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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ> 神奈川県における放射性物質の測定と健康影響
健康かながわ

  3月11日の東日本大震災に伴い、福島原発事故が発生し、放射線被曝について、大きな関心が寄せられています。神奈川県内でも生茶葉の測定値が暫定規制値を上回るなどの報告もあり、各市町村の相談窓口では放射線被曝に関しての問合せが相次いでいるそうです。そこで私たちの生活に、直接に関係する多くの項目の放射性物質を測定している神奈川県衛生研究所の岡部英男所長に県内の放射性物質の現状について寄稿していただきました。

はじめに

 私ども神奈川県衛生研究所では、「県民の皆様方の健康と安全を守る」という使命で日々業務を行っています。
3月11日の東日本大震災に関連して福島第一原子力発電所事故(以下、福島原発事故)が発生し、放射線被曝について、大きな関心がもたれています。

  これは、放射線被曝の濃度によっては、健康に影響することがあり、がん化する恐れもあるためです。しかし私たちは、過敏に反応するのではなく、測定結果を冷静に判断して適切に行動することが大切です。

  私ども衛生研究所では、関係部局からの依頼に基づいて、平時から放射性物質の測定を毎日行い公表しています。今回、福島原発事故に伴い、危機管理対応として、測定は、関係部局の調整により、対象項目を広げ、それぞれの測定回数を大幅に増やして実施し、その結果は神奈川県や衛生研究所のホームページで公表しています。
  本稿では、まず放射性物質と健康影響について述べ、その後、神奈川県における測定値に基づいた現状を報告いたします。

Ⅰ.放射性物質と健康影響について
(1)福島原発事故に関する放射性物質と体内での代謝について

 福島原発事故では、放射性物質の中でもヨウ素131とセシウム134、137などが放出されました。ヨウ素131は半減期(半分になる量)が約8日と短いので、数ヵ月以内でほとんどすべてがなくなります。一方セシウム137は、半減期が約30年と長い間、放射線を出し続けることになります。
  ただし、体内に取り込まれた内部被曝の場合、時間とともに体外に排出されます。ヨウ素131は成人では約7日、セシウム137は約90日で排出されます。

(2)放射性物質の人体への取り込みについて

 主に野菜や魚などの食物を経由して、人体に取り込まれます。消化器や呼吸器から体内に取り込まれた放射性物質による「内部被曝」と皮膚などに落下した放射性物質による「外部被曝」があります。

(3)放射性物質測定値の基礎として:ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)について

1.ベクレルは放射線を出す物質の側からみた放射能の強さを表す単位で、放射線を出すのに1秒間に何個の原子核が変化をしたかを意味します。
2.シーベルトは放射線を受ける側を主役にした単位で、放射線のエネルギーをどれくらい吸収し、影響を受けたかを表します。したがって体への影響を考える時はシーベルトを参考にします。
3.ベクレルとシーベルトの換算式は、受ける放射線量(ミリシーベルトmSv)=換算係数×放射能の強さ(ベクレル/キログラムBq/㎏)×飲食量です。

(4)微量の放射線被曝での健康への影響について

 長い期間、少ない放射線を浴び続けた場合、体にどんな影響が起きるかが問題です。表1にまとめたので参照してください。

 

 

 

Ⅱ.神奈川県での測定に基づいた現状

 神奈川県衛生研究所は茅ヶ崎市にありますので、新聞やテレビなどの報道で測定値が茅ヶ崎市とあるのはそのためです。放射性物質の測定は、空間放射線量や大気浮遊じん、水道水、雨水、海水、食物などで実施されています。

(1)空間放射線

 横須賀市、川崎市、茅ヶ崎市内のモニタリングポストで常時監視されています。空間放射線量率は3月15日に上昇がみられ、県内最大値(横須賀市)0.2128μSv/hで衛生研究所(茅ヶ崎市)0.182μSv/hが測定されましたが、健康に影響ないレベルでした。その後、降雨による上昇があったほかは漸減傾向にあります。(図1)

 

 

(2)水道水、食品、雨水、海水

 ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーで測定しました。現状ではいずれも健康に影響ないレベルでした。なお、(2)~(5)の項目は同様の機器で測定した結果です。

(3)食品

3月21日以降、県内の野菜、しいたけ、原乳、魚、肉、貝の検査を適宜実施しています。いずれも食品衛生法上の暫定基準値を下回るものであり、健康に影響のないレベルでした。

(4)茶(生葉)

5月9日に南足柄市で採取した茶(生葉)を測定した結果、放射性セシウムが最大で570Bq/㎏と食品衛生法上の暫定規制値500Bq/㎏を上回りました。その後、足柄茶に関係する市町村の茶(生葉)について測定しました。結果、暫定規制値を上回ったのは最大値で、小田原市780、愛川町670、真鶴町530、湯河原町680、清川村740でした。放射性ヨウ素はいずれも不検出でした。県は暫定規制値を上回った生産地からの出荷を自粛していただくようお願いしました。

  今回の測定で、最高値の780Bq/㎏の放射性セシウムが検出されたお茶1㎏について、仮に毎日摂取するとして計算しますと、1年間の摂取は3.70mSvとなります。上記した医学的な検査の際の被曝線量に比しても、健康に影響を与えるレベルではないと考えられます。 

(5)海水

 福島原発事故で海水中に放出があったことを受け、4月12日に県内(茅ヶ崎市)の海水の検査を実施しました。測定結果では放射性物質は検出されませんでした。

  これから夏場の海水浴シーズンにそなえ、5月9日以降、横浜市から湯河原、真鶴町までの湘南海岸の海水浴場を中心に海水の放射能濃度測定を実施し、定期的に発表します。現在まで、いずれの海水浴場やその周辺での放射性物質の測定では、不検出です。

おわりに

 神奈川県内の放射性物質の測定は、衛生研究所等で空間放射線量率や大気浮遊じん、水道水、雨水、海水、食品などについて、現在も継続して行われています。いずれも健康に影響のないレベルです。
  放射線の基礎知識や関連情報をわかりやすくまとめ、神奈川県や衛生研究所のホームページへ掲載し、以降適宜更新しています。(平成23年5月21日記載)
神奈川県衛生研究所ホームページ:http://www.eiken.pref.kanagawa.jp/

(健康かながわ2011年6月号)

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