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がん対策情報センターを旗揚げ

国民だれもが望ましい「がん治療」を受けられるよう、厚生労働省は今秋から「がん対策情報センター」を旗揚げする。最新情報の収集を一元化するとともに、全国の拠点となる病院をネットワーク化して「情報格差」をなくす試みだ。(読売新聞東京本社科学部次長・佐藤良明)

がんは20年以上にわたり日本人の死因の首位を占めている。年間の死者は約103万人(2004年)で、このうち、がんによる死者は約32万人(同)。大雑把に言って国民の3人に1人が、がんで亡くなっていることになる。
かつては、がんの治療といっても、患者側が手にできる情報は限られていた。専門家である医師に任せるのが一般的だった。
しかし、インターネットの普及により、患者が様々な医療情報を容易に収集できるようになった。情報公開という時代の潮流もあって、「海外と日本の比較」「国内での地域間・病院間」といった医療格差が次第に明らかになってきた。

たとえば海外で実際に使われている新しい治療薬が国内未承認だったり、がん専門病院でも治療後の5年生存率にばらつきが出ていた。こうした現状に危機感を抱いた患者たちが「がん対策を充実させてほしい」と国に要望したことが契機になり、2005年5月、厚生労働大臣を本部長とする「がん対策推進本部」ができた。

がん対策情報センターは、推進本部が作った「がん対策推進アクションプラン」の中に位置付けられている。実は、日本のがん対策の総本山である国立がんセンターでも、こうした「情報センター」機能が必要なのではないかと、早い段階から議論していた。2004年2月にまとめた「がんセンターの将来像」を探った報告書でも、臨床開発センターと並んで情報センターの実現が不可欠とされていた。がん対策情報センターの登場は、いわば「時代の要請」でもあったと言えよう。

機能は5本柱

imageがん対策情報センターは国立がんセンター内に設置される。医師など10人程度のスタッフを予定している。推進本部によれば、情報センターの機能は、①がん医療情報の提供②診療支援③臨床研究支援④サーベイランス⑤研究企画支援…の5本柱で、患者・医療者双方に役立つ組織を目指すという。

患者にかかわる具体的なデータとしては、がん関係の学会で新たに作られたり改訂される「治療指針」やがんの臨床試験の結果、抗がん剤の副作用情報などを集約するという。

日本のがん対策を充実させるうえで、情報集約機能はひとつの目玉だ。その点、集めた情報に患者が適切にアクセスできなければ意味がない。そこで推進本部では全国135の「地域がん診療拠点病院」にネットワークで情報提供する計画を進めている。

さらに、患者の知りたい情報を整理するために、それぞれの拠点病院に「相談支援センター」を設ける。ここでは、情報センターからのデータに加え、地域内の病院情報や医師の専門分野といった情報も充実させ、患者・家族に医療アドバイスを行うほか、心のケアも実施する。
情報を集め、有効に生かす。そのどちらを欠いても、がん対策の充実は図れない。厚労省がん対策推進室の佐々木健室長補佐は「相談支援センターの機能をどうアップさせていくかが課題のひとつ」とみる。
佐々木室長によれば、こうした業務は「支援室」のような形ですでに実施している医療機関もあるというが、センターとなれば、看護師レベルの職員を配置し、患者の多様な思いに本格的にこたえていかなければならない。厚労省では最終的に、360か所まで拠点病院を増やす予定だ。

正確なデータの蓄積

もうひとつ注目すべきは情報の充実度だ。日本にはがん対策を立てるのに必要ながん罹患率などの正確なデータがない。
ライフスタイルなど、どんな特徴を持った人が、何人くらい、どんながんにかかり、どんな治療を受けて亡くなったのか、そうした具体的な個別情報が十分に集めきれていないのだ。

こうした情報を集積するのが「がん登録」制度だが、法律などの義務づけはなく、都道府県により取り組む熱意はバラバラだ。今はほとんど、医師が忙しい診療の合間に登録を行っているが、「登録専門の職員を配置すべき」「がん登録を行う医療機関には診療報酬の加算が必要」などの声も出ている。
がん対策の中に「がん登録」をどう位置付けるのか。また、情報センターを中心としたネットワーク構想の中で、「がん登録」による情報を生かすのかどうか。佐々木室長補佐は「今後、考えていくべき事柄」と語っている。今国会には、与党と民主党から「がん対策基本法案」が提出されている。民主党案には、この「がん登録」制度の創設が盛り込まれており、審議の行方が注目される。

厚労省研究班の分析では、2020年に日本のがん患者は84万人にのぼるという。このまま右肩上がりの増加カーブを描くのか。対策はこれからが正念場を迎える。

神奈川県では5月25日に、「神奈川がん臨床研究・情報機構」が設立された。県庁や県内5大学の医学部などが協力して産学公の連携によるがんの臨床研究を進める。
10月には、同機構の事業の一環として、県立がんセンター臨床研究所に「がん情報センター」が誕生する。県内の医療機関のがん手術の件数など、患者が知りたい身近な情報を提供していくという。
県の県立病院課では「国立がんセンターの情報センターとも何らかの形で連携を図りたい」としている

(健康かながわ2006年6月号)
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