成文神奈川県知事の講演と、がん検診普及に活躍する医師4人の主張のあらましを紹介する(敬称略・文責=編集部)。*7月1・2日 神奈川県立県民ホール

女性の健康管理に欠かせないがん検診

荒木葉子 NTT東日本首都圏健康管理センター 東京管理センター

職場における各種がん検診は早くから導入されていますが、胃がん検診に比べると乳がん、子宮がんが実施されている職場は多くありません。平成13年にある職場の女性就労者41名を対象に行った検診項目の「理解度・受診希望」調査では、胸部レントゲン「100%・85%」、乳房触診「98%・72%」、乳房超音波「39%・72%」、マンモグラフィー「15%・26%」などの結果が出ました。検診名とその必要性を理解していても受診希望とイコールではない、言い換えれば、ほしい服はあるけれどいま買わなくても良いかな、もう少し先にしようかな、という「検診のお買い物」観が浮き彫りになっています。

労働安全衛生法に定められていなくても、就労期女性の健康管理にがん検診が重要であることは誰もが認めるところです。女性受診率は男性に比べて高いのですが、受診費用の自己負担など検討すべき課題は多いでしょう。検診内容、受診機関がわかりずらいという制度の複雑さも問題です。検診に関する正しい情報提供、受診行動を喚起する対策が求められます。

すすんで検診を受けたくなる環境づくりを

土井卓子 国立病院機構横浜医療センター外科

女性のがんは、胃がんに代わって乳がんが目立ってきました。35~45歳の女性では乳がん罹患率はトップになります。しかし乳がん受診率は上がっていません。男性医師、技師が多いため、女性の気持ちを理解した接遇がなかったとか、プライバシーに配慮した更衣室や検査室、リラックスできる検査着がほしいといった体験者の声が、受診を考える女性を躊躇させているのかもしれません。

欧米では、乳房にしこりがなくてもマンモグラフィー検診を受ける傾向があります。乳がん検診は「女性であれば受けるもの」という意識が浸透しているからです。日本ではまだ、乳がんそのものが他人事のようにとらえられています。マンモグラフィー併用検診を受ける女性は2.7%という数字がそれを証明しています。性差医療の概念が医療・検診実施機関に普及してきたいまこそ、検査値の評価方法も含めて女性受診者のニーズにあった環境づくりと「いつ・どこで・いくら」を明示した受診促進の広報活動が大事だと思います。

子宮(頸)がんの低年齢化を防ぐために

上坊敏子 北里大学医学部産婦人科

子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんは婦人科の代表的ながんです。危険因子や発がん因子はそれぞれ異なりますが、晩婚・少産化、肥満傾向や高齢化が影響しているようです。中でも体がんは、子宮がんに占める割合が42.2%(01年)と高く、症例数も3.3倍になっています。閉経後にかかるがんですが、最近では39歳以下の若年層で増加の傾向にあります。

子宮頸がんも、発症の低年齢化が目立ってきました。20・30代の増加傾向が続いているのは、クラミジアをはじめとする性感染症が若い女性の間で蔓延していることと無関係でないでしょう。60年代からの累計で約200万人が検診車でがん検診を受け、2000以上の症例が発見されていることから、検診による早期発見・治療は子宮頸がん予防に有効な手段といえます。若い女性には、セックスパートナーができたら検診を受けることをすすめます。30歳以上の女性を対象に年1回実施してきた頸がん検診が、20歳以上の女性を対象に2年に1回行うようになったのも、子宮頸がんの早期発見につながると思います。

マンモグラフィー検診とピンクリボン運動

島田菜穂子 南青山ブレストピアクリニック、乳房健康研究会

ここ数年、日本女性の乳がん罹患率・死亡率はともに増加の一途をたどり、壮年期女性では25人に一人が乳がんにかかっています。食生活を含むライフスタイルの変化、社会進出などが乳がん発症に大きく影響していると考えられますが、確実な予防法がない現状では検診による早期発見・治療が罹患率、死亡率を下げる最も有効な手段です。

各地で導入が進むマンモグラフィー検診も、受診率の伸び悩みから受診効果を発揮するまでには至っていません。NPO乳房健康研究会の調査によると検診提供者、受診者の間に乳がん、および乳がん検診に対する「正しい知識」が浸透していないのが一因との結論になりました。高い乳がん罹患率・死亡率に苦しんで生きた欧米では1980年代から乳がんに対する意識を広く国民に浸透させてきました。ピンクリボン運動に代表される啓発活動は日本でも定着し、乳がん理解とマンモグラフィー併用検診の受診率向上、政府の施策改善を促すまでになってきました。社会提言活動の継続は、乳がん理解にとても重要なものです。

(健康かながわ2005年8月号)
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