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健康かながわ

 日本人の死亡原因の第一位は1981年からがん。以来、上昇傾向はとどまることなく、他の疾患を引き離し、現在では死亡の30%以上を占め、2人に1人が生涯に一度は何らかのがんにかかるといわれている。がんの原因は、喫煙や飲酒、食生活などの生活習慣、あるいはウイルスなどの感染などによると考えられている。

本号では、長年、日本でがんと生活習慣に関連した疫学研究を続けている国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部の津金昌一郎部長から「食生活とがん予防」をテーマにこれまでの研究成果について寄稿いただいた。(編集部)

2人に1人が「がん」に罹患する時代

 食品や栄養素でがんになるリスクが上がる、あるいは下がるという情報は多い。がんは高齢者ほどかかりやすい病気である。少子高齢化社会になった日本で生涯に一度は何らかのがんに罹患する人の割合は、いまや2人に1人と推計されている。身近にがんになる人、闘病の末に亡くなる人、がんを克服して社会復帰する人が増える。予防にも関心が集まるが、がん予防のことをじっくり真面目に伝えようとするメディアはまだ少数派であろう。

  がんには、生活習慣病としての側面も大きい。がんに絶対にならないという予防法はない。しかしながら、日本人の誰もが高い確率で罹る病気を、生活習慣の改善という方法で少しでも遠ざけられるとしたら、それを実行することの見返りは大きい。

  平成19年度に「がん対策基本法」が施行されたが、国民の責務として、「喫煙、食生活、運動その他の生活習慣が健康に及ぼす影響等がんに関する正しい知識を持ち、がんの予防に必要な注意を払うよう努める」ことが求められている。

一筋縄ではいかない「がん予防」

  ところが、喫煙・飲酒、感染以外のがんの原因はよくわかっていない。まして食事とがんの関連を検討した疫学研究の結果は白黒はっきりしないうえに、状況によって方向性や数字が変わることがあり、わかりにくい。例えば、肥満が閉経後乳がんのリスク要因であることはよく知られているが、閉経前乳がんにはむしろ予防的とされる。

カルシウムは大腸がんのリスクを下げるが、前立腺がんのリスクは上げるのではないかと考えられている。さらに、同じテーマの研究結果でも、対象集団の特徴によって異なる。例えば、肥満が多い欧米では、がんの大きな原因としてクローズアップされるが、日本やアジアでは人口の多くがやせ気味であり、多少太り気味の人の方でがんリスクが低い。がん予防の知識は一筋縄ではいかない。

サプリメントは有効か?

 もし食品や成分で単純にがん予防が可能だとしたら、その有効成分をサプリメントとして多くとった人はとらなかった人に比べがんが減るはずである。このような考え方から、これまでに、β-カロテン、ビタミンE、ビタミンCなどの抗酸化栄養でヒトを対象とした実験(介入試験)が行われた。その結果、これらにはがん予防効果がなく、高用量のβ-カロテンやビタミンEについては、一部のがんや死亡のリスクが上がることなどが示されている。

  抗酸化栄養は、使用する人の栄養状態によって毒にも薬にもなるらしいということがわかり、リスクとベネフィットについてのバランスを考慮した慎重な使用が求められる結果となった。アジアやアフリカの途上国などで必要な栄養素が欠乏している場合には補う必要があるかもしれないが、欧米や日本など基本的に食事から栄養素が十分とれている状態でさらにサプリメントとしてとった場合には、何の効果も期待できないか、かえって悪い結果を招く可能性がある。さらには、成人期での脂肪摂取量(脂肪エネルギー比率)の減少は、乳がん・大腸がんを予防しないことも明らかになっている。



世界がん研究基金と米国がん研究協会の報告書では―

 このような経過があり、生活習慣とがんの関係の評価は、世界中から信頼するに足る研究結果を専門家が集めて討議し、慎重に行われている。最近では、2007年に世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)は、食べものとがんとの因果関係について評価を実施し、報告書「食物・栄養・身体活動とがん予防」として出版している。

  その中で「確実」あるいは、「可能性大」の要因を中心として、以下のようながん予防のための食事ガイドラインが提案されている。
①肥満度について:正常な体重の範囲で出来るだけやせる
②身体活動について:日常生活の中で活動的になる
③体重を増やす飲食物について:高カロリー食品や甘い飲み物を制限する
④植物性の食事について:植物から出来た食品を中心にとる
⑤動物性の食事について:赤肉(牛、豚、羊などの肉)を制限し、加工肉(ソーセージ、サラミ、ベーコン、ハムなど)を避ける
⑥アルコール飲料について:飲酒を制限する
⑦保存・加工・調理について:塩を制限し、カビのはえた穀物や豆類を避ける
⑧サプリメントについて:食事だけで必要な栄養がとれるようにする。

  また、特定の人に向けて、次の2項目の指針を示している。
授乳期の女性に:母は授乳し、子には母乳を飲ませる
がんになった人に:がん予防のための食生活のアドバイスに従う。

日本での研究成果

  日本においても、近年、大規模疫学調査の結果が数多く報告されつつある。そこで、生活習慣などの要因とがんとの関連を包括的に評価する作業を、厚生労働科学第3次対がん10か年総合戦略研究事業「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」研究班(http://epi.ncc.go.jp/can_prev/)において実施し、最新の評価を研究班のホームページにおいて公表している。

  これまでに食習慣との因果関係において、〝確実〟と判定したのは、肥満と閉経後乳がんとの因果関係についてのみである。また、〝ほぼ確実〟と判定したのは、塩分・塩蔵食品と胃がん、肥満と大腸と肝臓のがん、予防的な関係として、コーヒーと肝臓がん、運動と大腸がん、野菜・果物と食道がん、緑茶と胃がん(女性)との因果関係である。

  そのほか、〝可能性あり〟として、加工肉と大腸がん、熱い飲食物と食道がん、予防的な関係として、野菜と胃がん、果物と肺と胃のがん

表 日本人のためのがん予防法

喫 煙

たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。

飲 酒

飲むなら、節度のある飲酒をする。

食 事

食事は偏らずバランスよくとる。
*塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。
*野菜や果物不足にならない。
*飲食物を熱い状態でとらない。

身体活動

日常生活を活動的に過ごす。

体 形

成人期での体重を適正な範囲に維持する(太りすぎない、やせすぎない)。

感 染

肝炎ウイルス感染の有無を知り、感染している場合はその治療の措置をとる。

、コーヒーと大腸がん、大豆と乳房と前立腺のがん、カルシウムと大腸がんを挙げている。その他の多くは、データが不十分のために評価できていない。国際的ながん予防ガイドラインを参考にしながら、日本人のエビデンスを中心とした因果関係評価に基づいて、がん予防研究班において策定した「日本人のためのがん予防法」を表に示す。

  飲食行動に関わる部分では、まず節度ある飲酒を求めている。食事は偏らずバランスよくとることが大切であり特に塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする、野菜や果物不足にならない、飲食物を熱い状態でとらないことが求められる。また、日常生活を活動的に過ごし、成人期での体重の維持を心がける。いたってシンプルだが、実現はなかなか難しいかもしれない。

  この内容は、今後新しい研究の成果が積み重なることにより、内容が修正されたり、項目が追加あるいは削除されたりするアップデートを前提とする、科学的根拠の現状に基づいた指針であると考えている。

  最後に、がん予防は、疾病予防・健康増進の大きな部分を占めるが、その全てではない。他の病気予防を見据えながら、偏らずバランスの良い生活を楽しむのが基本である。


(健康かながわ2011年2月号)

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