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新型インフルエンザ

ここ数年、アジアで流行している鳥インフルエンザが今年は欧州でも確認された。感染が続くことで鳥インフルエンザウイルスが変異し、人類が遭遇していない新型インフルエンザに姿を変え大流行する危険が高い。鳥インフルエンザの流行地域がアジア以外にも拡大したことで「新型の出現する可能性は、かつてないほど高まった」と専門家は警告している。(読売新聞東京本社科学部次長・佐藤良明)

新型出現まで3ステップ

ルーマニア、ギリシャなど欧州で検出された鳥インフルエンザは病原性の強い「H5N1」と呼ばれるウイルス。H・Nはウイルス表面の突起を指し、その違いで型分けしている。H5N1は東南アジアの流行国でもすでに見つかっており、その流行状況に世界中の関心が集まっている。
今年、茨城・埼玉両県で確認された鳥インフルエンザは病原性の強くないH5N2という別タイプだが、昨年の山口県や京都府などでのH5N1の発生は記憶に新しい。

鳥インフルエンザと新型インフルエンザ

では鳥の病気である鳥インフルエンザと人類を襲う新型インフルエンザはどう違うのだろうか。
大雑把に説明すれば、新型の出現までには三つのステップがある。第一は、鳥から鳥へ感染するインフルエンザの流行だ。次に鳥から人へ感染するインフルエンザの出現、第三が、人同士で感染する新しいインフルエンザの流行となる。

H5N1の人への感染は一九九七年に香港で初めて確認され、この時は六人が死亡した。世界保健機関(WHO)の十一月十日までの集計によれば、ベトナム、タイ、インドネシア、カンボジアでは二〇〇三年十二月以降、計六十三人が死亡した。
この中には人から人への感染が疑われる例もあるが、新型インフルエンザと呼ぶ段階ではない。鳥インフルエンザウイルスに大量に曝露された場合などは、偶発的に感染することもあるからだ。

新型とは、ウイルス自体も鳥型から人型に変わっている。鳥での感染が繰り返されることでウイルス変異の危険は高くなる。WHOの李鍾郁事務局長は欧州への拡大の状況から、新型の出現により「世界的な大流行になる可能性が高い」と、警告を鳴らし続けている。

新型の起源として専門家が最重点の警戒地域とみているのが中国南部や東南アジア各国。この地域では家の庭先でニワトリや豚などの動物を飼う生活スタイルが珍しくない。家畜、家禽と濃厚に接触するという暮らしぶりだ。
新型の起源は、ニワトリのウイルスが人間に感染し発病する過程のどこかで、ウイルスが変異した結果と考えられている。また、豚との接触も注目される。豚は鳥ウイルスと従来型の人間のウイルスの両方が感染する動物。豚の体内で鳥と人のウイルスが混在して新型が生まれる可能性もある。

imageWHOによる新型インフルエンザ大流行までの6段階

第1段階
人から新型のウイルスは検出されていないが、人へ感染する可能性をもつウイルスを動物で検出。
第2段階
人から新型のウイルスは検出されていないが、人へ感染する可能性の高いウイルスを動物で検出。
第3段階
人への新型のウイルス感染が確認されているが、人から人への感染はない。
第4段階
人から人への新型のウイルス感染が確認されているが、集団感染は小さい。
第5段階
人から人への新型のウイルス感染が確認され大流行の可能性が高い、より大きな集団で発生。
第6段階
大流行し、一般社会で急速に感染が拡大。

国際的な動向

こうした状況の中、十月下旬にカナダ・オタワで開催された鳥インフルエンザ対策を話し合う厚生担当大臣級の国際会議は、大流行に備えて各国が行動計画の策定をするのが重要だとするなど十八項目の共同声明を、EU各国を中心にまとめ、発表した。
十一月十日現在では鳥インフルエンザが流行していない米国も、ブッシュ大統領が、七十一億ドル(約八千三百億円)という異例の巨費を新型インフルエンザ対策として議会に要求するなど、欧米での警戒感は昨年とは大きく異なる。

患者は2500万人に

厚労省が昨年八月にまとめた「新型インフルエンザ対策報告書」によれば、日本国内の患者数は最悪の場合で約二千五百万人、死者は約十六万七千人に及ぶとしている。
欧州への拡大という新たな事態に、日本政府も十月末、厚生労働省が「新型インフルエンザ対策推進本部」を設置したのを手始めに、政府全体の行動計画も策定した。

一方、WHOが想定する二〇〇五年版の「パンデミック・フェーズ(大流行の状況)」によれば、流行は六段階に分類される。第一段階は「人間から新しいインフルエンザウイルスは検出されていないが、人間へ感染する可能性を持つタイプのウイルスを動物で検出」で、最悪の第六段階は「大流行が発生し一般社会で急速に感染が拡大している」になる。
WHOによれば、十月末現在は、第三段階(人への新しいインフルエンザ感染が確認されているが、人から人への感染は基本的にない)に該当するといい、対策本部の設置もこの状況に基づく。

各段階に見合った医療や情報発信の体制整備をはじめ、新型患者が発生した段階では、患者の強制入院や、患者と接触した人や汚染された建物の立ち入り調査を可能とし、大規模な集会や外出の自粛を呼びかけるなど様々な対策が必要になる。
また、ワクチン開発や検査体制の整備、インフルエンザ発生動向の調査など課題はいくつも挙げられる中、特に注目を集めているのが、インフルエンザ治療薬「タミフル」(一般名・リン酸オセルタミビル)の確保だ。

政府の国家備蓄計画によれば、必要量を二千五百万人分と想定。輸入・販売元が保有する分で足りない五百万人分を、今年度から国と地方自治体が五年間で確保する構想だ。
ただし、米国が四千四百万人分、EUも一億一千万人分以上の備蓄目標を掲げるなど世界的な需要の急増という新たな事態に、製造元であるスイスのロッシュ社は増産・供給体制の再構築を迫られている。日本の備蓄計画がスムーズに進むかどうかは不透明だ。

新型が流行しても、重症化をまぬがれる人もいる。一般市民のレベルでは少なくとも「人込みを避ける」「こまめに手洗いやうがいをする」「栄養と睡眠を十分確保する」といった感染症予防の基本は守りたい。

(健康かながわ2005年12月号)
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