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標準的な健診・保健指導プログラム(暫定版)策定

中高年を襲う生活習慣病の対策として、厚生労働省は新しい健診・保健指導のプログラムを作成した。最近、広く知られるようになった内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)を、どう予防し克服していくかに重点を置いている。厚労省は今年度からこの新プログラムに基づいた健診・保健指導を試行し、平成20年度には全国で実施したい考えだ。これまでの経緯と新プログラムの概要をまとめた。(佐藤良明・読売新聞東京本社科学部次長)

このプログラムを作成したのは、厚労省の「標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会」(座長=久道茂・宮城県病院事業管理者)。2月から会合をスタートさせ、約半年の議論を経て「暫定版」をまとめた。
検討会が始まった経緯はこうだ。国は1978年からの「第一次国民健康づくり対策」、1988年からの第二次対策を進め、2000年からは「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」を推進してきた。

健康診断や健康診査(健診)は、地域や職域で行ってきたが、「健康日本21」の中間評価によると、糖尿病患者・予備群や肥満者の増加、野菜の摂取不足、日常生活での歩数の減少など、国民のライフスタイルや健康状態は、改善ではなく悪化している現状がある。新たな視点での、生活習慣病対策の充実が求められてきた。
検討会は、新しい健診・保健指導プログラムをまとめるため、こうして旗揚げした。

一方、政府・与党医療改革協議会は「2015年度には生活習慣病患者・予備群を2008年と比較して25%減らす」ことを掲げている。この「国家目標」達成に向けて注目されてきたのが、内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)という概念だ。脂肪は大雑把に言えば、皮膚のすぐ下につく「皮下脂肪」と内臓やその周囲につく「内臓脂肪」に分類できる。内臓脂肪がたまって肥満になり、高血糖、脂質異常、高血圧がある状態を同症候群と呼び、これが心臓病や脳卒中などの生活習慣病を招くとの考え方が、最近、提唱されるようになり警戒されている。

健診

新プログラムでは、まず「健診」について、同症候群を拾い上げるため、検査項目の充実・見直しを挙げている。 具体的には、身長と体重から肥満度を割り出す身体計測で新たに「腹囲」も測る。同症候群の診断基準(男性85センチ、女性90センチ)に入っているためだ。また、同症候群の判定の参考指標とするため「尿酸値」が新規に追加され、血糖値の長期変動を診る「ヘモグロビンA1C」がこれまでの選択項目から必須項目に昇格した。さらに心臓病の危険度判定に有効だとして、コレステロールの一種「LDLコレステロール」も新規追加されている。逆に「総コレステロール」が削除されるなど、様々な指標が見直された形だ。こうした項目は、すでに定期健康診断で採用している職場もあり、あくまで市町村と事業所が行う検査の標準的な内容を示している。

さらに現在は、健診実施主体によってまちまちだった「質問票」も標準形式を示している。それによると、薬の服用状況から既往症のチェック、喫煙、体重、運動、栄養まで18項目の詳細な問いかけになっており、検査データとの併用で身体状態を総合判断する。

では、同症候群を拾い上げる健診が実施された後はどうなるのか。新プログラムでは「階層化」という難しい表現になっているが、生活習慣病の危険度に応じて受診者を仕分ける作業を行う。当然、健診結果が芳しくない人ほど厳しい指導が行われる。

保健指導

image新プログラムでは、個人の健康状態に応じて保健指導を行う、としている。検査データと質問票の結果を判定し、危険度の低い順に「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」と指導を区分する。
まず情報提供。対象は健診受診者全員で、年1回、健診結果の通知と同時に行う。具体的には、健診結果の見方といった入門的な情報から生活習慣病、内臓脂肪症候群の基礎知識などを伝える。

動機づけ支援は、保健指導後に対象者がすぐに実践でき継続できるような支援を指す。生活習慣の改善目標を設定してもらうが、一日にこれくらいの歩数なら可能など、挫折しないレベルにとどめ、おおむね6か月後に達成できたかを評価する。
こうした動機づけ支援は、先進的な企業や自治体、団体は既に実施している。たとえば愛知県の「あいち健康の森健康科学総合センター」では、生活習慣病予防教室を開催している。健康度測定、生活習慣病予防の講義、バランス弁当試食、運動プログラムなどを一日実践型として行っている。また、兵庫県尼崎市では健康診断結果を受けて、集団教育から30分程度の面接も含めた個別相談へと移行するフォローアップを行っている。

一方、積極的支援は、検査・質問票の結果から生活習慣病の危険因子が複数重なり、ライフスタイルの改善が必要な人が対象。医師、保健師、管理栄養士ら専門職による3~6か月程度のキメ細かいフォローを行う。こちらも実例を挙げよう。

神奈川県藤沢市では、対象者に個々の事情があって一律のメニューでは指導できないことを勘案し、健診の際に行う健康相談、食生活相談を加味したプログラム、食生活相談と健康づくりトレーニングを含めた総合的なプログラムの3コースを準備した。個々人の意欲や身体状態などから最適なコースに取り組むことになる。
また、福岡県宇美町では町名にちなんで、U(うちでもできる)M(自ら決定する)I(嫌なことはやらない)というUMIモデルを実践。食べた野菜の量を自己記入させたり、歩数計を10日間装着することなどからスタートしている。我慢型でなくお勧め型の支援だ。

このほか、暫定版では明確な道筋は示されなかったが、健診の検査結果を電子化し、生活習慣病の危険因子を持つ「要注意人物」のデータを長年監視するシステムも検討されている。その場限りの保健指導ではなく長年の追跡調査で健康状態の変化を見逃さない体制の重要性もクローズアップされてきている。

厚労省では、今年度の試行によって暫定版の評価を進め、年度内を目標に新プログラム確定版を仕上げる予定だ。健診は私たちが身体をチェックできる貴重な機会。数値にどうしても一喜一憂しがちだが、長い目で見て、健康づくりに取り組む好機と考えたい。

(健康かながわ2006年10月号)
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