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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ> 神奈川県予防医学協会における特定保健指導―3年を経過して―
健康かながわ

 平成20年度から開始された医療保険者による「特定健康診査・特定保健指導」は、3年を経過した。この間、神奈川県予防医学協会は、受託機関として体制を整備し、保険者との協議を重ねながら取り組んできた。

  これまでの3年間の実施経過と今後の課題について、受託機関の立場でまとめた。(当協会健康創造室相談課保健師・高橋美世)


3年間の契約団体と実施数の推移

 当初は、「特定保健指導って何かのイベントですか?」などと質問されたこともあった。だが今やメタボを知らない人はなく、腹囲を気にする人が増えている。当協会の契約団体数も22団体から37団体と増加した。

  当協会の実施数は、表1の通りである。実施方法は4つ。
  ①人間ドックでの実施。当日、階層化(特定健診結果の血糖・脂質・血圧・喫煙から保健指導のレベルが決まる=表2)し、動機付け支援の実施と積極的支援の参加勧奨②健診の後日、施設での実施③健診の後日、巡回での実施④巡回健診時の全員面接による事後指導と動機付け支援の実施・積極的支援の参加勧奨。

  ①の人間ドックでの実施は、医師の結果説明を受け、意欲が高まった状態で参加できることが評価され、契約団体が増加している。また動機付け支援よりも積極的支援の方が効果的と判断した保険者もあり、積極的支援が増加傾向である。④の巡回健診時での動機付け支援方式は、特定保健指導導入の前から事業者が生活習慣病予防に取り組んでおり、保険者と協力して実施してきた。当日の血液検査結果を把握できないため、前年度の血液検査結果で階層化をしている。今後、厚生労働省は健診時に同時実施を推奨する方針でもあり、今後も活用されていくと思われる。

評価について

20年度の結果をみると、体重は動機付け支援実施者の50%、積極的支援実施者の70%が減少していた。また21年度の積極的支援実施数の多い団体を観察したところ、体重・腹囲は減少していた。そのうち実施数の多い1団体を、積極的支援実施群と非実施群で比較したところ、実施群の体重、腹囲、BMI、血圧の有意な低下がみられ、翌年、積極的支援対象になるリスクが半減していた。

  参加者の感想をみると、動機付け支援の約7割、積極的支援の約9割以上が満足していた。しかし参加者自身の取り組みについては、動機付け支援の5割、積極的支援の3割程度が不満を持っていた。生活習慣を改善し、体重なども減少していても目標値まで達成しなかったことに不満が残る印象である。また「今後も改善した生活習慣を継続できるか」の問いには、継続できると答えた人は、食事、運動とも5~8割。だが喫煙は2割程度と、禁煙の難しさを感じる。

  プログラムの評価は今後の課題となるが、参加者のアンケート結果から、面接回数の多いコースの満足度が高かった。

3年間の実践から見えてきた5つの課題

 第1に階層化された対象者の再評価を図ること。当初、参加者の特定健診項目以外の疾病治療があったり、初回面接で服薬治療が判明したことがあった。また実施当日の血圧が治療域にあるなど特定保健指導を実施すべきか判断に迷う場合が多々あった。事前に保険者と様々な状況を想定し、取り決めをして解決を図ってきた。また事業場に産業医や産業看護職がいる場合は、再階層化を依頼した。保険者が階層化した対象者をさらに再選出することで、適切な対象者に対して実施することができた。今後も保険者・事業場・当協会が協力し、役割分担しながら進めていくことが重要と考える。

  第2に対象者選出の工夫。当初は意欲の高い希望者から実施した団体がほとんどであった。最近は対象者全員への実施をする団体が増えてきた。しかし途中脱落が増える傾向があり、毎年同じような選出方法でよいのか検討し、数カ年計画で優先順位をつけるなど、工夫が必要と思われる。

  第3に新しい仕組みに対して保健指導体制をどう構築していくか検討する必要がある。
健診後の事後指導とは異なり、特定保健指導の積極的支援は6カ月間継続する保健指導プログラムである。これまで経験していない仕組みだったので、今までになく難しい面があった。

  1年間を通して健診を行っている団体は、年度終了後にまとめて階層化し実施する場合もある。その場合、特定保健指導の終了が次年度以降という状況も多く、指導期間中に次年度の健診が実施されるケースも多くある。厚生労働省からは次の健診前に終了するよう指導があったが、簡単にいかない保険者の実情もある。その点をどのように調整し、マンパワーの問題も含めどう体制を整えていくか今後の課題となる。

  第4に保健指導の質の標準化の問題。特定保健指導を実施する保健師は、国が認定した保健指導実践者研修を受講することが推奨されている。しかし保健指導の質を保証するためにはその受講のみでは不十分である。そのため当協会では内部でOJTによる教育指導体制を整え、どの保健師が担当しても同質の指導ができるような体制をとった。

  また当協会は、産業医科大学の「保健指導の品質管理に関する研究」のモデル事業に参加し、品質管理委員会を立ち上げ、内部・外部監査を行い、質の向上に努めている。

  第5に被扶養者への対応である。当協会の保健相談事業は、職域での事業場で働く従業員つまり被保険者を対象としてきた。しかし今後は、被扶養者への取り組みも期待されてくるだろう。そこで被扶養者の働きかけやその対応をどうしていくかが課題となる。

今後に向けて

 厚生労働省から発表された21年度の結果によると、特定健診受診率は40・5%、特定保健指導の対象者の割合は18・5%、そのうち終了者は13・0%と報告されている。今後、受診率や特定保健指導実施率を高くする工夫が課題となる。また「厚生労働省・保険者による検討会」で、再委託・初回面接者と評価者の取り扱い・安衛法上の保健指導との連携・HbA1cの見直し・脱落者、服薬開始者への取り扱いなど、さまざまな対応を検討する事となっている。当協会としては、その準備をしている状況である。

  現場における実施担当者として、この制度によって生活習慣病予防の保健指導が実施できたことを協力団体に感謝するとともに、今後も医療保険者・事業場との連携の中で、効果的な方法を模索し、地道に継続していきたい。 
(健康かながわ2011年10月号)

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