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健康かながわ

睡眠時無呼吸症候群

寝ている間に何度も呼吸が止まり、日中に強い眠気が襲う「睡眠時無呼吸症候群」(Sleep Apnea Syndrome=SAS)。この病気については、ここ数年、広く知られてきたが、潜在的な患者はまだ多いとみられる。プロの運転手がSASになっていると重大事故を起こしかねず、職場での対策は不可欠だ。SASをめぐる現状を、治療を続けて5年近くになる自分の体験も含めて報告しよう。(読売新聞東京本社科学部次長・佐藤良明)

重大事故も引き起こすSAS

今年1月、大津地方裁判所(滋賀県)での刑事裁判が注目を集めた。2005年11月、同県の名神高速道路で多重衝突が起き、日本で働いていたブラジル人7人が死亡した事故の公判だ。ブラジル人の乗った車に追突した被告の元トラック運転手には禁固3年の有罪判決(控訴)が下ったが、元運転手は事故後SASと診断され、SASが事故発生に一定の影響があったとみられている。

SASが注目される理由は、日中眠くて仕事の能率が悪いという個人の問題にとどまらず、交通・運輸関係では他人の生命にかかわる重大事故を引き起こす恐れがあるからだ。現に滋賀県の件以外にも様々な事故やトラブルが発生している。
03年10月には、名古屋鉄道新岐阜駅で電車が車止めに衝突する事故が起き、負傷者が出た。運転士は事故後にSASと診断された。また04年3月には全日空国内線の機長がSASのため乗務中に居眠りをした。05年7月には山口県沖で貨物船が液化ガス船に衝突し、重油が流出。貨物船の航海士がSASだったと判明した。

診断基準は

imageいったいどんな病気なのだろう。肥満や喉の形状が原因で寝ている間に気道が狭まり、呼吸がしばしば止まるのが特徴。「一晩で10秒以上呼吸が止まる状態が30回以上」か「睡眠1時間あたり無呼吸5回以上」という診断基準がある。患者は大きないびきをかく。家族から無呼吸を指摘され医療機関を受診する例が多いという。

覚えている方もいるだろう。SASが広く知られるきっかけは、03年2月に起きた山陽新幹線運転士の居眠りトラブルだ。この一件が「うちのお父さんも、もしや」と多くの家庭で考えさせる契機になった。

国交省も乗り出す

特に公共交通機関・運輸関係で問題になり、国土交通省も業界に従業員へのSAS検査の徹底を通知。国として初めて事業者向けマニュアルを作った。
国内の患者数は人口3~4%程度と推計されるが、医療機関を受診していない人も含めて正確な実態はわかっていない。データは少し古いが、読売新聞が05年夏に全国の主要鉄道事業者に行ったアンケートでは、JR九州が運転士の5・7%、西日本鉄道では3・1%がSASと診断されていた。

一方、山陽新幹線トラブルを機にいち早く運転士の検査を行ったJR西日本では0・3%という結果だった。問診で自覚症状のある人を絞り込み詳しく検査する方式だが、問診には限界があり、病気を見逃す恐れがある。客観的な検査の普及が必要と指摘する専門家は多い。

JR西日本では06年に運転士の自己申告制から簡易検査の義務づけへ対策を変更した。また、全日本トラック協会もSASの簡易検査を受ける運転手に費用の一部を助成する独自の制度を始めている。
交通・運輸業界以外でも潜在的な患者はいる。首都圏のような大都市部では睡眠外来など患者の受け入れ体制を整えた医療機関が増えているが、整備状況は十分とはいえない。診断・治療体制を地方にも一層普及させるのが今後の課題だ。

生活習慣病とも関係 早期発見・早期治療が重要

さて治療の実情だが、SASと判明したら、経鼻持続陽圧呼吸療法(CPAP)と呼ばれる治療を受けるのが一般的。すでに保険適用されている。
私もSASと診断されるまでは、「良く寝た」という実感がなく、起床時に体がつらかった。身長1メートル74、体重88キロの太め体型。家族からも「いびきがうるさい」と苦情が出ていた。念のため、02年7月、虎の門病院を受診して簡易検査で軽度のSASと診断され、CPAPを受けることになった。

経鼻持続陽圧呼吸療法という名前を聞くとひどく大がかりな治療かと身構えるが、要は、寝ている間、鼻から空気を送り込み、気道が塞がるのを防ぐ方法。ティッシュペーパーの箱ほどの機器からホースが出ており、先端部についた鼻マスクを装着して眠る。
CPAPはレンタルなので月1回は医療機関を受診する必要がある。その際、3割の自己負担で4590円(07年2月現在)かかる。

快適な睡眠へ

使用開始から5年近く。個人的な感想しか記せないが、画期的に良い。これほど心地よく眠れる経験はかつてない。もちろん日中の眠気はなく、良好な体調を維持できている。逆に「もしプロ運転手がSASだったら」と考えると恐ろしい。

確かに当初は、鼻マスクが気になって寝付くまでに時間がかかった。それもしばらくすれば慣れ、まったく気にならない。習慣化すればCPAPを使わないで寝るほうが落ち着かない気分になる。
SASは日中の眠気だけでなく、生活習慣病の引き金になるという研究報告もある。予防医学の視点からもSASの早期発見、早期治療に務めたい。

(健康かながわ2007年3月号)
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