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健康かながわ

新春放談・これからの健康診断

平成20年の医療制度改革に基づく健診・保健指導のあり方(特定健診・特定保健指導)や顧客ニーズの多様化により、健康支援を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。その過渡期にあって、神奈川県予防医学協会(以下 協会)は「総合健康支援機関」として、どのような形で880万県民の健康を支えていくことができるのでしょうか。受診者への質の高いサービス提供を通じて協会の未来を担う職員が、健康支援事業への抱負、使命、将来像などを語りました。

30数年来の 積み重ねで 医療制度改革に対応

image栗原 今回の医療制度改革は、国の施策として医療保険者に対して健診・保健指導が義務づけられます。さらに、75歳以上の後期高齢者を対象とした新たな制度も準備されています。こうした流れの中で、協会はどのような対応をしたらよいのか、まずはここから始めたいと思います。

根本 特定健診・特定保健指導の健診項目については国において検討会が開催され、協会内でも情報収集を進めています。健診項目では腹囲測定や労働安全衛生法の胸部レントゲン撮影の対応を注目しています。メタボリックシンドローム対策として協会は、横浜市大医学部、杤久保修教授の指導をいただき昨年7月に生活習慣病外来の専門コースとして「メタボリック(内臓肥満)外来」を開設しています。ここでは腹部CT検査をもとに内臓肥満をチェックし、指導計画に基づく事後指導も行います。最初の受診者がそろそろ6ヶ月5回の受診(指導)を終了し、まとめと評価に入ります。

栗原 メタボリックシンドロームの専門外来設置では、健診機関としては協会は早いほうだと思います。受診者の反応はどうですか。

野口 テレビ、新聞などで取り上げられてメタボリックシンドロームを知る人が増えたからでしょう、外来への問い合わせが目立つようになり、協会のホームページからの申込みもあります。健診でメタボリックシンドローム対象になった方へ外来をご案内し、健康管理に生かす方向へ持っていくのが今後の協会の役目になると思います。

image根本 その通りだと思います。

栗原 死の四重奏といわれる肥満・高血圧・高脂血症・糖尿病に対して健診をすすめても、受診につながらないのが課題です。死の四重奏が病気の引き金になるという意識付けは簡単ではないですね。

三角 医療制度改革では生活習慣病対策として予防が重要視されています。その推進体制には民間事業者の活用も入っています。協会では昭和48年から、労働衛生分野での相談業務を外部から事業として行うことをすでに始めていました。さまざまな企業、団体、学校などで困っていること、何とか手を打たなければいけないことに向き合ううちに、新しい事業が生まれ、展開してきました。

栗原 協会はすでに30数年も前から「現場のニーズ」に対応していたわけですね。

三角 生活習慣病への対応は平成7年、滋賀医大での個別健康教育の取組がなされ、私たちも参加し、事業所の協力を得て行いました。コレステロール値が高い人、喫煙習慣のある人を募り、個別指導で行うプログラムをもとに6ヶ月間その改善に取り組みました。その結果、指導効果が証明されました。取組に参加した保健師はプログラムを習得し、今は相談課のメニューとして実施しています。平成17年度には生活習慣改善の動機づけ支援に取り組みました。健診結果などに基づいて、1万数千人すべての従業員に面接しての保健指導を行いました。その事業所にとっても協会にとっても大英断と言っていい取組でした。今年2年目が終了、今後もこの方法について効果評価をみていく計画ですすめています。

image栗原 いままで取り組んできたことが、しっかりとした土台を築いているから、医療制度改革があっても慌てる心配はない、というわけですね。

三角 国の指導者基準に挙げられる項目を満たすスタッフは、協会では以前からチームを組んで進めております。協会の精度維持に対する理解が、スタッフ研修を重要視する姿勢に表れています。

栗原 心強いことです。保健指導にあたる立場では「情報提供」「動機づけ支援」「積極的支援」を、どう整理しているのでしょうか。

三角 積極的支援は個別支援プログラム、協会では生活習慣病外来で実施します。動機づけ支援は全員面接による相談などで行っており、協会内でチームで検討しながら進めています。

栗原 どの階層の人にも柔軟に対応できる態勢が協会には整っているわけですね。

三角 生活習慣の改善は、個人への対応が大切であると考えています。情報提供は広報の力や手法に期待する気持ちはありますね。

栗原 テレビやインターネットから情報をいち早く入手する人が増えていますからね。

三角 受け止め方は人それぞれ、千差万別で、情報に振り回されているのが現状です。情報の生かし方にまで保健師は口を挟めませんが、必要な人に正しい情報を提供できるようにしていきたいと思います。

その人ならではの 健康プログラム 「オーダーメイド 健診」の時代に

image栗原 マスコミが提供する情報は最大公約数的なものが大半ですから、三角さんがおっしゃるとおり、マン・ツー・マン、フェイス・ツー・フェイスは大事ですね。一人ひとりにあった対応の大切さを、協会は実践したわけですね。

三角 生活習慣病はまさに十人十色の対応が求められます。その方の状況をよく知ったうえで、改善や健康維持にふさわしい方法を考えなければ効果は期待できません。医療制度改革の精神は、一人ひとりにあった対応、効果を国も求めているのだと思います。

栗原 個人ばかりでなく、職域、団体といった集団としての評価も求められていますね。

野口 保健指導に取り組んだ企業、団体などの例を聞かれることがありますが、評価=効果の提供は大事だと思います。健診結果をもとに保健指導の有用性を伝え、動機づけに生かして、職域、団体ぐるみでの健康意識の向上につなげる。理想は、健診実施当日の、過去の健診データ比較などをもとにした全員面接の実施です。現実には難しいのですが…。健診後のアドバイスはもっと大事ですね。どうしたら生活習慣を変えられるのか。健診結果をもとにしたどんなビジョンを描けるか。そのために協会は、個々の結果、状況に即した対応のパターンを数多く準備して健診、保健指導に臨み、生活習慣の改善に向けた流れを作っていく必要があります。

根本 この問題は医療制度改革と関連しますが、定期健康診断や人間ドックを受診した方への支援策として、特定保健指導の動機づけ支援や積極的支援のプログラム、ウォーキング・ストレッチなどの各教室と体力測定を、改善計画や要望に沿った協会独自のメニューとして現在検討しています。

野口 時代はすでに個人ニーズ対応になっていると思っています。協会も企業健診に加えて、一人ひとりの健康に対する心配や不安に応える項目を自費で追加する「プラス1」コースや人間ドックで、オプショナル検査を追加する方が主流になってきています。つまり、その人ならではのプログラム=オーダーメイド健診の時代なんです。

三角 今年から大量退職が始まる団塊世代は、生き方、考え方がユニークな方が多いと聞いています。ライフスタイルにこだわりを持つ方には「みんなと同じ」より「私だけ」のメニュー、プログラムを用意するほうが効果的でしょうね。

野口 そうなんです。検診計画部では『離職後の健康管理をサポートします』という見出しで、団塊世代に絞ったPRをしています。「いつまでも健康でいきいきと生活するために、あなたにあった内容で定期的な健康診断をご支援します」と呼びかけ、「ご家族の健康管理」も気軽に相談できる「あなたの診療室」としての利用をお待ちしますと結んでいます。一年前までは会社で健診を受けることができた方たちも、あ、そうか、今年からは自分でしなくちゃならないんだ、と気づいていただく。そして協会のさまざまな健康支援サービスにご案内する窓口になればいいと考えています。ご自身の健診データが蓄積され、相談のたびにそのデータが生きる安心感。これこそが協会の存在理由だからです。
人間ドックでも、退職される方たちに次回の健診についてお話をうかがっています。こちらから健康のことを切り出すと「あ、自分の話を聞いてくれるんだ」という思いから「じつはね」と発展することが多いんです。

栗原 私も団塊世代の一人ですので、その指摘はよくわかりますね。50代後半ともなると病気の一つや二つはみな持っています。健康不安というより、病気があって当たり前の年齢であることは自覚しています。ですから、ご自身のことを話してくれる方の肩をタイミング良く押し出してあげるのは大事ですね。協会の人には自分からいろいろ言える、答えてくれる。そういう雰囲気があることを知ってほしいですね。
人間ドックのリニューアルは、協会も変わっていく過程にあることを象徴するような面があります。

根本 4月10日にリニュアルオープンを予定している人間ドックは野口さんご指摘のオーダーメイド健診の考え方を導入します。生活習慣や過去の健診データなども生かして総合的に受診者の健康状態を判断して外来のご紹介、生活習慣改善プログラムのご案内を準備しています。そのために保健師、看護師各一名を専属コーディネーターとして育成しています。より快適に受診していただくためにフロアを改装し、ゆったりとしたスペースを設けます。生まれ変わる人間ドックは「安心と信頼」で豊かな健康生活をご支援いたしたいと思っています。

三角 私が協会の人間ドック担当になった昭和58年頃は、受診者が一日で20人ほどでした。一年に一回しかお会いしなくても、ドックの担当者と受診者がお互いの顔と名前を知る親しい雰囲気がありました。そう思うと隔世の感ですが、受診者が多くなっても、協会のドックは相談しやすいドックだと感じていただけたらうれしいです。

根本 その意味で、専属のコーディネーターは不可欠なんです。

乳がん啓発イベント 「ピンクリボンキャンペーン」 の成功

栗原 さて、がん検診についても話したいと思います。協会は30数年前から乳がんの早期発見に取り組んできました。そして昨年10月、「ピンクリボンよこはまキャンペーン2006」を開催しました。

野口 用意した企画の一つ、横浜市中区の健康まつりでは協会のブースに多くの方が訪れ、乳房の模型にご夫妻で触れる姿、職員に質問をする方が目立ちました。女性クリニックの医師を招いての乳がん講演会、ウォーキングイベント会場での啓発、どこでも乳がんへの関心の高さを実感しました。実行委員をはじめ、熱い気持ちで本番に臨んだスタッフ一丸の成果が反響の大きさにつながりました。全国規模で展開されたピンクリボンキャンペーンに参画した意義はとても大きく、この勢いで今年の秋のイベントでも乳がん啓発に力を入れます。

栗原 講演会会場ZAIMの壁面を飾ったたくさんのピンクリボンが印象的でした。40代女性にもマンモグラフィによる検査が浸透してきたこともあり、関心度は高まっていますね。がん検診は、精度管理が何より重要です。施設と検診車でマンモグラフィを受診できる体制を整えている協会では、検診車で実施したフイルムを精密検査後に専門医によって再度、読影する仕組みで臨み、精度管理を徹底。より質の高い検診サービスを提供しています。検査に関わる医師、技師のすべてが、わずかな予兆も見逃さない姿勢で取り組んでいます。

「一人ひとりを 大切にする協会」 変わらぬ姿勢と 使命

栗原 IT時代の健診サービスについても触れておきましょう。健診データ処理システムを稼働して5年になり、最近はホームページを通じた情報提供、予約受付が順調です。

野口 ホームページからの人間ドック、婦人検診の予約が増えています。予約をしたい方は画面に表れる5ヶ月分のカレンダーを見ながら予約をし、その後、協会からの確認問い合わせで予約申込みは終了します。婦人検診の予約には30、40代女性が目立ちます。

栗原 企業、団体向けの支援も評判がいいようですね。

根本 健康管理支援ソフト「Assist」※ は開発から10年になります。これまでに150を超える企業、団体で活用されています。一人ひとりの健診データを生かした健康支援サービスの一環ですが、それぞれの企業、団体の作動環境に適した仕様へのバージョンアップとウェッブ化を進めています。(※健康管理支援ソフト「Assist」 受診者の各種データをグラフなどに示して比較検討し、保健、健康指導に役立てる機能などを盛り込んだ神奈川県予防医学協会のオリジナルデータベース管理ソフト。)

栗原 協会の健診検査機器デジタル化も進んでいますね。

根本 胃の検診にデジタル装置を導入したのが最初です。現在、活躍している胃部レントゲン車の5台がデジタル装置に換わりました。昨年12月にはマンモグラフィもデジタル装置になっています。読影での画像検索の効率化や結果報告のスピードアップなどがデジタル化のメリットです。今後は眼底・エコー・心電図の検査機器も順次、デジタル化していく予定です。

三角 IT化はいろいろな意味で歓迎される動きだと思います。その一方で、私たち保健相談を担うスタッフは、メールを使った相談をしていません。IT化を進めた方が良いところと、そうではないところを整理しながら進めたいと思っています。

栗原 おっしゃるとおりです。時代は変わっても、協会が願うのは一人ひとりの健康です。デジタル化ですべてが済むわけではないですね。

野口 予約・検診計画を進めるうえでも、受診者の声は大切なんです。協会に望むこと、期待することをお聞きし、メンタルな面も含めた健康生活のアドバイスに生かそうと思っています。「その人ならでは、その企業・事業所ならではの総合健康支援のしくみをつくりたい」という思いからです。

根本 880万の神奈川の人たちにとって、協会がなくてはならない存在であり続けるには、多くの方の意見を聞くことが必要です。

野口 その通りだと思います。

三角 学生の時、重症の糖尿病患者を担当し、こうなるまでに手だてはなかったのか、と思ったのが予防医学の分野に進むきっかけでした。病気予防が十分でない時代の話です。医療制度改革の一つに2015年には糖尿病など生活習慣病の有病者、予備群を25%減らすという目標が出されました。大きな予防医学の流れの中で「人を大事にする健診・保健指導」にしっかり取り組んでいきたいと思います。

栗原 協会の実績や使命を伝えるのは受診者との接点を多く持つことです。その繰り返しが、評価になっていくでしょう。日々の積み重ねと、受診者に向ける眼差しの大切さを忘れずにいきましょう。皆さん、今日はありがとうございます。

(健康かながわ2007年1月号)
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