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食育をめぐる二,三の話題

私たちの生活に欠かすことのできない「食」。食をめぐる状況は、私たちの子どもの頃と現在の子どもたちではどのように変わってきているのでしょうか? 6月は「食育月間」です。「食」をめぐって健康という視点ばかりでなく経済や食糧の問題などさまざまな角度から光を当て、神奈川県立栄養短期大学学長を務めていた当協会の鈴木忠義常勤顧問に話題提供をしてもらいました。あらためて身近な「食」を見つめてみましょう。

平成15年9月、当時の小泉総理大臣は施政方針演説で「食育」を重視すると明言しました。ほぼ同時期、国の中央教育審議会は栄養教諭の新設を提言しました。食育とは「食」をめぐる食材、生産、流通の知識、調理、喫食、作法などのしきたり、健康、知的発達、家庭、社会への影響などさまざまな方向へのかかわりを取り上げようとするものです。
これらの動向をへて平成17年食育基本法が制定され、7月から施行されました。また関係法令の改正によって、平成17年4月に栄養教諭の制度が新設されています。

食関連の変化

image表を見ていただきたい(表1)。内閣府が平成20年3月に行った「食育に関する意識調査」の中の〝食をめぐる状況の変化-子どもの頃と現在-〟の結果です。

『食卓を囲む家族の団らん』が減ったのは47%(増えた11%)、『食事の正しいマナー』は減った31%(増えた12%)その他さまざまな状況が回答されています。必ずしも現在の食生活について否定するばかりではないようです。年齢別がありませんから、いつごろのものと比較したのかは分かりません。しかし例示した2項目は納得出来る数字ではないでしょうか。

食事の時間

動物の一種である人間にとって、食べることは基礎的な生理作業です。私たちの遠い祖先は空腹を感じて食べました。しかし手元に食べ物が常時あるわけではありませんでした。狩りをし、拾い集めて口に入れました。食べ物が手に入った時が食事時間でした。

やがて栽培農業・牧畜が始まり、1人の生産活動が生み出す量が数人を養いうる量を超え、保存の工夫で貯蔵が可能になって交換経済が始まったのです。やがて物と物との間に貨幣が介在し、市が成立します。文化が進むと生産活動に従事して貨幣をえる「労働と賃金」、「生産と消費」の関係が社会の根幹を形成するようになります。

中世までは一日2食だったといわれます。その間に間食が給されていた階層・職業もありました。それがいつの間にか常のことになり昼食となったのです。そして昼の長い夏場は食後にわずかな時間ですが昼寝をしました。さらに午前10時、午後3時に軽い間食が慣習になってきます。
これらは第二次世界大戦後もしばらくの間、日本の農家を中心とする人々の生活時間でした。近年朝ゴハンを食べない若者が30%に近いといわれます。人間の体内時計は朝食を必要としていることを教えていきたいものです。

飢餓の時代

こうした人々は毎日コメを食することはありませんでした。稗、粟、豆、芋、などを炊き込んだ粥めし、葉物中心の汁に漬物が3食だったのです。経済は貧しく食材は少なく、自家生産以外を食卓に並べることはほとんど出来ませんでした。

家計の中で食費の占める割合をエンゲル係数といいます。今は死語に近く目にしませんが、昭和30年代まで国民生活の社会経済指標として最重要だったものです(表2-1、2)。

昭和20年代、敗戦による混乱で食糧の生産が激減し、手に入れるには高額な代償を必要としました。家計の実に3分の2が食べ物に消えたのでした。こうした中で政府は食糧援助を戦勝国(特にアメリカ)に懇願し、贈られた粉ミルク、乾燥卵などで救護施設などを救済し、学校給食が始まったのでした。生きるためには食べなければならないのです。

家計の中の食費

戦後10年、農業生産は回復し食糧は入手しやすくなりました。エンゲル係数は40%台に近付きました。この頃から工業生産も家電、自動車などが輸出を含めて盛況となり、農業生産物を国産から低価格の外国産を輸入する機運になります。生産人口は、農業などの第一次産業から都市部の工業地帯の第二次産業へ移動が始まりました。

その結果、食糧自給率(供給熱量)は昭和35年の54%から現在は40%に低下しています。穀物自給率は一層激動して昭和35年の82%が28%まで減少、主食用(コメ)は辛うじて政策的工夫で89%→60%です(表3)。エンゲル係数はさらに低下し20%に近付きました。それだけ私たちは生きるためだけではない消費に支出できるようになったのです。

表には出しませんでしたが消費費目の増加の著しいのは交通通信費、なかんずく移動電話通信料は2000年の2・7倍(2005年)でコメと牛肉の購入費の合計の1・5倍になっています。経済大国の日本人は〝生きるために食べる〟以上の何かに追われているのでしょうか?

食糧自給

わが国は食糧の6割を外国に頼っています。一方、食品廃棄量は供給量の50%に近いと推計されています。2050年世界の人口は20億人増えて90億人に、わが国は2500万人減で1億人になると思われます。

現在、世界の穀物生産量は19億トンですが40年後には30億トンが必要になるといわれます。特にアフリカを中心に低開発国は、現在でも約9億人が飢餓に苦しんでいると推計されていますが、人口増の著しいこれらの国だけで21億トンが必要とされています。60年前の日本と同じような、お金を積んでも買えない時代が想定されます。食糧争奪が始まらないことを祈るばかりです。
その時になって耕作放棄地や限界集落の問題を騒いでも遅い。今、学校や家庭で食をめぐるさまざまな話題が取り上げられることが必要なのです。 (当協会常勤顧問・鈴木 忠義)

(健康かながわ2009年6月号)
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