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新型インフルエンザがやってくる(中編)

世界中で大流行が懸念されている「新型インフルエンザ」。感染が拡がれば日本だけで3千200万人が感染し、最悪の場合64万人が死亡すると推計されている。前号では当協会の鈴木忠義常勤顧問が推定される流行の大きさや社会的機能がどのようになっていくのかについて執筆した。今月は同じく鈴木常勤顧問が「新型インフルエンザ」中編として「どうすれば防げるのか」を中心に報告する。

どうすれば防げるのか

…諸外国が新型インフルを「自然災害」ととらえ、被害を最小限にするため、流行時の医療供給体制や、社会機能の維持策を綿密に議論しているのに対し日本はワクチンや水際対策、地域封じ込めなどの予防策にかたより気味…との批判がある。
自然災害はいかに大きくても地球規模でいえば局地的である。しかし新型インフルは全世界が短時日にして大量に被災する。各国からの救援活動などまったく当てにできない。近年の地震災害のような対応はできない。

①知のワクチン

大流行を予防するためには、
○感染源を集団に接触させない、
○病原体を拡散させない、
○免疫を持たせる(ワクチン接種)。
などが対策である。
これらを熟知し、具体的に考えて行動するように準備することを『知識のワクチン』という。つまり知識と実行は予防接種と同様のあるいはより以上の効果が期待できる。

②感染源対策

○ウイルスは他の生物の細胞内でしか増殖できない。したがって人の世界で、ウイルスが大量に存在するためには、抵抗力をもたない人の存在が必要である。
○学校(学級)閉鎖が毎年インフルエンザの流行期に行われる。学校医の意見を徴し、養護教諭の見解も含めて学校長の判断によることは、学校保健法の定めるところである。この場合、欠席者・出席者間の学習進度の差を生じさせないこともあるが、培養器としての集団生活を解消するのが第一義である。

集団生活は会社、工場その他、人の密集する場所でも同じ効果を有するが、現在のところ、これらを休業・閉鎖させる法的根拠はない。本年春に改正された感染症予防法では、感染しているもしくは患者と診定された者に対して、都道府県知事は停留を命じたり、外出の自粛を要請することができるとされた。

○従業員の感染・欠勤
だが、ひとたび大流行して、従業員の半数近くが突如欠勤する事態になったら、開店休業状態になるかもしれない。業種によっては規模縮小して最小限の業を継続する計画的回避策は次善の策である。

③事業者の役割

image事業者は、従業員に対し安全配慮義務を担う。また社会機能の維持のため事業継続を要請される。一方で事業活動の制限や事業者の倒産、莫大な経済的損失が起こり、これらは流行が収まった後にも大きな影響が残る。(「流行時にも事業を継続するためには」安全と健康VOL9 №11 2008など参照)
○行動計画の立案
経営責任者を中心に危機管理・労務・財務・広報、労働安全衛生管理者、産業医などによる意思決定方法を検討し、意思決定者および代理者を決めておく。

○感染予防策の検討
発生時に従業員を勤務させる場合、必要十分な感染予防策を講じる必要がある。
・感染リスクの比較的高い業務の一時停止。
・在宅勤務の可能性の検討、就業規則の見直し、通信機器等の整備。
・会議を避ける(電話、テレビ電話の活用)。
・対策の作業班を決めておく。
ある調査(表1)によれば対策を作り上げているのは、米国グローバル企業が7割強であるのに、日本の企業は4割弱でアメリカの半数である。
具体的な例では
・公共交通機関の計画的運休。
・スーパーのレジの構造の工夫など。

④感染経路の遮断

かぜが流行るとマスクの着用者が増大する。通勤電車の乗客の半分がマスクをしている風景は外国人には異様に映るらしい。だが健康者がマスクを着用することによって感染を回避できるという証明はない。むしろ患者こそ着用が望まれ、欧米では常識という。

感染者のせき・くしゃみはイ・ウイルスでいっぱいである。市販のマスクでの実験データがある(井上栄「感染症」岩波新書 157ページ)。「咳をしたときの風速は3種類(70円、20円、5円)のマスクいずれも10分の1に減速した。風速が下がれば飛散距離も、量も下がる。効果が同じなら安いものがよい。政府が国民全員にマスクを配る。わずか6億円で済む。急性感染症であるかぜはほぼ1週間で治まる。その間同じマスクで構わない。そのぐらいなら自分で買うという人もあろうが、患者がマスクをしても治るわけではないから、政府の出番なのである」と井上さんはいう。

現在のイ・ウイルスの感染は接触感染によるというのが大勢である。せき・くしゃみとともに飛散し、卓上やドアノブ、階段てすり、衣服などに付着したものが手指を介して口や鼻の粘膜に到達する(前号の説明は不十分でした)。健康者にマスクは機能しない。

⑤ワクチン(感受性対策)

image流行前にワクチン接種して免疫機能をつくる考えがある。今までの経験からいちがいに否定できない。しかしいくつか問題がある。○免疫は外来性の異種たんぱくを排除する機能を作るのだから、流行株と類似のウイルスによって作られていないと意味がない(プレパンデミックワクチン)。現在は直近流行の鳥インフルエンザH5N1を用いる。人に大流行する株が変異していると効果は減少する。

○ワクチンを大量に製造するのには時間がかかる。国民全員分を用意するのに1年半を要する。したがってある程度の作り置きはやむを得ないが、保存可能期間がどの程度かは意見が分かれる。さらに接種して作られた免疫能が人の体の中でどのくらい持続するだろうか、今までの経験では1年後の再接種を勧めている。

○副作用の存在を否定できない。被接種者の条件、り患の可能性とり患による健康被害の秤量が要求される。万一の事故に対する責任の所在などの明確化が求められる。

○接種対象者の選定。国は先頃、案(表2)を公表し今年度中に決定して2009年度中に1千~1千500万人に接種する計画だ。政府備蓄量は2008年6月現在おおよそ2千万人分。

○接種の実際ではむしろ医師・看護師などの技術者を含め接種チームの確保、配置などが重要である。昭和36年、全国一斉に乳幼児から高校生までおおよそ3千万人にポリオ生ワクチンを服用させるのに、全国800余の保健所は対人保健部門をすべて休止し、医師会、助産婦会などの全面的な協力をえても約3か月を要した。

以上からワクチンの期待はできるが、費用と労力は莫大である。つまり社会的負担は大きい。では実際に大流行が始まったらどのような事態になるのだろうか。

次号では予測される状況を想定して今から何を準備しておくべきかについて考えたい。

(健康かながわ2008年11月号)
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