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労働安全衛生法一部改正

産業構造の変化や働き方の多様化など働く人の環境が大きく変化してきた。それに伴い、長時間労働による健康障害やメンタルヘルス不全の増大,子育て世代の時間確保の困難化など働く人の命や生活の質に大きな影響を及ぼし、その対策が急務となってきた。こうしたなか職場における労働者の安全とさらなる健康確保の充実推進を図るため、労働安全衛生法会が改正され,今年4月1日から施行されることとなった。本号では、労働衛生コンサルタントでもある竹田透・産業医に今回の改正点、特に過重労働 ・メンタルヘルス対策について解説をお願いした。

医師による面接指導制度導入

昨年秋の国会で労働安全衛生法が改正されたことを受け、本年1月には改正安全衛生規則が公布されました。その中には、過重労働・メンタルヘルス対策として創設された面接指導制度が含まれており、従来は行政指導(「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」基発第0212001号、平成14年2月12日)に基づいて実施されていた対策が、各事業場において法の下に取り組むことが義務づけられました。

図はその概要を示してありますが、まず対象者としては法的な義務を負うのは「休憩時間を除き1週間当たり40時間を越えて労働させた場合におけるその超えた時間が1ヶ月当たり百時間を超え、かつ、疲労蓄積の認められる者」(安衛則第五十二条の二)とされています。また面接指導の実施は「労働者の申出により行う」こととなっています。まずこの2つの条件がそろった労働者に対し医師による面接指導を行うことが義務付けられます。

さらに、時間外労働が百時間を超え疲労蓄積がある労働者以外にであっても健康への配慮が必要なものに対しても、必用な措置を講ずるように努めるように定められており(努力義務)、実際には事業場において自主的に基準を作成して、法的義務のある労働者と同様の対応をしていかなければなりません。

これらの対象者に対し、医師が面接指導を行うことになりますが、その医師は産業医に限られてはいません。もちろん、産業医を選任している事業場においては産業医が実施することが望ましいことは健康診断の事後措置と同様ですが、面接指導の仕組みの中で疲労蓄積の評価から検査・診察に至るまでの部分を外部の医師に委託し、評価・判定や事業者への意見といった事後措置の部分のみを産業医が行うという方法も想定できるでしょう。なお、50人未満の事業場におけるこの面接指導制度の適用は、平成20年度からとなっており、2年後のスタートとなりますが、その実施にあたっては、地域産業保健センターの関与が期待されています。

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面接指導マニュアル

面接指導の仕組みは、今回法律として位置づけられましたが、従来の行政指導に基づく過重労働対策でも、産業医による面接指導が求められていたものです。しかし、実際には面接指導の場面で具体的に何をしたら良いのかわかりにくい、という意見も出ていました。このような背景もあって、今回の法改正にあわせて面接指導を実施するに当たってのマニュアルが作成されています。これは、産業医学振興財団が厚生労働省の委託を受け、「長時間労働による健康障害防止のための医師の面接指導マニュアル及びチェックリスト」として作成したもので、昨秋から産業医を対象としてこれらの使い方を含めた研修を各都道府県で開催してきました。(産業医全体に周知するにはまだ不十分であるため、今後は各都道府県の産業保健推進センターが中心となって、研修が開催される予定)

このマニュアルには、面接指導を行う一連の手続きや実施内容、評価方法などが含まれており、①労働時間や業務内容等、労働者について事業者によって提供される情報、②業務の過重性・ストレス性の評価、疲労蓄積度チェックリスト、うつ病一次スクリーニングといった労働者本人からの情報、③医師による面接指導と措置に分けて、それぞれ詳細に解説がつけられています。例えば、法で義務づけられる“疲労蓄積の認められる者”の評価方法や“うつ病の危険性が高い者”の判断方法や、医師による面接指導の部分では、職業性ストレス簡易調査票の活用や、うつ病の二次スクリーニングとして構造化面接法を、またメタボリックシンドロームをも意識した診察・検査の内容を示されています。さらに、評価・判定や事業者に対する事後措置の内容や方法についても詳述されています。各事業場で面接指導を実施していく上では、これを参考にして事業場にあった方法を検討していくことが望ましいでしょう。(マニュアル及びチェックリストは4月以降に産業医学振興財団のホームページに掲載される予定)

今後の課題

今後、過重労働・メンタルヘルス対策を事業場において実際に進めていく上では、対象者の選定、特に事業場における自主的な基準の設定方法について決めること、そして、具体的な面接指導の内容をどのようにするのか(マニュアルどおりにするのか、事業場にあわせてアレンジするのかどうか)などを決め、実践していく必要があります。またその前提として、労働時間管理を適正に行った上で、人事部門と健康管理分門が連携をして、タイムリーに面接指導を実施できる仕組みが必要です。しかし、法律で面接指導の実施が義務づけられたからといって、それを実施すること(法を守ること)ばかりにとらわれていては、本来の目的=過重労働による健康障害を防ぐ取り組みが実際に機能しなくなる恐れがあります。過重な労働と評価されるような労働時間をどのようにコントロールするか、あるいは、健康障害のリスクとなる労働者の健康をどのように保持増進するか、といった日常の作業管理・健康管理をあわせて実践していくことも重要な対策の一つです。この点についても十分意識を持って過重労働・メンタルヘルス対策を進めていかなくてはいけないでしょう。(竹田透)

(健康かながわ2006年3月号)
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