情報サービス
前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ > 世界糖尿病デーに寄せて
健康かながわ

世界糖尿病デーに寄せて

平成19年国民健康・栄養調査によると糖尿病または糖尿病予備群は約2、210万人と推定され、40歳以上の3人に1人が該当しているという。日本ばかりでなく、世界の成人人口の約5~6%が糖尿病を抱え、年間実に380万人以上が糖尿病の引き起こす合併症などが原因で死亡しているという。11月14日は世界糖尿病デー。この日を迎えるにあたって、神奈川県糖尿病対策推進会議委員であり、湘南鎌倉総合病院糖尿病内分泌内科部長の浜野久美子医師に世界糖尿病デーに関わる話や最新のトピックスについて寄稿していただいた。

世界糖尿病デーの制定「糖尿病の脅威 diabetes as pandemic」

現在、世界の成人人口の約5~6%が糖尿病を抱えており、2025年には3億8、000万人(2007年より64・7%増)に達すると予想されている。特にアジア、中東、アフリカ、南アメリカでは2倍になると試算されており、わが国でも40歳以上の3人に1 人が糖尿病または糖尿病予備群であることが、平成19年国民健康・栄養調査で発表された。

また、一般的に糖尿病は死に至る病気との認識は薄いが、年間実に380万人以上が糖尿病の引き起こす合併症などが原因で死亡している。これは世界のどこかで、10秒に1人が糖尿病に関連する病で命を奪われている計算となり、AIDSによる死者に並ぶ数字である。糖尿病合併症による間接的死亡率を合算するとさらにこの数字は増えるものと予測される。また、慢性・生涯にわたる疾患であること、合併症の進行は重篤な健康被害を招くことから糖尿病は医療費がかかる病気であるとの認識も必要である。

2007年には約2、150~3、750億ドルが糖尿病医療費に費やされ、このまま対策がとられないとむこう20年で2、340~4、110億ドルに増大するであろうとの試算もだされた。わが国でも厚生労働省は、2007年度国民医療費が34兆1、360億円だったと発表。このうち糖尿病の医療費は1兆1、471億円で、前年度に比べて129億円増加している。

このような状況を踏まえ、国際連合(国連)は、IDF(International Federation of Diabetes=国際糖尿病連合:国際的な糖尿病の支援団体、現在約160カ国190余の団体が加盟)が要請してきた「糖尿病の全世界的脅威を認知する決議」を2006年12月20日午後5時59分に国連総会議で採択した。従来、IDFならびに世界保健機関(WHO)が定めていた11月14日を「世界糖尿病デー」として指定、世界各地で糖尿病の予防、治療、療養を喚起する啓発運動を推進することを呼びかけた。

IDFは決議に先駆け、〝Unite for Diabetes〟(糖尿病との闘いのため団結せよ)というキャッチフレーズと、国連や空を表す「ブルー」と、団結を表す「輪」を使用したシンボルマーク〝ブルーサークル〟を採用。全世界での糖尿病抑制に向けたキャンペーンを推進している。 ちなみに11月14日とはチャールズ・ベストとともにインスリン発見に貢献のあったフレデリック・バンティングの誕生日である。

日本でもブルーにライトアップ

2007年11月14日第1回世界糖尿病デーにはブルーの色で世界中の主要なモニュメントや建造物がライトアップされた。ブルーライトアップ作戦は、世界160カ国、279カ所におよび、日本では日本糖尿病協会、日本糖尿病学会、日本医師会の呼びかけで、東京タワーをはじめとした各地の名所旧跡建造物がブルーにライトアップされた。神奈川県においては鎌倉地区の寺社の協力により鎌倉大仏、大船観音、長谷寺、鶴岡八幡宮がブルーに染まり、深まる秋の夜の幻想的な光景をかもしだした。

また、全国各地で講演会や血糖測定イベントなども行われ市民の糖尿病の認知に向けた大きな一歩を記した。第2回にあたる2008年には世界糖尿病デーの活動として国内のブルーサークルの輪はさらに拡大し、国民の糖尿病の認知へ向けて定着しつつある。2009年もブルーライトの灯はさらに拡大予定である。
神奈川県における糖尿病対策

日本糖尿病対策推進会議は糖尿病の発症予防、合併症防止などの糖尿病対策を推進し、国民の健康増 進と福祉の向上をはかることを目的として日本医師会、日本糖尿病学会、日本糖尿病協会の三者により2005年に設立され、各都道府県単位に対策推進会議が組織されている。神奈川県においても神奈川県内科医学会、同歯科医師会、同薬剤師会、同看護協会、行政より県保健福祉部などの参画をえて、世界糖尿病デーイベントの開催を核に、従来からそれぞれの団体独自に行われていた糖尿病対策、啓発、調査および研究活動を統括するかたちで対策推進会議が機能しはじめている。

今年の世界糖尿病デーの11月14日(土)は、みなとみらい地区において市民向け講演会およびブルーライトアップ(マリンタワー、鎌倉地区など)が予定されている。

糖尿病予防/治療の動向

最近、血糖管理と糖尿病合併症、ことに大血管症予防との関連について新たな知見が得られてきた。2008年から2009年にかけて立て続けに発表された大規模臨床試験(ACCORD,ADVANCE,VADT,UKPDS80)の結果を総括すると、糖尿病発症初期からの厳格な血糖管理の重要性が明確になった。すなわち早期介入によりできるだけ正常血糖に近い状態を続ける(良好な血糖メモリーgood glucose memory)ことが、長期間にわたる死亡率の低下や大血管症の予防につながることがわかったのである(遺産効果 legacy effects)。

インスリンを含めた糖尿病薬物療法による介入も遅すぎると逆に心血管リスクを増す可能性も示唆されている。わが国で2008年より実施された特定健診、特定保健指導は早期介入を可能にした点で最近のエビデンスに合致する施策といえる。リスクに応じて情報提供、動機づけ支援、積極的支援が行われるが、これらが有効に機能することにより糖尿病の発症予防が可能になるはずである。

現在、受診率の低さが問題になっているが、世界糖尿病デーの啓発活動と目標を一にするものであり、国民の受診率向上、その後の生活習慣改善につながるよう行政、医療保険者、健診機関、また国民自身の意識改革への努力が必要である。
神奈川県においても世界糖尿病デーのブルーライトをシンボルに、関係団体(学会、協会、医師会)、企業、政府、県民の結束が高まり、その活動の輪が広まり糖尿病予防、治療への啓発が浸透していくことを期待したい。

(健康かながわ2009年10月号)
中央診療所のご案内集団検診センターのご案内