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肥満症ガイドライン2006発表を受けて

image日本肥満学会が「肥満症治療ガイドライン2006」を発表した。ガイドラインでは診断基準やメタボリック・シンドロームの診断基準と治療の実際、病態別の治療などが出されている。この発表を受けて、小児内分泌学、小児肥満を専門としている当協会の朝山光太郎医師に肥満をめぐってさまざまな角度から論じてもらった。食べて痩せるというミラクル・ダイエットへの警鐘も鳴らされているという。

日本肥満学会は2006年に「肥満症治療ガイドライン」を発表した。日本人は白人に比べて軽度の肥満で代謝異常を起こすことがわかっているので、肥満の判定基準は欧米人のBody Mass Index(BMI)30以上と異なり、日本人では25以上とし、健康障害を伴う肥満を肥満症と定義する。

体脂肪は皮下脂肪と内臓脂肪に分けられ、腹腔内に分布し、脂肪酸を門脈に放出する内臓脂肪は、皮下脂肪よりも代謝異常を起こしやすい。ガイドラインでは肥満症を脂肪細胞の質的異常による内臓脂肪蓄積症と、量的異常による骨関節疾患、肺換気障害、月経異常を伴うものの2種類に分類する。
また、脂肪蓄積と代謝危険因子が0~1項目を肥満症、内臓脂肪蓄積と危険因子2項目をメタボリック・シンドローム(MS)、内臓脂肪蓄積と危険因子3項目を「死の四重奏」とするという図式も提示された。

MSは内臓脂肪蓄積に起因して、インスリン抵抗性を背景とする脂質代謝異常、耐糖能障害、高血圧のうち2項目以上を有する病態で、脂肪細胞が分泌する生理活性物質であるアディポサイトカインの分泌動態異常が関与する。内臓脂肪蓄積は慢性炎症を惹起し、脂肪組織に炎症細胞が浸潤して、腫瘍壊死因子α産生が亢進し、そのために脂肪細胞からのアディポネクチン分泌が低下することが発症の重要な要因となる。

当協会の成績から

当協会では2005年度に20週の生活改善セミナーとしてBMI30以上の男女に身体計測、血液検査、運動モニター、食事栄養指導を経時的に行い、開始時と終了時には医師による指導を行った。この期間中体重は平均1・5㎏、腹囲は約2㎝減少したのみであった。

一方、活動性の増加は顕著で、一日平均歩数で約2000歩、消費熱量で約140kcal増加した。血液所見では、善玉コレステロール(HDL-C)上昇、トリグリセリド低下、尿酸値低下という、運動療法による代謝好転と考えられる所見を呈した。

食事記録では総熱量摂取量が約180kcal減少した。指導後の総熱量摂取の記録は2000kcal以下で、消費熱量が2700kcal近くになっていて、見かけ上負のエネルギーバランスとなっているのにわずかな減量しかえられなかった。1㎏の脂肪組織減少は約7000kcalの負のエネルギーバランスに相当するので、明らかにどこかに問題がある。

肥満の根本的原因は 実生活と意識のズレ

一般に肥満者では食事摂取量が正しく記憶されていないので、自己申告の食事記録は事実を表していない。体重が減らないのは、消費量と同等に近い熱量を摂取しているためである。
肥満の成因として想定されている図式を図に示す。食べ過ぎと運動不足は特に高度肥満では両方が関与している。肥満者は自分が実際食べているほどには食べていないと思っていて、運動に関しては、実際に動いているよりもよけいに動いていると思っている。すなわち、食事はunder‐report、運動はover‐reportする傾向がある。

これは食事習慣に欠陥があったり、運動能力が低下していたりすると助長される。本来食欲はホルモンや自律神経による調節を受けているが、現代人では「おいしい食べ物を食べた体験」(専門的には認知性調節という)によって、この調節機構は作動しなくなっている。体の活動性についても、本来の生活のための活動(農耕、狩猟、魚釣り、焚き火、洗濯など)に伴う運動は現代人には概ね必要なく、運動時の爽快感も忘れられがちである。
太りたくて肥満している人はほとんどいないので、肥満の根本的な原因は「実生活と意識のズレ」といって過言ではない。したがって、肥満の最も基本となる治療法は行動療法である。肥満症ガイドラインでは、行動修正療法が根幹を成すとされており、表に示す7つの重要なポイントがあげられている。

ミラクル・ダイエットは存在しない

肥満者は食事と運動のバランスを認知することが不得意な人たちと捉えられ、これは知的能力ではなく感性の問題である。このような人たちをサポートするためのコツや種々のツールを正しく運用することが、カロリー計算や運動メニューの処方以上に大切である。

日本肥満学会によるガイドラインの発表は、医学的に望ましくない肥満の民間療法が横行している状況に歯止めをかける意味もある。治療食としては1000kcalから1800kcalまで200kcalごとの肥満症治療食10~18と600kcal以下の超低エネルギー食(VLCD)のみが認定されている。VLCDの適用と功罪についても記載されている。十分に食べて痩せるミラクル・ダイエットは存在せず、服用するだけで他の因子とは関係なく、副作用もなく痩せられるミラクル・ドラッグやサプリメントもない。

行動療法を長期に続けることによって、肥満の原因となる認知障害を修正しながら食事療法と運動療法の効果をあげていくためのガイドラインとして、肥満に起因する生活習慣病治療にあたる当事者が基本的知識として持っているべき内容がまとめられている。(朝山光太郎)

(健康かながわ2006年7月号)
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