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健康かながわ

激動期の子宮頸がん検診

2007年12月、厚生労働省、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の主唱によって毎年3月1日から3月8日までを「女性の健康週間」と定め、女性の健康を守り、生涯を通じて充実した日々を過ごすため、さまざまな啓発や支援活動が展開されている。そこで今回は女性の健康、とりわけ20~30歳代の女性に急増している「子宮頸がん」をめぐり、北里大学名誉教授でもある当協会の蔵本博行婦人検診部長が、大きく変わろうとしている診断方法やヒト・パピローマウイルス、ワクチンなどについて解説する。

子宮頸がん検診は、子宮頸部の細胞診を検診手段として、検診によって死亡率の軽減が証明されている検診である。しかしこの長い検診実績を有する子宮頸がん検診は、最近、激動期にある。

①検診対象年齢と受診間隔が20歳から、2年毎となった。
②細胞診断の報告様式としてベセスダ方式が欧米で推奨され、我が国でも導入が予定されている。
③細胞診の精度向上のため、液状検体を基とした処理法(LBC)がアメリカで多用されている。
④子宮頸がんの発がんにヒト・パピローマウイルス(HPV)が関与している。
⑤HPVワクチンが開発され、このワクチンで子宮頸がんを一次予防できる可能性がある、などである。

これらの新しい方法の導入によりこれまでの子宮頸がん検診の戦略は、大きく様変わりすると予想される。そこで、最近の子宮頸がん検診を取り巻く状況について、解説を加えてみたい。

20歳から、2年毎となった検診

近年の子宮頸がんの罹患率を年齢別に見ると、20歳から急激に増加し始め、30歳で最高となり、以後各年齢層で平坦となる曲線を示す。このことから検診開始年齢を20歳とするのは時宜に合ったことといえる。
しかし検診間隔が2年毎となったことには違和感がある。子宮頸がんはがん発生までに長い前臨床経過を有しているので、がん検診が成り立つがんである。すなわち、一度発見が遅れても定期的に受診していれば、次回の検診機会で早期発見出来ることを意味している。これが、毎年受診出来ないとなると、早期発見の機会をなくす恐れが危惧される。

一方、3年毎定期的に受けていればがんを早期発見出来るとの報告がある。3年間に1度でも検診を受けた人の割合が80%であるイギリスでは子宮頸がんによる死亡率は人口10万対3・7である。毎年の受診率が15%である我が国の死亡率は8を上回っている。我が国では受ける人は受けるが、受けない人も多い。未受診者に対する受診勧奨をどのようにするかが課題である。

細胞診報告様式ベセスダ・システム(新産婦人科医会分類)

imageこれまで子宮がん検診の検診手段である細胞診の判定方法(旧日母分類)はクラスI~Vの6段階に分類され、それぞれに対応する病変を推定する優れた方法であった。その後、子宮頸がんの発生にヒト・パピローマウイルス(HPV)が関与することが分かって来た。ちなみに、発見者ツール・ハウゼンは昨年度のノーベル医学賞を受賞した。

このアメリカ発の世界基準であるベセスダ様式では標本の適・不適、推定病変の記載が盛り込まれている。I~Vの数字で表すことを廃し、略語を使うが、やはり6分類されており、以前とは線引きの個所が移動している。また病変を正確に指摘できない時の細胞像として・意義不明異型扁平上皮細胞(ASC・US)・の項目が作られている。これに準拠する形で、日本産婦人科医会では・新医会分類・(図1)を提唱し、本年4月から実施予定である。当面2年間の移行期が設けられている。

子宮頸がんとHPV

image子宮頸がんとその前がん病変である異形成(軽度、中等度、高度)のほとんどで、病変の局所にHPVが陽性で、HPVの感染が子宮頸がん発生の発端となることが明らかにされた。しかしHPVに感染するとすぐに子宮頸がんが発症するとは限らない。

HPVは通常、セックスを通じて感染する。女性の約80%は生涯のうち一度はHPVに感染するといわれる。特に、20歳代では約50%が陽性を示すとの報告がある。しかしその90%は1・2年以内に排除され、残りの10%が何らかの原因で持続感染を続ける。この持続感染の期間中に、HPVのゲノムが宿主の細胞DNAに組み込まれ、さらに某かの発がんに関わる遺伝子変化が加わると子宮頸がんの方向に進展するものと推定される(図2)。

またHPVは、現在約100種類あり、約30種類が性器に感染し、そのうち13種類が頸がんを発生させ得る高危険ウイルスといわれている。これらの内、欧米では16型と18型が70%の頸がんに関与しており、これらに持続感染すると10年後には約20%がん化に至るとの報告がある。一方、我が国やアジア諸国では、18型の関与が低く、52型や58型の関与が多いとされている。

HPVテストと子宮がん検診

HPVテストを子宮がん検診に用いようとの考えがある。子宮頸がんの高危険者をスクリーニングするには適した検査法であるが、HPVテスト陽性であっても、子宮がんを発症しているとはいえない。もし20歳代に実施すると約半数に二次検診が必要となる恐れがある。そのため米国などではHPV持続感染が疑われる30歳以上の年長者に、細胞診と併用で実施が試用されている。検診費用が細胞診のみに比べて大幅に高騰するが、もし、細胞診とHPVテストともに陰性であれば、次回の検診は3年後でよいとしている。

我が国の取り組み(新医会分類)では、細胞診結果が・意義不明の異型扁平上皮細胞(ASC・US)・の場合に、HPVテストの実施を推奨している。が、HPVテストはまだ医療保険の適応を受けていない現状である。

子宮頸がんの予防とHPVワクチン

HPVに対するワクチンが開発されている。高危険HPVである16型と18型2種に対する二価ワクチンと、性器に尖圭コンジローマを作るが子宮頸がんを発生させない低危険HPVである6型と11型も加えた4種に対する四価ワクチンである。これらのワクチンはウイルスに感染している場合や頸部病変を発症している場合の治療効果はなく、HPVウイルスそのものの感染を予防することに効果を発揮するという。

そのため性的初体験以前の少女が対象である。投与年齢は各国で異なっているが、おおむね11・13歳で最若年は9歳とされている。臨床研究開始後ほぼ7年経過し、高い抗体価と子宮頸部病変の発生予防効果が確認されている。しかし、このワクチンが麻疹ワクチンのように終生効果があるかどうかは、今後の追跡調査に任されている。免疫方法は注射で6ヵ月の間に3回投与する。費用は3・5万円のようである。

海外では子宮頸がんの約70%がHPV16・18型に起因しているところから、これらのワクチンにより頸がんの70%に予防効果があると予測され、また31や45型にも交叉効果あることが報告されている。しかし、我が国では前述したように、16・18型に起因する頸がんは約50%であるので、子宮頸がん予防効果は海外の場合より低いことが危惧される。

接種適応年齢を過ぎた女子に対してはどうであろうか。11・25歳の女性にcatch-up接種[(対象年齢を過ぎた女性に対する)追いかけ接種]が臨床研究されているが、まだ効果の程は明らかでない。
若年女子に対する子宮病変の予防効果(HPV16・18型に起因する)は、医学的には、コンセンサスが得られていると判断される。だがこれにかかる費用をどのように負担するかが大きな問題である。オーストラリアでは小学高学年女子全員に公費で実施されている。アメリカでは公費で賄われるかどうかは、州によりまちまちである。韓国では、実施が勧告されているが、自費扱いである。我が国での対応は遅れている。年間約3、000名の頸がん死亡者を有するが、毎年約50万名への接種費用をどう拠出するか、議論が待たれる。

現在の子宮がん検診、いっそうの普及を

子宮頸がん検診を取り巻く環境は、HPVテストとHPVワクチンの登場によって大きく様変わりしつつある。HPVテストをどのように有効に組み合わせるかが課題である。
しかし、現在の細胞診による子宮がん検診はなくなることはなく、いっそうの子宮がん検診の普及が望まれる。

HPVワクチンに期待されるところは大きい。だがこれは将来の子宮頸がん死亡をなくすことに貢献するものであって、現在の対策とはなり得ない。また我が国では高危険HPVの種類が異なっており、現在のHPV16・18型に対するワクチンを用いての子宮頸がん予防効果は約50%ではなかろうかと予測されている。したがってワクチン接種女子であっても子宮がん検診を今後も受診することが、勧奨される。

(健康かながわ2009年3月号)
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