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健康かながわ

 睡眠不足が続くと疲労が蓄積し、心身の健康障害や仕事の能率低下、ひいては重大な事故につながる…。職場のメンタルヘルスや労働生産性を充実させるうえで「睡眠」は重要なキーワードです。ただ、睡眠は自己管理に委ねられる側面が大きいため、職場で睡眠改善に取り組む動きは緒に就いたばかりといえます。
  産業医科大学医学部を卒業後、産業医科大学精神医学教室助教、米スタンフォード大学医学部精神医学睡眠センター客員助教などの経歴を持ち、不眠とうつ、運動と睡眠の関係などに詳しい新日本有限責任監査法人の産業医・征矢敦至(そや あつし)先生にお話を伺いました。

睡眠障害がもたらす経済的損失

  チェルノブイリ原発やスペースシャトル打ち上げ失敗などの大事故は、関わった人員の睡眠の問題が一因になったといわれます。個々の睡眠の質がヒューマンエラーを生む遠因と考えられているのです。

  ある試算では、アメリカの不眠治療にかかる直接コストは140億ドル、生産性低下などの間接コストは280億ドル。眠気に関連した事故による経済的損失は430~560億ドル。実に莫大な金額です。

午後2時~4時は「眠くなる時間帯」

 建設業などに従事する人では、仕事の合間の〝昼寝休憩〟が習慣になっていることも多くみられます。一日の睡眠―覚醒リズムでは、午後2時~4時が生理的に眠たくなる時間帯です。この間に15~30分程度の睡眠をとることで、集中力と生産性が向上すると指摘する研究者もいます。ただし、30分を超えて眠ってしまうと深い睡眠になってしまい、起きた後にボーッとしてしまったり、夜間の睡眠の質を落としてしまうので気をつけましょう。

〝ナイトキャップ〟百害あって一利なし

ぐっすり眠りたい。これは現代人の切実な願いかもしれません。眠るためにお酒を少し、という方もいらっしゃるでしょう。寝酒は寝付きを良くしてくれますが、深い睡眠=徐波睡眠(図1)をとるべき時間帯での睡眠を浅くしてしまいます。

  また、睡眠の途中でアルコール作用が切れたり、アルコールの利尿作用で中途覚醒につながり、こちらも深い睡眠の妨げになります。
  さらには、睡眠のためにアルコールを使用し続けていると、段々と必要な量が増えてきてしまい、アルコール依存症につながってしまうことがあります。まさに〝ナイトキャップ〟は百害あって一利なしです。
  規則正しい生活、適度な運動、上手なリラックスなどで睡眠をとりやすくしましょう。

睡眠「時間」も大切、睡眠「効率」も大切

 
  NHKが実施している国民生活時間調査では、働く人の平均睡眠時間は6時間55分でした(2010年)。この数字からは寝不足、不眠は想像できませんが、心理的によく眠れていない、よく眠りたいと感じている人が多いのも事実です。

  たくさん寝ようとすると早く布団・ベッドに入ろうと考えます。ただ、横になる時間が普段よりも早い場合はなかなか寝付かれないもの。睡眠効率(実際に眠っている時間÷布団に入っている時間)が低下してしまい、十分な睡眠時間がとれていても眠れていないと自覚したり、睡眠不足感が強く残ることになります。

  「眠くなったら横になる」くらいの気持ちでいるほうがいいでしょう。睡眠「時間」も大切ですが、睡眠「効率」も大切です。

睡眠不足が病気の引き金に

 昼間、急に眠くなって我慢ができないような場合には、睡眠時無呼吸症候群の可能性も考えておく必要があります。高血圧や糖尿病を併発することが多く、アメリカの男性糖尿病者の4%、25人に1人は睡眠時無呼吸症候群といわれています。

激しいいびき、睡眠中の呼吸停止などが特徴ですが、本人が自覚することは少ないため、家族の協力などで早期に発見し、適切な治療を受けることが求められます。
  日本睡眠学会の睡眠医療認定機関などで、適切な診断の機会が増えています。持続的気道内陽圧治療CPAP(シーパップ)は広く行われるようになりました。

  また、おおむね5~6時間の短い睡眠時間の人は、7~8時間睡眠の人と比べて高血圧や肥満、心筋梗塞、うつ病になるリスクが高まることが研究成果で明らかになっています(図2)

睡眠不足が病気の引き金に

 十分な睡眠がとれない日が続くとうつ症状が現れることがあります。睡眠障害はうつ病の94・1%にみられる最も一般的な症状であるといわれています。
  約4万人を対象としたフィンランドの研究では、睡眠が十分な人に比べて週5日不眠の人はうつになる確率が1・64倍、同2~4日の人は1・46倍となり、不眠はうつ発症の危険因子であると報告されています。

  日本でも2万4千人を対象に睡眠時間とうつ病をテーマにした研究が行われ、睡眠時間6時間未満または8時間以上は6~8時間睡眠者と比較して抑うつと関連していることが示されています。

抑うつ症状改善につながる運動

 最近では、運動が抑うつ症状や睡眠の改善に効果的であることがわかってきました。ジョギング、ランニングといった高強度の運動が効果的とされていますが、30~40分/回のウォーキングを週2回、12週間続けると抑うつ症状の改善がみられたという報告もあります。

  英国のNICEガイドラインでは、45~60分/回を週3回、10~14週間続けるプログラムが軽・中等度の抑うつ症状、または閾値以下抑うつ症状に対して推奨されています。

  「〝よい睡眠〟は働く人のパフォーマンスを上げるために必須なものです。メンタルヘルスとの関係も含め、産業現場における健康教育上、睡眠は大きなトピックスといえます。また、視点を変えて、よく眠れる人はどんな工夫をしているのか分析をして役立てるのもいいでしょう」と征矢先生。

(健康かながわ2012年8月号)

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