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健康かながわ

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)に関する話題は、近年マスコミでもしばしば取り上げられ、COPDが社会に認知され、関心を持たれるようになってきています。しかし、病名のCOPDは英語病名の単語の頭文字をつなげたもので、この名前からしてわかりにくい、何やら難しい病気のような印象を持つ方が多いようです。
  現在、COPDは世界で死因の第4位を占め、2020年には3位になることが予想されています。国内においても、死因の第10位、男性に限ると7位を占めており、500万人以上の患者さんがいることが推定されています。このようにCOPDは、珍しい病気ではなく、極めて身近な病気です。本稿では、COPDとはどのような病気なのか、そしてその診断や治療の実際、さらに予防について解説したいと思います。
(横浜市立大学附属市民総合医療センター副病院長・呼吸器病センター教授金子猛)

COPDってどんな病気?

COPDは、従来、慢性気管支炎、肺気腫と呼ばれていた2つの病気を併せた病名です。COPDでは、主に喫煙が原因となり、肺と肺に至る空気の通り道である気道が炎症を起こし、肺が壊れ気道が狭くなっています(図)。このため、咳・痰や息切れを自覚するようになります。進行すると、酸素吸入が必要となり、日常生活に支障をきたし、入院を繰り返したり、寿命を縮めることになります。

  また、COPDは肺だけの病気ではなく、全身に波及して体重低下、筋力低下、心・血管疾患、骨粗鬆症、消化性潰瘍、抑うつなど肺以外の病気をもたらすことが知られています。なお、酸素を自宅で使用している人は、全国で約15万人おり、そのうちの約半数がCOPDの患者さんです。

COPDと喫煙

 喫煙は、COPDの最大の危険因子であり、COPDは「タバコ病」とも呼ばれています。つまり、COPDは喫煙習慣に基づく生活習慣病です。喫煙習慣を20年以上続けていると、約5人に1人がCOPDを発症します。タバコ煙に含まれる有毒な粒子やガスを繰り返し吸入することによって、肺や気道に炎症が生じて、肺が壊れ気道が狭くなります。

  一度壊れてしまった肺は再生しないので、COPDになる前にできるだけ早く禁煙をすることが重要です。COPDになってしまった場合、そのままタバコを吸い続けると病気はどんどん進行していきます。しかし、禁煙すれば、病気の進行がゆっくりになり、症状が改善したり、増悪の予防にもつながります。

COPDの早期診断と治療

 日本人の40歳以上では、500万人以上のCOPDの患者さんが存在することが推定されていますが、これは約10年前の調査に基づくもので、現在の日本の人口動態に換算すると約700万人に上ります。しかしながら、COPDの診断がなされているのは、このうちの1割強にすぎず、大部分の方は未診断のままタバコを吸い続けています。

  COPDの患者さんの多くは、タバコを吸っていれば軽い咳や痰は当たり前と考えており、早期には医療機関を受診しません。そして、呼吸機能が高度に低下して、息切れなどの症状が強くなってから受診すると、進行した状態のCOPDと診断されることになります。したがって、40歳以上で20年以上の喫煙歴があり、慢性の咳や痰があれば、COPDの可能性が高く、このような方は是非、早めに医療機関を受診していただきたいと思います。

  診断には、呼吸機能検査(スパイロメトリー)が最も重要になります。これは、筒をくわえて胸いっぱい息を吸い込んでから、筒の中に一気に最後まで息を吐き出すことで、一秒間に吐き出した息の量と肺活量を測定する簡単な検査です。COPDでは、この一秒間に吐き出せる息の量が減ってきます。咳や痰の症状がないかあるいは軽いうちに、かかりつけ医のところや健康診断で呼吸機能検査を行うことが、COPDの早期診断、早期治療に極めて有用です。

  COPDは、禁煙に加え、薬物治療を行うと、さらに進行が抑えられ、自覚症状の改善や増悪の予防となり、さらには死亡のリスクが低くなります。薬物治療としては、第一に、気管支拡張薬の吸入を行います。前立腺肥大や緑内障などの合併症がなければ、長時間作用性抗コリン薬の吸入を行います。これが使えない場合は、長時間作用性β2刺激薬の吸入を行います。吸入が困難な場合は、貼付や内服の気管支拡張薬もあります。病状が進行している場合は、これら吸入薬の両者を使います。さらに、入院するような増悪を繰り返す場合は、吸入ステロイド薬を併用すると、増悪の予防効果があります。喀痰症状に対しては、粘液調整薬も有効です。

  それから、安定期の管理として忘れてはいけないのが、インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種です。増悪予防のためにこれらのワクチンを接種しておくことが重要となります。また、薬物治療以外のCOPD管理では、呼吸リハビリテーションも有用です。これは、患者さんの身体機能を最大に保ち、身体活動をより活発にする効果があり、日常生活を心身にわたり良好な状態に改善します。大きな病院では、呼吸リハビリテーションのプログラムがあります。

おわりに

COPDは、タバコによる生活習慣病であり、タバコを吸い続けることで肺が壊れ続け、病気が進行していきます。したがって、早期に診断し、早期に禁煙を実行し、薬物治療を併用することで、病気の進行を抑えることが可能になります。しかしながら、早期には自覚症状に乏しいため、患者さんがCOPDの診断のために医療機関を受診することは少なく、かかりつけ医のところや健康診断で、症状の有無にかかわらず呼吸機能検査を行ってみることが重要です。

  また、COPDの予防は、タバコを吸わないことですが、愛煙家が禁煙を実行するのは容易なことではありません。喫煙によってCOPDになりやすい人となりにくい人が存在し、むしろ後者のほうが多数であるため、喫煙者は、自分に限っては大丈夫だろうと考えがちです。近年、喫煙によるCOPDの発症に、遺伝子異常が関与していることが明らかになってきており、近い将来、かかりつけ医のところや健康診断での血液検査によって、簡便なCOPDのリスク診断が可能になり、禁煙指導の一助になるものと期待されます。

 (健康かながわ2011年8号)

 

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