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第29回がん集団検診研修会

1に運動 2に食事 しっかり禁煙 5にクスリ

神奈川県都市衛生行政協議会(会長=三浦市)、神奈川県町村保健衛生連絡協議会(会長=寒川町)と神奈川県予防医学協会の共催による第29回がん集団検診研修会は8月8日、松村ガーデンホール(神奈川県予防医学協会7階)で開催され、県下25市町村および県の担当者など60人が参加した。

わが国は世界一の長寿国だが、国民がより幸福な人生を送るための戦略が「健康日本21」である。これは多数の項目ごとに到達目標を掲げており、その実現に市町村の役割は重要度を増している。今回は、厚生労働省大臣官房参事官(健康担当)・瀬上清貴氏を講師に迎え、生活習慣病の発症・重症化予防、メタボリックシンドローム予備軍対策など地域での取り組みについてお話を伺った(文責・編集部)。

生活習慣病体策と健康危機対応

公衆衛生の新たな潮流として「日ごろは生活習慣病対策を、有事は感染症対策などの健康危機対応」というアプローチが唱えられ、エビデンス・ベースド・ヘルス・ポリシー=根拠にねざした健康観を尊重していこうという動きがあります。前者としては2003年、WHO総会において「WHOたばこ対策枠組条約」が採択され、今年2月に40カ国の批准で発効しました。これによって喫煙の健康に及ぼす悪影響を減らし、健康増進を図ることで生活習慣病体策は一段と明確になりました。後者は食中毒や感染症の大量発生、中でもバイオテロでは公衆衛生の専門家に対し、現場での「最初の対処者」として行動する自覚と責任の大きさが求められています。この動きに伴って、地域保健対策の見直し、地域医療計画と一体となった地域保健計画の策定のもと、市町村は保健所など行政機関と住民側の連携の強化が必要です。今回は住民一人ひとりの生涯を通じた生活習慣病対策について話を進めます。

公衆衛生の専門家であるみなさんの悩みは、その大切さは理解されていても事後指導の実効性が感じられないことではないでしょうか。例えば、糖尿病の合併症や脳卒中の後遺症に悩む人が増えています。脳卒中発症者の一年後の姿を追いかけたデータによると年間発症者約23万4千人のうち、一年後死亡は約20%の4万8千5百人、生存(入院入所~自立回復を含む)は約80%にあたる18万6千人です。患者数は50歳以上で女性が男性を上回り、患者・死亡者数で見ると80歳以上で女性が急増します。介護施設入所者の8割が女性である背景がここにあります。軽度の要介護者が急増し、介護予防の効果も見えてこない。こうした状態を改善するために住民検診は有効な手段なのに、受診率は低いままです。

現代人は不適切な食生活や運動・睡眠不足、ストレス、過剰飲酒、喫煙といった生活習慣に身を置いています。健康体が肥満や血圧・血糖・血中脂質値の高まりで境界領域期に達しても、徹底的な保健指導による生活習慣改善によって健康に戻るのです。境界領域期の住民に対する対応の重要性を、みなさんは日々の業務を通じて実感されているでしょう。

健康フロンティア戦略推進事業

健康フロンティア戦略は、健康日本21の推進と特定課題の強化=健康寿命の延伸・介護重度化の防止・心筋梗塞と脳卒中、糖尿病性合併症による障害予防、働き盛りの健康づくり=糖尿病予備軍、メタボリックシンドローム予備軍への挑戦、そして健全な生活習慣への改善の動機付けを中心とした支援の徹底、などを掲げてこの4月から取り組みが始まりました。このうち、生活習慣改善の動機付け支援の徹底は、個々の抱える生活習慣の問題に気づかせるため、従来の検診データに基づいた表面的なアドバイスから一歩踏み込んだこれからの保健指導の中核をなすものです。

メタボリックシンドローム予備軍対策と 生活習慣病の発症・重症化予防

生活習慣の変化や高齢者の増加などで生活習慣病の国民、予備軍は増える傾向にあります。30歳以上の国民の2千2百万人が肥満で、糖尿病や高血圧症、高脂血症を重複しているという推計もあります。過食や運動不足でカロリー過多になり、内臓脂肪が蓄積され、糖尿病や心筋梗塞・脳卒中、高脂血症へと至るメタボリックシンドローム予備軍が増大していることを物語っています。

メタボリックシンドロームはウエストで男性は85cm、女性は90cm、HDLコレステロール値が40mg/dl未満などの2つ以上を満たす場合と位置づけられています。高血糖・高血圧・高脂血・内臓肥満は別々に進行するのではなく、メタボリックシンドロームという一つの氷山から水面に出ているいくつかの山の状態をいいます。従来の投薬による対処では、例えば高血圧という一つの山を削るにとどまります。根本的に大事なのは、運動習慣の徹底と食生活改善、禁煙といった生活改善を通じて「氷山全体を小さくすること」です。

耐糖能が異常でも、高脂血症、高血圧、高尿酸血症になっても健康な状態に戻すことができます。こうした病態の原因は内臓脂肪の蓄積、筋肉量(骨格筋)の減少=運動不足などが原因であることがわかっています。原因がはっきりしている以上、生活習慣改善の必要性がいかに重要かおわかりでしょう。そこで、異常発見をきっかけにした住民の考え方、行動変容を促す保健指導の重点は、
●1に運動(運動習慣の徹底) 2に食事(食生活の改善) しっかり禁煙 5にクスリ(医師の指導は受けよう)
●体力・状態にあった運動の継続(脱水症状、けいれんは即中止!) となります。クスリを与える前にやることの重要性を挙げています。

専門家としての評価力、企画調整力

生活習慣改善に向けて自らの努力を促す方法が行動変容モデルです。無関心な人に関心を持たせ、その準備を迎え、実行から習慣維持に至る過程ではさまざまな科学的手法に基づいた介入が必要です。自己効力感(注で説明を)が上がってくる人は、健康への自信や継続維持する意欲も高まってきます。一人ひとりがいい方向へと進みだしたとき、地域の保健指導を誰に任せるのか? という課題が浮かび上がってきます。きちんとした保健指導、健診・検診実績のある組織への委託をスムーズに運ぶとするなら、地域で活躍するみなさんには委託を考える組織のさまざまなスペックを読み込んで評価判断を行い、企画調整を担う能力が求められてきます。

国から地方への財源移譲による三位一体改革は、市町村の役割を増大しました。限られた人材で健康づくりを実現していくため、個々の能力向上と工夫を重ねていただきたいと思います。

image【瀬上清隆氏 略歴】
厚生労働省大臣官参謀事官(健康担当)
昭和54年 岐阜大学卒業、同年厚生省入省。
昭和58年3月まで神奈川県内の保健所など現場で修業。その後、文部省学校保健課、各大学の講師、世界保健機関、労働省中央労働衛生専門官、国立保健医療科学院公衆衛生政策部長など多数歴任し、平成16年より現職。医学博士。

(健康かながわ2005年9月号)
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