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子どものメタボリック症候群

5月5日はこどもの日。鯉のぼりが五月の風に泳ぐなか、元気に走り回る子どもたちの声が聞こえる季節となりました。そんな子どもたちをめぐって気がかりなニュースも聞こえてきました。子どものメタボリック・シンドロームの診断基準がいよいよ決まり、その具体的な研究も厚生労働省の研究班で始まったというのです。その研究班員でもあり、小児肥満症の研究をしてきた当協会産業保健部長の朝山光太郎医師に子どものメタボリック・シンドロームをめぐって執筆していただきました。

最近では小児肥満がもとになって、若年成人で生活習慣病のために急死するような症例が散見されるので、生活習慣病を小児期から予防することが試みられている。しかし、この問題に対しては十分な理解が得られているとは言えず、まだ効果的な指導が行われているとはいえない。

肥満は幼児期からでも要注意

肥満するとエネルギーの作り方が脂肪の燃焼に偏るとともに脂肪合成が盛んになって、高脂血症、脂肪肝、高血圧、2型糖尿病などの原因となる。脂肪細胞は多くのホルモン様物質を分泌し、これらは「アディポサイトカイン」と総称される。内臓脂肪は皮下脂肪よりアディポサイトカインを多く分泌するので、脂肪のなかでも特に内臓脂肪が増加すると血液異常とアディポサイトカイン分泌動態の異常が相乗的に作用して動脈硬化を促進する。

このような変化は小児期でも成人と同様な機序で起こる。したがって、以前は慢性疾患としての血液異常がなければ、肥満は必ずしも悪いとは限らないと考えられたが、今では、肥満は幼児期からでも、からだに悪影響を及ぼすことが証明されている。小学生の肥満児で前腕動脈壁を超音波エコー検査で調べると、動脈硬化に先駆けてリアルタイムに血管が硬くなっていることがわかる。

「小児肥満症」

image成人では日本肥満学会において治療介入するための基準として「肥満症」が定められており、昨年これに基づいてメタボリック・シンドローム(Mets)の定義が作成された(表)。

既に「小児肥満症」も成人の肥満症の基準に準拠して決められている。5歳以上の肥満児で、高度肥満かどうか、肥満治療が特に必要となる医学的問題(高血圧、睡眠時無呼吸、糖尿病、腹囲または内臓脂肪の増加)を有するか、肥満と関連が深い血液や皮膚の異常(肝障害、糖尿病前段階、脂質異常、皮膚色素沈着、尿酸の高値)などがあるか、特別な身体的因子および生活面の問題(股ズレ、関節障害、月経の異常、運動能力の著しい低下、不登校など)を有するかなどの項目をどの程度満たすかによって肥満症が診断される。

我々の関連大学小児科における肥満外来に登録された肥満児では、10・5歳以下でも57%、10・5歳以降では80%の児が肥満症の基準を満たしていた。

アディポシティ・リバウンドの早い幼児は要注意

小児の暫定基準作成
現在、日本人小児(6~15歳)におけるMetsの診断基準を作成するために厚生労働省の班研究が進められている。暫定基準を成人の基準と比較して表に示す。種々の集団で、小児Metsは肥満児の5~20%程度とされている(我々の肥満外来では男児で12%、女児で0%、男女あわせて8%であった)。小児肥満に治療介入するかどうかは前述の小児肥満症に従って決めるべきであり、Metsでなければ治療しないということにすると、肥満児の健康障害を増大することになる。小児のMetsはいわば小児肥満の重症中核群で、若年成人期に突然死を含む健康障害を起こす可能性の高いハイリスク群と考えるべきである。

アメリカ人の10歳台におけるMetsの頻度は非肥満者と肥満者を含む集団で、全体の4~8%であるが、対象を肥満児に限ると25~50%とされている。日本ではアメリカほど肥満が蔓延しておらず、小児では15歳以下で統計がとられることもあり、この年齢層では肥満児においてもまだ高血圧と高血糖の頻度が低いので、小児Metsは日本人ではアメリカ人におけるよりも低頻度の成績となっていると考えられる。

image要注意な小児肥満群
小児肥満でも特に要注意の集団がある。Body mass index(BMI)の平均値は成人肥満の標準的な指標であるが、出生後の2歳以前に一度ピーク値となり、3~7歳頃に最低値となって、以後は成人に至るまで増加し続ける。最低値から増加に転じる現象はアディポシティ・リバウンド(図)と呼ばれ、この時期が早ければ早いほど小児肥満は重症化しやすく、成人期に持ち越していく傾向が強い。

肥満児の出現頻度は就学時において6%、思春期で12%程度なので、成人でMetsとなるヒトの大部分は、就労後に発生した肥満によると考えられる。しかし、小児Metsの児では既にクオリティ・オブ・ライフ(QOL)が相当低下しているので、積極的に介入しないといけない。幼児期の早期から肥満してくる、アディポシティ・リバウンドが早いタイプは特に注意して指導をする必要がある。

近年「食育」という概念が強調される傾向にあるが、小児Mets対策としては、幼児期からの体格のモニターと健康教育が大切であり、家庭における生活習慣の管理が肝要である。

(健康かながわ2007年5月号)
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