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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ> 東日本大震災で被災された方々を支援するための重要なポイント
健康かながわ

 東日本大震災で被災された皆様へ心よりお見舞い申し上げます。また現地で復旧・復興作業をされている地元の方々、ならびに救援に駆けつけておられる方々のご努力に深く敬意を表します。東日本大震災は巨大な津波を伴ったことにより未曾有の災害となり、約20万人が避難生活を余儀なくされています。

  すでに多くの医療従事者、ボランティア、NPOなどの様々な組織が被災者の健康や生活を支えるために活動をされていますが、支援のニーズは時期によって異なります。本稿では、災害後1ヵ月ごろにおける被災された方々の健康を支援するための重要なポイントを紹介します。(和田耕治・北里大学医学部公衆衛生学講師)

1ヵ月後の状態

  多くの地域でライフラインが復旧し、生活物資もある程度は得られるようになります。しかし、被災者、医療従事者、復興にあたる職員(行政の方)などの疲労は頂点に達します。災害後の人々の気持ちの動きについては図のように災害の直後しばらくは協同する動きが高まりますが、その後「幻滅期」と呼ばれるように集団のメンタルヘルスは急激に悪化します。この悪化を少しでも食い止めることが、この時期の重要な対策になります。

  そのためにも、被災者や復興にあたるすべての方が定期的な休息がとれるような環境作りが必須となります。避難所では、仮設住宅や既存の住宅などへ移り住む人などが増え、人数も減少します。ある程度避難所において自治組織ができていたとしてもその維持が難しくなります。

  特に東日本大震災においては多くの避難所が広域に点在しているのも特徴で、今後これらの避難所の統合などが必要になりますが、故郷を離れることや、まったく違う部落の人と一緒になるといったことから容易なことではありません。こうした動きのなかで残念ながら孤立化する人も出始め、うつ病や最悪の場合自殺といったことも起こりえます。また、行政の方や医療従事者は連日休みなく働いていますが、お互いに休みが週に1日はとれるようにし、健康こそが中・長期的にも必要であることを組織のトップや一人ひとりが認識する必要があります。

生活を改善する

 日々の生活の些細なことをきちんと整えることこそ、基本となります。避難所や仮設住宅群などにおいてもっとも重要な生活の場の一つとしてトイレがあげられます。1ヵ月経つと仮設トイレに頼る状況は減ってきますが、トイレの清掃などのルールを定めるなど管理が必要です。トイレが汚いとトイレに行きたくないために脱水になったり、余計トイレが汚れることにつながります。

  食事も次第に充実しますが、簡単に調理ができるようなものやカロリーや塩分の多いものが続くことにより健康を害する可能性があります。阪神・淡路大震災では、被災後2ヵ月の健康診断で中性脂肪の上昇、高血圧、貧血などの人が増えたことが確認されたようです。食事については、可能であれば管理栄養士などの指導も必要になります。

  体を動かす機会が減ることでもともと杖歩行ができていた人が歩けなくなったり、関節の拘縮ならびにエコノミークラス症候群といった血栓、塞栓症なども発生する可能性があります。高齢者などには体を動かす機会を体操などによって提供することが必要ですし、歩けなくなりつつある人などを特定し、介護サービスにつなげる必要があります。

  また、便秘、不眠、脱水を確認し、必要な治療などを行うことも継続して求められます。飲酒や喫煙も課題になります。飲酒量が多くなる方もおられますので周囲の支援が必要です。喫煙は場所を決め、分煙を徹底していることを確認します。

感染症を予防する

 集団生活においてはインフルエンザやノロウイルスなどの感染症の流行が課題となります。日常生活においてこまめな手洗いや、感染患者がいた場合には他の人と一定の距離を空けるなどといった対策が求められます。しかしながら、こうした対策が行われても流行が発生する可能性があります。また、こうした感染症はボランティアが持ち込むことがあります。症状のあるボランティアは避難所などに行かないことを徹底することが必要です。
  食事の管理が困難となり、古い食べ物がたまりがちになります。賞味期限などに注意し、古くなった物は捨てるようにすることも必要です。

トラブルや暴力を予防する

 残念ながら、ストレスや疲労、やりきれない気持ちなどから攻撃的になったりトラブルや暴力が発生します。被害に合うのは子ども、女性、高齢者など弱い方々です。こうした暴力が発生してから対策を考えるのではなく、予防することが大切です。

  災害下では赤ちゃんや子どももストレスを感じ、普段よりぐずりがちになることがあります。赤ちゃんがたくさん泣くのは当然のことですが、親にとってはストレスになります。無力感や怒りを感じた際には、少し赤ちゃんから離れた時間をとり、穏やかな気持ちを取り戻して赤ちゃんに接することができるよう周りの人も支援することが必要です。

  性的な暴力もこうした災害においては増加することが報告されています。女性が外出する際は、単独行動は避けて、友人などと一緒に行動しましょう。避難所などのトイレが安全な環境にあるかも確認が必要です。もし自分や周りの人が被害にあったら、親友や家族に話して十分にサポートを受けてください。そして警察に連絡することをためらわないでください。

孤立させないための取り組み

 避難所の人にも様々な動きがあり、最後まで取り残される人は孤立しがちで、より助けが必要な方かもしれません。さらに孤独になっていくと追い打ちをかけます。残念なことですが、こうした状況の最悪な結果は自殺です。こうしたことが避難所などの集団生活の場で発生してしまうと大きな影響を与えます。そのためにできることを4つあげました。

①家族や友人・地域住民とできるだけ連絡を取り合いましょう。
②散歩をしたり、グループで行う活動に参加したり、活動的でいましょう。
③避難所や地域、学校の手伝いなどに参加し、なるべく活動的でいましょう。
④もし、あなたや周りの人が自殺のことを考えてしまうようだったら、必ず専門家(訪問する医師や保健師など)に相談しましょう。

  現在は電話相談サービスなども学会や行政機関により提供されていますので、そうした情報を利用することも一つの対策になります。

おわりに

 すでに「助け合い」が強調されていますが、助け合いを継続するためにも積極的な支援が必要です。1ヵ月経った段階ではあわてる必要はありませんので、戦略的にボトムアップを行いながら復興に向けての中長期的な方向性を見いだしていくことが求められます。


謝辞:本稿は産業医学推進研究会の助成により行われているサイト(http://square.umin.ac.jp/ohhcw/)を基に作成されました。

 

(健康かながわ2011年4月号)

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