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健康かながわ

たばことがんと私

5月31日は、世界禁煙デー。当日、その関連イベント『2008世界禁煙デーかながわフォーラム「たばこ」と「がん」~みんなで考えよう 受動喫煙~』が、はまぎんホール ヴィアマーレで開かれた。松沢成文神奈川県知事に続いて、社会評論家・作家の俵萌子さんが登壇、自らの体験をもとに禁煙を語りかけた。厚生労働省たばこ対策専門官・森淳一郎さんからは政府のたばこ対策について、シンポジウムでは受動喫煙防止についての提言がなされた(文責・編集部)。

特別講演 たばことがんと私

image俵萌子さん(社会評論家・作家・NPO法人がん患者団体支援機構 理事長)

講演の5日前に肺がん手術をした俵さん、主治医を無理やり説得して駆けつけ「終わったら病院に帰ります」と会場を笑わせます。
新聞社に就職し、配属された社会部は「受動喫煙の最たる場所だった」と振り返ります。室内はまるで霞がかかったように白く、もうもうと煙が立ち上る中で記者たちはたばこを吸いながら記事を書いています。事件が起きれば飛び出して行きますが“待つ”のも仕事の記者にとって、当時はたばこがイライラ解消に欠かせなかったようです。30代でたばこを始めた俵さんは作家となって「たばことともに60冊の本」を書き、70代を目前に禁煙を考えたころでも一日二箱を吸っていました。

全身麻酔ができない

避暑地で過ごしたのち、自宅に向かう途中で思わぬ自損事故に遭います。運転中に一過性の脳こうそくが起き、車は大破。気がつくと救急病院。68歳のときでした。「長年の喫煙で肺の酸素摂取率がかなり低下していたため、全身麻酔を施せなかった。手術は延期になり、たばこの知られざる怖さを体験して、文字通り骨身に染みる痛い思いをしました」。

4か月半の入院・リハビリを経て久しぶりの帰宅、たばこを入れた容器に手が伸びましたが、反射的にひっこみました。以来、たばこは一本も吸っていません。

喜寿の祝いに人間ドック

昨年、喜寿を迎えた俵さんは「その祝いに何をしようか」と考えました。社会評論と創作、がん患者団体支援機構でも精力的に活動しているのだから、自分の身体をチェックしなければと「それまでは嫌いだった人間ドックを受けること」にしました。

胸部レントゲン写真を読影した医師が「肺炎にかかったことは?」と聞いてきました。身に覚えはありません。紹介された呼吸器内科では、間質性肺炎の疑いを指摘されます。CTスキャンを行った結果、右の肺の中心に小さな白い影がありました。精密検査の必要があるという医師の意見に従いました。

今年3月、肺がんと診断されました。「がんが再発したのか、転移したのか、という怖さがよぎりました」。12年前、俵さんは乳がんにかかったのをきっかけにがん患者団体支援の活動に身を置くことになります。がんを経験した者にとって一番怖いのは再発・転移。その不安と向き合うことに終わりはないからです。「乳がんの転移なのかどうか、徹底的に調べてほしいと思いました」。

がんになっても負けない気持ち

セカンドオピニオンもして自身のがんを突き止めようとする俵さんに、医師たちも応えます。体側に大小3か所の孔を開け、胸腔(きょうくう)鏡(きょう)を使って肺の内部を探り、がん細胞を摘み出しました。喫煙者に多い非小細胞がんでした。結果が判明して数日後、朝9時に手術開始。午後2時30分、右肺中葉の20%を削除。

「術後、患部にたまる体液を排出する管が取れれば講演に行けるでしょうと担当医は励ましてくれました。管は2日後に取れました。乳がんの時は12日もかかったので、万一を考えて肺がん経験のある仲間に代役を頼んだほどです」。手術は成功したものの、半年前に受けた講演は何が何でも実現したいという思いで過ごした病室での時間を「スリルとサスペンスの連続でした」と表現します。

文化を変えなければ喫煙者は減らない

精密検査、手術に臨むまでの診察で、医師などから「たばこは吸いますか? 一日に何本ですか? いつから吸っていますか?
の質問攻めに遭いました。たばこが原因の肺がんになったとはいえその悔しさと言ったらありません」と俵さん。「ですから、長くたばこを吸っていて肺がんになった、悪い見本としてここに来たようなものです」。

新聞記者をステップに作家の道を歩んだ俵さんは、自分が取材・創作に精力的に取り組んだ時代には政治も行政も禁煙のきの字も訴えなかったと指摘します。ご自身もたばこがよく似合う外国の映画女優、日本の作家の姿に憧れていたと言います。撮影中もたばこをくわえているので有名な映画監督の若いころも「カッコ良かったんですよ」。

憧れとしてのたばこ(を楽しむ姿)と、その害を知らない・知らされてこなかった無知・未知のたばこ。両面性を認めた上で「禁煙が声高に言われる一方で、映画やドラマで喫煙をイメージさせるシーンはたくさんあります。社会がどこかで喫煙を容認している以上、未成年や若い人もたばこに手を出します」。喫煙の文化を変えようとしない限り、たばこを吸う人は減らない、というのが俵さんの主張です。

喫煙はますます困難になる

飛行機の中ではたばこが吸えない。全面禁煙の施設、飲食店などが増えている。喫煙がますます困難になってくる時代だからこそ「吸う自由、吸わない自由、どちらをとるかよく考えるといいです。私はちょっと手遅れでしたが、吸うのをやめて、残りの人生を自由に過ごそうと決めました」。術後とは思えない元気な講演に、大きな拍手が起きました。

(健康かながわ2008年7月号)
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