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健康かながわ

 昨年12月22日に労働政策審議会は、今後の職場における安全衛生対策について厚生労働大臣に対して建議を行いました。建議では、職場における受動喫煙防止対策の抜本的強化や職場におけるメンタルヘルス対策の推進等を実施すべき対策としてあげています。早ければ、現在開催中の通常国会に上程され、建議の内容をもとに事業場での実践を義務づける方向で法改正の国会審議が行われる予定です。

  今後の受動喫煙対策やメンタルヘルス対策はどのように進めるのか、企業・事業場の対応・課題を含めて解説したいと思います。
(労働衛生コンサルタント事務所オークス所長・竹田透)

受動喫煙対策

 職場における喫煙対策については、職場における喫煙対策のためのガイドライン(平成8年策定、平成15年改訂)があります。安衛法では、事業者に快適職場環境の形成を努力義務として課していますが、このガイドラインによる喫煙対策は、快適職場形成に位置づけられていました。

  今回の建議に示された喫煙対策の内容は、労働者の健康障害防止という観点から取り組むことが必要とされて、快適職場の形成という考え方から大きく踏み出しました。この背景には、日本も批准しているWHOのたばこ規制枠組み条約(平成17年2月発効)があります。

  この条約では、たばこの煙にさらされることからの保護の条文に、屋内の職場、公共交通機関、屋内の公共の場所等におけるたばこの煙にさらされることからの保護についての効果的な措置をとることとしています。また、法的な拘束力はないものの、たばこ規制枠組み条約第8条履行のためのガイドラインでは、100%禁煙以外の措置(換気、喫煙区域の使用)は、不完全である、すべての屋内の職場、屋内の公共の場及び公共交通機関は禁煙とすべきである、としています。このような国際的な動向を受け、政府は「新成長戦略」の中で2020年までの目標として、受動喫煙の無い職場の実現をあげました。

  このような背景をもとに、今回の建議では、一般の事務所や工場等では、全面禁煙や空間分煙とすることを事業者の義務とすること、また飲食店等についても、同様の措置を取ることが適当だが、当分の間は、換気等によって受動喫煙の機会を減らすことを事業者の義務とすることが適当としています。なお、罰則は当面つけず、対策の進捗状況を踏まえ対応することとなっています。

メンタルヘルス対策

 メンタルヘルスは社会的にも大きな課題であり、行政や各企業・事業場で様々な取り組みが行われています。しかし、自殺者数は依然として3万人を超える状況が続いており、メンタルヘルス対策をまだ実践できていない事業場も少なくありません。

  自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム報告書(平成22年5月)では、職場におけるメンタルヘルス対策重点の一つとされ、「メンタルヘルス不調者の把握と把握後の適切な対応」について検討することとされました。その後、職場におけるメンタルヘルス対策検討会が開催され、その具体的な方法や事業者の義務とすることについての是非について議論され、検討会報告書では、定期健診に併せ、ストレスに関連する労働者の症状・不調を医師が確認し、産業医等の面接につなげる新たな枠組みが提言されました。この報告書をもとにした労働政策審議会の建議には、事業者の取り組みの第一歩として、ストレス症状を有する者に対する面接指導制度を導入すること(図2参照)と外部専門機関による対応が示されています。

  具体的には、医師が労働者のストレス症状を確認し、面接が必要と認める場合には労働者に直接通知すること、労働者が事業者に対し面接の申出を行った場合には、現行の長時間労働者に対する医師による面接指導制度と同様に、事業者が医師による面接指導及び医師からの意見聴取等を行うこと、そして留意点として、事業者は、労働者の申出又は面接指導の結果を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないことが示されました。

今後の対応と課題

 平成19年に厚生労働省が実施した労働者健康状況調査では、全面禁煙又は喫煙室を設けそれ以外を禁煙のいずれかの措置を講じている事業所の割合は46%であり、喫煙対策の実施率は高くない状況にあります。また、喫煙対策の具体的な進め方がわからないという事業所も多く、受動喫煙対策を積極的に進めていくには、国は啓発の機会を多く増やすだけではなく、技術的支援及び財政的支援も必要です。安衛法が改正されれば様々な施策が実施されると思いますが、今後の研修の機会等に事業場の担当者や産業保健スタッフが積極的に参加するだけではなく、事業場内でより能動的に活動することが望まれます。

 現在の喫煙状況(喫煙ルール、喫煙場所、喫煙率等)を確認することは今後の受動喫煙対策を進める上での基礎データになりますし、国際的動向や法改正の動きあるいは他社の受動喫煙対策事例等を衛生委員会で紹介することも有用です。また、受動喫煙対策と併せて禁煙支援のサポートを行うことも重要ですが、5月31日の世界禁煙デーにあわせて啓発活動を行うことも一つの方法です。

  一方、メンタルヘルス対策については、今後の法改正等の動向について確認をしていくことが必要です。すでにメンタルヘルス対策を実践している事業場では、法改正によって義務づけられる内容が具体的に示された後に、それを既存の活動にどのように位置づけ適用するかを検討する必要があります。

  しかし、これからメンタルヘルス対策を進める事業場では、メンタルヘルス不調者の把握と事後措置はあくまでもメンタルヘルス対策の一部ですので、復職支援やストレスマネージメント等の様々な予防活動とあわせた総合的な対策を作成し、優先順位を決めて実践していく必要があります。

  今後、受動喫煙対策やメンタルヘルス対策を新規にあるいは今までに加えて実践することになると、従来の活動に付加されることになります。その際に、従来の活動が疎かにならないような注意も忘れてはいけません。新たな活動を含めて活動計画を準備することも大切になります。

(健康かながわ2011年5月号)

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