情報サービス
前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ > 腎臓移植と糖尿病
健康かながわ

腎臓移植と糖尿病

21世紀の国民病と言われる糖尿病。患者数は増える傾向にあり、厚生労働省は国家目標を掲げて対策に躍起だ。発病には食べ過ぎや運動不足などがかかわる。典型的な生活習慣病で、腎臓障害のような合併症も怖い。私たち一人ひとりに身近で切実な問題だ。
(読売新聞東京本社科学部次長・佐藤良明)

病気腎移植

半年ほど前から大きく報道されてきた医療問題のひとつに「病気腎移植」がある。その端緒は、2006年10月に愛媛県警が摘発した臓器移植法違反の腎臓売買事件だった。慢性腎不全の男性が知人女性から片方の腎臓を移植用に提供してもらい、見返りに現金や車を渡していた。

事件の舞台となった同県宇和島市の宇和島徳洲会病院で、腎臓売買以外の移植手術を調査したところ、病気の腎臓を移植したという特異な事例が発覚。他の病院も合わせて計42件が行われていた。日本移植学会など関連4学会は3月末に「医学的妥当性がなく容認できない」との声明を発表した。

本稿のテーマは糖尿病である。病気腎移植は一見無関係に思えるが、長々と書いたのは底流で糖尿病予防とつながる問題だからだ。
糖尿病は、血糖値を調節するホルモン「インスリン」が少なくなったり、効きが悪くなったりする病気。悪化するまで自覚症状がないため、つい放置しがち。血中の過剰な糖分は血管を内側から傷つけ、体に様々な異変を引き起こす。

毎年約1万人増える透析患者

では、この糖尿病と腎臓移植のかかわりを説明しよう。まず腎臓移植だが、慢性腎不全の患者は一般的には人工透析を受ける。日本透析医学会によれば、2005年末の透析患者は約25万7千人。患者は毎年1万人前後増える傾向にある。
透析は腎不全の根治療法ではなく一生続けなくてはならない。そこで透析から解放する手段として腎臓移植がクローズアップされてきた。移植医療を仲介する日本臓器移植ネットワークには今年3月末現在、約11,000人が登録して臓器提供を待っている。

日本移植学会のデータでは、05年は994件の腎臓移植が行われた。このうち、善意の第三者から死後に提供を受けた移植は160件どまり。提供者が少ないため、8割以上にあたる834件は、健康な親族が提供する生体腎移植で、明らかに臓器不足だ。

これではいくら待っても移植を受けられる可能性は低い。腎臓売買に手を染めたり、病気で摘出した腎臓までも移植医療に使う事態が起きるのは、こうした背景による。
臓器移植法を改めて臓器提供の条件を緩和する議論が国会で続いている。現に腎臓移植を待つ患者がいる以上、これはこれで重要だ。一方、透析に入る患者を増やさない対策も大切といえる。

新たな透析患者の原因 糖尿病性腎症が右肩上がり

imageどんな病気が原因で透析を受けているのだろうか。透析医学会のデータ(05年末)では、首位が慢性糸球体腎炎(104,729人)で、2位が糖尿病性腎症(75,322人)。しかし、新たに透析を始める患者の原因疾患をみると、糖尿病性腎症(14,350人)が慢性糸球体腎炎(9,340人)を大きく上回っている。近年この傾向は続いており、将来、糖尿病性腎症が透析原因のトップになるとみる専門家は少なくない。

糖尿病性腎症というのは、失明の危険もある網膜症、手足のしびれなどが出る神経障害と並び、糖尿病の三大合併症のひとつ。腎臓の微小血管が傷つき最後は腎不全に陥る。こうしてみると、糖尿病予防と腎臓移植は全くの無縁ではなかった。
ここでいう予防には2つの意味がある。糖尿病にならない「一次予防」に加え、早期発見して、病気を厳しくコントロールし、腎症など合併症になるのを極力遅らせる「二次予防」も重要になる。

image厚労省が行った糖尿病実態調査によれば、1997年は患者約690万人、予備軍約680万人で、合わせて約1,370万人だった。それが02年には、患者740万人、予備軍880万人で計1、620万人まで増えた。

2000年に策定した国民の健康目標「健康日本21」によると、2010年の糖尿病性腎症の新規患者は国民のライフスタイルの見直しが行われなかった場合は年間18,300人と推計し、これを11,700人に抑えることを目指している。

同じ「健康日本21」では、糖尿病治療の継続も目標値100%を掲げている。二次予防の要になるからだが、05年の中間実績値は50・6%だった。

隠れ高血圧の管理が大切

「糖尿病患者が腎症に陥らないためには、隠れ高血圧の管理が大切」と指摘するのは、日本糖尿病財団理事長の金沢康徳自治医大名誉教授だ。隠れ高血圧とは、昼間、医師の診察を受ける時は正常だが、夜間~朝に血圧が上がる状態で、知らない間に腎臓に余計な負担をかける。「血圧の自己測定を心がけてほしい」と金沢氏はアドバイスしている。

一方、一次予防では、糖尿病を起こしやすいメタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)の改善が注目される。内臓の間にある脂肪細胞に脂肪が過剰に貯まる状態を指し、日本内科学会などが05年4月に作った診断基準では、ウエスト(腹囲)が男性85センチ以上、女性90センチ以上で、血圧、血中脂質、血糖のうち2項目の数値が高いこととなっている。

一般の人にわかりやすいのは、やはり肥満の危険性だろう。糖尿病予備軍へのアドバイスも乱れた食習慣を反省し「食事を1日3回きちんととる」(金沢氏)といったことになる。ライフスタイルは体に染みついているだけに見直しは案外難しい。日常の些細な心がけこそ大切にしたい。

(健康かながわ2007年4月号)
中央診療所のご案内集団検診センターのご案内