情報サービス
前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ > 健康長寿をめぐって
健康かながわ

健康長寿をめぐって

「不老不死」は人類の見果てぬ夢。いつの時代も老化をめぐる研究や老化予防の実践は盛んだ。そして最近は「アンチ・エイジング」という言葉を耳にする機会が増えた。直訳すると抗加齢・抗老化。齢を重ね、老いることに何とか歯止めをかけようという意味だ。健康長寿をめぐる最近の話題をまとめよう。(佐藤良明・読売新聞東京本社科学部次長)

世界一の長寿大国 「日本」

最長寿命というのは生物の種ごとに決まっている。カラスで10歳、チンパンジーで40歳、人間は約120歳とされる。過去の長寿者としては、ウイスキー「オールド・パー」の名前の由来になった英国のトーマス・パーが有名だ。1635年に死亡した時は152歳だったという。
パーは伝説的な長寿者だが、信用できる記録に基づいたこれまでの最高齢は、1997年に亡くなったフランスの女性ジャンヌ・カルマンさんで、122歳5か月だった。
突出した長寿者は最近見あたらないが、日本は依然として「世界一の長寿大国」である。厚生労働省が発表する平均寿命は年々アップして、07年7月に公表した最新データでは、男性が79・00歳、女性が85・81歳となっている。
こうした数字を目にすると私たちは、「単なる長生きではなく、どれくらい健康でいられるのか」に、やはり関心を持つ。別の指標として「健康寿命」という概念もあり、平均寿命から病気などで日常生活に支障をきたす期間を差し引いて算出している。世界保健機関(WHO)によると、2002年の日本は75・0歳で、200近いWHO加盟国の中でトップに立つ。

寿命延長とカロリー制限

imageそうはいっても寿命は人によりまちまち。どうやって決まっているのだろう。長寿の要因は何だろう。近年の研究の積み重ねで、微生物や小動物での実験から、寿命を延ばす要因や長寿遺伝子とも呼べる特徴を持つ遺伝子がわかってきた。

動物実験から「寿命延長」の定説になりつつあるのは、カロリー制限だ。この研究は古く、米コーネル大の著名な老化研究者クリーブ・マッケイが1935年に発表して広く知られるようになった。
摂取カロリーを30~40%落としたネズミは、寿命が最大で40%も延びたという。理屈としては、体に有害な活性酸素を減少させることができるためと考えられている。

これは人間にもあてはまるのだろうか。あてはまる、と思えそうな間接的な証拠が、米国で90年代に集められた。砂漠の中に自給自足の温室(仮想地球)を作り、中で数年間生活する実験が敢行されたのだ。
この実験では、予想外に農作物が収穫できず、結果的にカロリー制限(1日約1800キロカロリー)をするのと同等の試みになった。実験後の血液検査では脂質、血糖の数値が下がり、血圧も低下した。寿命の延びたネズミと同じ傾向だったという。

06年には米スクリプス研究所チームが遺伝子操作で人工的に体の中心部の体温を0・5度下げたネズミが最大で20%寿命が延びた、と報告した。実はカロリー制限で寿命が延びる理由の一つとして低体温状態になることが考えられている。エネルギー消費が多いほど寿命は短くなると考えられており、エネルギー消費の比較的少ない低体温状態が寿命に有利に働くという考え方は自然だ。

遺伝子研究

一方の遺伝子研究だが、注目される遺伝子のひとつは「Sir2」。米マサチューセッツ工科大学チームが、実験で寿命延長に関係していることを突き止めた。遺伝子の制御にかかわる機能を持つ。人工的にSir2の働きを強めた微生物は寿命が延びた。
米国の研究者らが発見した遺伝子は他にもある。抗酸化作用などの信号を伝達している「IGF-Ⅰ」という体内物質に関係する遺伝子や、たんぱく質の品質管理にかかわる「age-1」という遺伝子も老化に関与しているとされる。

これまでに30個以上の長寿・老化関連遺伝子が見つかっているが、たった一つで長寿を規定するような決定的な遺伝子は出てこない。東京都老人総合研究所の後藤佐多良・協力研究員は「寿命の個人差に、遺伝子の寄与する割合は様々な研究から25~30%程度とみられる。その人のライフスタイルなど環境要因の方が影響は大きい」と指摘する。
では健康長寿には、どんな日常生活を送ればよいのか?

長生きの秘訣

大規模な人数の一般市民の生活を追跡調査して、「長生きの秘訣」を探る試みは昔から様々行われてきた。ここでは今年1月、英ケンブリッジ大学チームによる最新の研究データを紹介しよう。その中身は、4つの生活習慣を実行すると、しなかった人より14年長生きするという調査で、医学専門誌で報告した。
英国南東部に住む45~79歳の約2万人を対象に93~97年に健康調査を実施し、06年までの死亡率と生活習慣との関係を探った。その結果、4つの習慣がある人は、4つともない人と比べると、同じ年齢で病気による死亡率が4分の1だった。これは寿命だと14年分に相当するという。

気になる4つの習慣は、こうだ。①喫煙しない②飲酒はワインなら1週間にグラス14杯(1日2杯)まで③1日に握りこぶし5つ分程度の野菜・果物を食べる④1日30分ほどの軽い運動をする。
「アンチ・エイジング」と聞くと、「若返り」という言葉をどうしても想像しがちだが、結局、心臓病や脳卒中など血管の病気、がん、認知症、骨粗鬆症といった加齢に伴って起きやすくなる病気をいかに回避していくかがポイントになることがよくわかる。

英国での研究の「4つの習慣」は、とびきりの秘策ではなく、誰でも思いつきそうなことだ。健康長寿の秘訣は、案外平凡なことの積み重ねにあるような気がしてならない。

(健康かながわ2008年2月号)
中央診療所のご案内集団検診センターのご案内