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神奈川における新しい新生児マス・スクリーニング

5月5日はこどもの日。それにちなんで本号では子どもの健康について考えてみたいと思います。今回は、生まれてきたばかり の赤ちゃんの検査、新生児マス・スクリーニングを取り上げます。現在、タンデムマス検査が導入され、新しい動きが出てきています。そこで新生児マス・スクリーニングの現況やタンデムマス検査について横浜市立大学附属市民総合医療センター・横浜市立大学医学部の菊池信行准教授に、解説していただきました。

新生児スクリーニングとは

早期に発見し治療を行えば障害を防ぐことができる疾患に対して、生まれてすぐの簡単な検査で病気を早期に発見し治療するために行われる検査です。

現在、厚生労働省の「先天性代謝異常検査等実施要綱」に基づき全国で行われているのは、先天性代謝異常症であるフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ガラクトース血症と内分泌疾患であるクレチン症、21水酸化酵素欠損症の6疾患を対象とした検査で、先天性代謝異常等スクリーニングとも呼ばれています。この検査は、生後5日目前後に赤ちゃんの踵を穿刺して、微量の血液をろ紙に浸透させ、検査機関に血液のついたろ紙を送付して検査が行われています。

検査は公費により無料で行われており、赤ちゃんのほぼ100%がこの検査を受けています。今までに約 3000万人の新生児が検査を受け、少なくとも1万人以上の赤ちゃんが障害の発症を免れることができたと推定されています。

わが国の新生児スクリーニングの現状

検査法や治療の進歩により上記の6疾患以外にもスクリーニングによる早期発見により障害を予防できる疾患が増えています。これらをスクリーニング対象疾患にして、多くの赤ちゃんを障害から救おうという動きが高まっています。

ところが、昭和52年に国の事業として始まった新生児マス・スクリーニングは、数年前の行政改革の際に一般財源化され、新生児スクリーニングの実施は各地方自治体に一任されることになってしまいました。新しいスクリーニングで赤ちゃんの障害を未然に防ごうという自治体もありますが、厳しい財政状況から新生児スクリーニング自体を廃止しようと考える自治体も現れています。

タンデムマス検査とは

image「タンデムマス」とは「二つ繋がった質量分析器」を意味し、液体クロマトグラフィーに質量分析計が繋がった分析機器のことです(写真)。

タンデムマス検査とは、この機器を利用して従来の方法では測定ができなかった物質を測定して代謝異常症を見つける検査を指します。新生児スクリーニング検査と同じ血液をしみこませたろ紙を用いることが可能なため、赤ちゃんへの負担は増えません。1990年代の終わりから欧米諸国において、タンデム検査を用いた新生児スクリーニングが開始され、乳幼児突然死や重度障害の予防に有用であることが明らかにされています。

タンデムマスで新たに発見できるようになる疾患

タンデムマスでは、有機酸代謝異常症、脂肪酸β酸化異常症、尿素サイクル異常症など今まで見つけられなかった20種類以上の病気の早期発見が可能です。
有機酸代謝異常症は、アミノ酸から作られる中間代謝体である有機酸が生まれつきの酵素の障害のために身体に蓄積し、脳などが障害される病気です。代表的な疾患として、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、グルタル酸尿症などがあります。

脂肪酸β酸化異常症では、脂肪酸を燃焼してエネルギーをつくり出す代謝過程の障害で必要なエネルギーを十分に得ることができません。そのため、低血糖症や筋障害(筋力低下や筋痛)などを呈します。なかにはふだんはほとんど症状がないにもかかわらず、乳幼児期に風邪などを契機として重篤な症状を発症する疾患が含まれています。

尿素サイクル異常症もタンデムマスで発見されます。タンパク質が体内で分解されてできるアンモニアを身体に害のない尿素に変える仕組みを「尿素サイクル」といいます。尿素サイクル異常症とは、これに関連した酵素の障害のため、アンモニアが身体にたまり脳が障害される病気です。シトルリン血症、アルギノコハク酸尿症などがあります。
日本ではこれらの疾患は9000人に1人位の頻度で見つかると推定されています。

タンデムマスで異常が見つかった時の対応

image病気の疑いがある場合は、専門の小児科医が精密検査を実施します。病気と分かった場合には、適切な食事療法、薬物療法を行います。

タンデムマスの有用性が認識され、平成21年には日本で生まれた子どもの5人に1人はこの検査を受けています。神奈川県では平成20年度からは横浜市立大学附属市民総合医療センターで開始され、今年度はさらに対象施設(図)が増える予定です。一日も早く、すべての赤ちゃんが受けられるようになることを期待しています。

タンデムマス導入に向けての課題

一方で、タンデムマスで見つかる疾患の確定診断に必要な特殊な検査は、保険未収載であり検査できる施設が限られていることや、海外で有効性が認められ使用されている薬剤でも日本では未承認のものが多く、スクリーニング後の確定診断、早期治療の問題を早急に解決する必要があります。(横浜市立大学医学部・菊池信行)

(健康かながわ2010年5月号)
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